23 / 23
23(完) 母は碌でもない女だった、ただ
しおりを挟む
翌朝、この結末で良かったのか、とアリサに問うと、逆に彼女も私に問いかけてきた。
「夫人に直接一発入れてやりたかったんじゃないの?」
「そうね」
そう言ってから、私はううん、と首を横に振った。
「たぶん、誰かがやってくれて良かったのよ。だって私がどうこうしようと思ったなら、私、あのひとの顔に思いっきり傷をつけて放り出したいとか思ってしまってたかも」
たぶんそれができたなら。
そしてその時の反応が見れたなら。
それなら私はすっきりして、彼女をきっちり見捨てることができたのだと思う。
口では誰かがやってくれて良かったのだ、と言ってもそれはその方が騒ぎにならないとか、罪に問われないとかそういうことで。
私の気持ちはきっと納得したのだと思う。
だけどきっとアリサにはそれは理解できない。
彼女にとって母親の愛情はそもそも無かったのだから。
*
その後、私はスリール子爵家に正式に引き取られることになった。
夫人は、
「本当に孫と暮らせる日が来るなんて! もうあきらめていたのに!」
と抱きしめてくれるし、子爵も、
「おいおいでいいからお父様と呼んでくれると嬉しい」
と言っていたので。
「わかりましたお父様」
早々に言ったら顔が真っ赤になってその場で硬直してしまった。
そしてこうも言った。
「この歳まで結婚せずに来てしまったから、たぶんこの先も無いよ。だから君はこの家の唯一の若い女性として今まで苦労した分、少しくらい我が儘言っておくれ」
唯一の若い女性。
ふとそれを言われた時、母のこだわりが少し判った様な気もした。
「お父様、母はどんな家庭で育ったかご存じですか?」
「アルマヴィータ? そうだね。あのひとは殆ど自分の育った家庭のことは言わなかったな。……ああ、ただ、家族が多かったとは言っていたな」
「家族が多かった?」
「うん。きょうだいが多くてうんざりしていたと言っていた。そのくらいかな」
「他には? 両親とか」
「……聞いても全く答えてくれなかったね。きっと上手くいっていなかったんだろう」
やっぱり。
そんな気はしていた。
母は自分の家庭にうんざりしていたのだ。
おそらくは両親が嫌いで、多すぎるきょうだいの中で自分が埋もれてしまうのが嫌で。
だからこそ女としての自分一人がどんな形であれちやほやされる環境に居たかったのだろう。
かと言って、私に対してまでそれをヒステリックにぶつけるのは大人げないと思う。
ただ、そうできたということは、母もそういう扱いを受けていたのかもしれない。
アリサが両親揃った家庭の形がよく判らない様に、母もまた、何か欠けた家に育ったのかもしれない。
そして自分自身、それがやはり上手く作れなかった。
けど同情はしない。
私は確実にそれで傷ついたし悩んだ。
今だって、もしかしたら、なんて心の何処かで捨てきれない。
いちいち心に刺さった棘がうずく。
だけどこれからは棘を内側から押し出すくらいに充実した生活を送ろう。
母は碌でもない女だった。
ただ私の父にこのひとを選んだのだけは正解だった。
私はこの先、幸せになる。
何が何でも。
「夫人に直接一発入れてやりたかったんじゃないの?」
「そうね」
そう言ってから、私はううん、と首を横に振った。
「たぶん、誰かがやってくれて良かったのよ。だって私がどうこうしようと思ったなら、私、あのひとの顔に思いっきり傷をつけて放り出したいとか思ってしまってたかも」
たぶんそれができたなら。
そしてその時の反応が見れたなら。
それなら私はすっきりして、彼女をきっちり見捨てることができたのだと思う。
口では誰かがやってくれて良かったのだ、と言ってもそれはその方が騒ぎにならないとか、罪に問われないとかそういうことで。
私の気持ちはきっと納得したのだと思う。
だけどきっとアリサにはそれは理解できない。
彼女にとって母親の愛情はそもそも無かったのだから。
*
その後、私はスリール子爵家に正式に引き取られることになった。
夫人は、
「本当に孫と暮らせる日が来るなんて! もうあきらめていたのに!」
と抱きしめてくれるし、子爵も、
「おいおいでいいからお父様と呼んでくれると嬉しい」
と言っていたので。
「わかりましたお父様」
早々に言ったら顔が真っ赤になってその場で硬直してしまった。
そしてこうも言った。
「この歳まで結婚せずに来てしまったから、たぶんこの先も無いよ。だから君はこの家の唯一の若い女性として今まで苦労した分、少しくらい我が儘言っておくれ」
唯一の若い女性。
ふとそれを言われた時、母のこだわりが少し判った様な気もした。
「お父様、母はどんな家庭で育ったかご存じですか?」
「アルマヴィータ? そうだね。あのひとは殆ど自分の育った家庭のことは言わなかったな。……ああ、ただ、家族が多かったとは言っていたな」
「家族が多かった?」
「うん。きょうだいが多くてうんざりしていたと言っていた。そのくらいかな」
「他には? 両親とか」
