精霊の愛の歌

黄金 

文字の大きさ
22 / 31

22 帰りました

しおりを挟む

 しっかりと抱き込まれてドスンと床に落ちたのが分かった。
 金の泰子のおかげで全く痛くない。

 ガバッと金の泰子が身体を離して私の身体を確認した。

「怪我はないか?」

「あ、はい、おかげさまで。」

 コロンと床に転がったまま辺りを見回すと、落人として落ちた時のままのメンバーが揃っていた。
 向こうにいた時間も短かったし、こっちも大した時間が経っていないのかもしれない。
 金の泰子が手を出してくるので掴まると、軽々と抱き上げられた。

「ジオーネル!!!」

 涙でびしょ濡れのジェセーゼ兄上が抱きついて来た。

「金の泰子が黒髪抱き締めてたから、まだ黒の巫女を選んだのかと思ってびっくりしたぞ!?」

「え?黒髪のままですか?」

 てっきりこちらに来たら元通り白髪に戻っているものと思い込んでいた。

「一度落ちて向こうの理に染まった人間を連れて来たから、そのままの姿になるのじゃ。」

 金の精霊王が説明したが、未だに緑の蔓でぐるぐる巻きにされていた。
 緑の精霊王は床に刺さっていた金属の杭をスポッと引き抜いていた。金の縄も回収し、しっかりと招霊門を閉める。
 緑の精霊王の袂から細い銀の蛇がスルスルと出てくる。
 うーんと身体をめいいっぱい伸ばして何とか此方に来ようとする姿が可愛くて、笑って手を差し出した。
 手に乗りスルスルと上がって腕に巻きついて落ち着いた。
 もしかして銀の精霊王?

「銀の精霊王はしばらく精霊力を溜めないと人型に戻れなさそうなんだ。また歌を聞かせてやってくれよ。」

 霊薬紫の腐花を浴びて精霊力が落ちたのかもしれない。
 頑張って毎夜歌ってはいたが、三本も翼が渡してきたので、銀の精霊王に負担が掛かったのだろうと申し訳なく思った。

「我の髪をあげるのにぃ~~。」

 情けなく金の精霊王が踠くが、緑の蔓は容赦なく締め上げていた。
 金と銀の関係って………。いや、緑の精霊王との力関係が分からない。

「すまねーが暫く銀は預かっておいてくれ。愁寧湖に戻すと金がちょっかい掛けかねねぇ。」

 そう言って先程回収した金の縄をくれた。
 何だろうこれ?
 さっき帰ってくる時に金の泰子が握ってはいたけど。

「はい、それは構いませんが、青の泰子は大丈夫でしょうか?」

 翼がかなり危ないセリフを吐いていた。

「青の精霊王が見てる。回復は~~まぁ、分からん。」

 私が金の泰子にやったように精霊の力を借りて出来ないだろうか?
 聞いてみたがダメらしい。
 霊薬の効果が抜けても精霊力と精神力、体力全てが低下して、生きる力が無くなっているそうだ。
 金の泰子はまだ初期段階で霊薬を抜けば後は自力回復するくらいだったから良かったらしい。
 青の泰子は青泰家で精霊の力を借りて眠っているそうだ。

「青の精霊王も青泰家が潰れれば困るんだ。必ず助けるだろうよ。」

 それよりも、と緑の精霊王はニヤリと笑った。

「お前たちは選霊の儀の途中だろう。金が邪魔して悪かったな。お前達に祝福をやろう。」

 緑の精霊王が右手を広げると、鮮やかな緑の低木が出来た。花を咲かせ実をつけると一人一人にその実を与えた。

「ま、産まれる子の色が良くなるっていうだけの簡単な祝福だけどな。銀玲、お前は今から白の巫女ではなく黒髪黒眼の黒の巫女になった。頑張れよっ。」

 そう言って縛った金の精霊王を連れたまま消えてしまった。
 風の様に爽やかな方だ。
 金の精霊王様も人外の王者然として敬っていたけど、最近分からなくなってきた。

「すまない、ジオーネル。少し話しを良いだろうか。」

 ジェセーゼ兄上が猫目を釣り上げて睨みつけていたが、緑の泰子がどうどうと止めていた。

「はい。私もぜひお話しをさせて下さい。」

 手を振る緑の泰子とジェセーゼ兄上に見送られ、帰り出す人々の波から外れて、いつか金の泰子が歌っていた談話室に辿り着いた。
 畳敷の部屋で窓の外に格子が付いた部屋だ。部屋の外には池があり、草むらの中で私はメソメソと泣いていた。
 まさか私に見られているとは思わないだろう。