「……聞いても全く答えてくれなかったね。きっと上手くいっていなかったんだろう」
やっぱり。
そんな気はしていた。
母は自分の家庭にうんざりしていたのだ。
おそらくは両親が嫌いで、多すぎるきょうだいの中で自分が埋もれてしまうのが嫌で。
だからこそ女としての自分一人がどんな形であれちやほやされる環境に居たかったのだろう。
かと言って、私に対してまでそれをヒステリックにぶつけるのは大人げないと思う。
ただ、そうできたということは、母もそういう扱いを受けていたのかもしれない。
アリサが両親揃った家庭の形がよく判らない様に、母もまた、何か欠けた家に育ったのかもしれない。
そして自分自身、それがやはり上手く作れなかった。
けど同情はしない。
私は確実にそれで傷ついたし悩んだ。
今だって、もしかしたら、なんて心の何処かで捨てきれない。
いちいち心に刺さった棘がうずく。
だけどこれからは棘を内側から押し出すくらいに充実した生活を送ろう。
母は碌でもない女だった。
ただ私の父にこのひとを選んだのだけは正解だった。
私はこの先、幸せになる。
何が何でも。
51
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
妹のために犠牲になることを姉だから仕方ないで片付けないでください。
木山楽斗
恋愛
妹のリオーラは、幼い頃は病弱であった。両親はそんな妹を心配して、いつも甘やかしていた。
それはリオーラが健康体になってからも、続いていた。お医者様の言葉も聞かず、リオーラは病弱であると思い込んでいるのだ。
リオーラは、姉である私のことを侮っていた。
彼女は両親にわがままを言い、犠牲になるのはいつも私だった。妹はいつしか、私を苦しめることに重きを置くようになっていたのだ。
ある時私は、妹のわがままによって舞踏会に無理な日程で参加することになった。
そこで私は、クロード殿下と出会う。彼との出会いは、私の現状を変えていくことになるのだった。
生まれたことが間違いとまで言っておいて、今更擦り寄ろうなんて許される訳ないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
伯父である子爵の元で、ルシェーラは苦しい生活を送っていた。
父親が不明の子ということもあって、彼女は伯母やいとこの令嬢から虐げられて、生きてきたのだ。
ルシェーラの唯一の味方は、子爵令息であるロナードだけだった。彼は家族の非道に心を痛めており、ルシェーラのことを気遣っていた。
そんな彼が子爵家を継ぐまで、自身の生活は変わらない。ルシェーラはずっとそう思っていた。
しかしある時、彼女が亡き王弟の娘であることが判明する。王位継承戦において負けて命を落とした彼は、ルシェーラを忘れ形見として残していたのだ。
王家の方針が当時とは変わったこともあって、ルシェーラは王族の一員として認められることになった。
すると彼女の周りで変化が起こった。今まで自分を虐げていた伯父や伯母やいとこの令嬢が、態度を一変させたのである。
それはルシェーラにとって、到底許せることではなかった。彼女は王家に子爵家であった今までのことを告げて、然るべき罰を与えるのだった。
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
義妹がいつの間にか婚約者に躾けられていた件について抗議させてください
Ruhuna
ファンタジー
義妹の印象
・我儘
・自己中心
・人のものを盗る
・楽観的
・・・・だったはず。
気付いたら義妹は人が変わったように大人しくなっていました。
義妹のことに関して抗議したいことがあります。義妹の婚約者殿。
*大公殿下に結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい、の最後に登場したアマリリスのお話になります。
この作品だけでも楽しめますが、ぜひ前作もお読みいただければ嬉しいです。
4/22 完結予定
〜attention〜
*誤字脱字は気をつけておりますが、見落としがある場合もあります。どうか寛大なお心でお読み下さい
*話の矛盾点など多々あると思います。ゆるふわ設定ですのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
もうね、植民地時代の宗主国の空気とかその国にやって来る異国の人々特に留学するマッハラジャの子弟の風聞とかわーっと走り回りたくなるほどあの時代だー!
単純に見える「家族」「親」「子」と言う言葉が見事に登場人物ごとに定義のずれが有ってミラーボールにあたる光の角度によって世界の様相が違ってゆく。読み応えがあって楽しかったです。未だ違う面から掘れそうですよね。楽しみにしております。
こちらも感想ありがとうございました♪
アリサとミュゼットの書き分けがもう少しできたらと思ったのですが、楽しんでいただき何よりです。
別視点は(^^;)なかなかやり出すと収拾つかなくなりそうなんでまたそのうちに!