「他にいい場所が思い付かず此処に来たが、良かっただろうか?」

 昔覗き見しましたとは言えないので、黙って頷いた。
 金の泰子としては普段から使い慣れた部屋に来ただけなんだろう。
 こんな時に気の利いた場所へ案内出来るような人なら、翼にいい様に騙されるとは思えない。

 金の泰子は私の手を引いて窓辺に有る座布団へ座らせた。
 いつもこの座布団を使ってるのかな……。ちょっと興奮。

「まず謝らせて欲しい。ジオーネルの言い分を信じず、嘘に騙されて酷い事を言ってしまった。申し訳ない。」

 金の泰子は私の手を握ったまま目を伏せた。

「いいえ、私も早く自分が銀玲だと伝えてれば良かったのです。ジオーネルとしての印象とか制約とか色々言い訳ぜずに正直に伝えれば、もっと早く解決出来た事もあったはずです。私もそれを謝ろうと思っていました。」

 私は金の泰子の金銀の眼を真っ直ぐに見て言った。
 ずっと銀玲と気付いて欲しいと思いながら、気付いて貰えるよう動いていなかったのは自分だ。
 ジェセーゼ兄上には甘いと言われそうだが、金の泰子ばかりが悪かったと思っていない。

「そうか、君は優しいな。ありがとう。」

 金の泰子はお礼を言って一度目を閉じてから、視線を上げた。
 左の金眼と右の銀眼が瞬く様に輝き、私の黒眼をじっと見つめる。
 
「いえ、そんな……。」

 あまりにもじっと見つめられるので、気恥ずかしさに視線を逸らしてはチラチラと見てしまう。
 チラリと見ては眼が合うので、ずっと見られているのが分かった。
 何やら恥ずかしくて誤魔化す様に笑うと、金の泰子も微笑んでくれた。
 そんな可愛い顔でも無いのに、そんな笑顔で見つめないで欲しい。
 恥ずかしすぎる。



 恥ずかしそうに頬を染めて笑うジオーネルを金の泰子はずっと見つめていた。
 何故もっと早く気付けなかったのかと後悔ばかりだ。
 髪が黒髪になったせいか、肌の色白さが更に際立ち、耳から首元まで晒された素肌から眼が離せずにいる。
 よく手入れしていたのが分かるほど、きめ細かい肌は月の光に映えて美しい。

 早く触りたい。
 黒髪を梳いて、頭を押さえ込んでその瞳に私しか映さないよう縛り付けてしまいたい。
 服を脱がし、白い肌を早く堪能したい。
 口付けを………、と思ったが翼との情事を思い出し止めておいた。
 まずはこの身を清めなければ……。
 ジオーネルが少しでも穢れてはいけない。
 だが、これだけはやっておかねば安心出来ない。
 本当は直ぐにでも金泰家に連れ帰ってしまいたいのだが。
 嫌われたく無いのでそこは抑えて、約束を取り付けて離れない様にしなければ。

「緑の精霊王も言っていたが選霊の儀はまだ続いている。選霊の儀ではジオーネルを選びたい。」

 ジオーネルは眼を見開いて、かあぁ~と真っ赤な顔をした。
 モジモジと眼が潤み出す。
 眼の奥に銀の光がフワフワと浮いて、感情の昂りが見てわかる。
 好感触に内心ニヤけながら、どうか受けて欲しいと握った手に力を入れる。

「は、はい、よろしくお願いします。」

 細い目と眉毛をふにゃりと垂れ下げて、嬉しそうに了承してくれた。

 ……………うん、いい。



   







しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

処理中です...