転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

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 闇がどこまで続いているのか誰も知らない。
 銀狼がいると妖魔は近付いて来なくなる。
 形を保てない弱い妖魔ほど、姿を隠す。
 だが形ある妖魔は襲いかかってくる。数は少ないが、それらは強い。

 四足歩行に光る目を持つ妖魔が襲いかかってくるのを防ぎつつ、呂佳達は進んでいた。
 数としては全体でも百程度。
 ほぼ神獣さえいれば戦闘能力的には大丈夫なので、ついてくる者達の腕は立つが補佐的な立場になる。

 

「そう、ゆっくりと自分の神力に変換するんです。間違っても直接取り込んではいけませんよ。」

 今雪代が手に持っているのは、朝露が残した髪の毛の束だ。長い金の髪は綺麗に括られている。
 この髪と尻尾をどうしたら良いのか、雪代は呂佳に相談に来ていた。
 雪代にとって一番相談しやすいのは呂佳だ。神獣の中では青龍空凪が一番話しやすいが、神力の使い方を習いに行けるほど打ち解けてはいない。
 相談しに行くというと、万歩もついて来た。

 呂佳はせっかく朝露がくれたのだから、自分の中に取り込んで活用して良いと言った。
 那々瓊が「それは、呂佳の…!」と口を挟もうとしたのでペチンと額を叩いて黙らせた。
 朝露の身体は元々珀奥の尻尾から出来ていたので、朝露が渡した髪と尻尾は珀奥の神力とも言える。
 那々瓊は不満顔だったが、呂佳は雪代が取り込んで良いと思っている。
 何より朝露は万歩を守る雪代に役立てて欲しいと思って渡した筈なのだ。
 お別れの挨拶さえせずに行ってしまった幼馴染の気持ちを無駄にはしたくなかった。

 雪代はまず髪から取り掛かった。
 雪代も元々自身の神力が強い所為か、幼少期もあまり大人から神力を貰ったことが無いと言っていた。貰わずとも自分の神力で成長出来たのだという。
 以前褒美として天凪から神力を貰ったが、その時は久しぶりにもらった神力に酔って、自分の中に取り込むのに苦労したと言っていた。

 自分の中に他人の神力を入れるには、まず神力の質を変えて取り込む必要がある。
 朝露の場合は珀奥の身体が元から神力に強く耐性があったので難なく取り込んでいたが、雪代は慣れていなかった。

 むむむむむ、と顔を強張らせて雪代が格闘しているのを、隣で万歩は真剣に応援している。
 呂佳から見ると若い二人のそんな様子は微笑ましい。
 しかし那々瓊は仏頂面だ。
 綺麗な顔がムスーとしている。

「那々、口出しは不要です。」

「……………。」

 部隊を率いている那々瓊は勇ましく凛としてカッコいいのに、呂佳の側に来ると非常に幼くなる。
 親に甘える子供だ。
 ようやく会えたのは呂佳も同じなので、気が済むまで甘えさせているのだが、ダメなものはダメだと強く言う時は言わねばならない。

 そんな那々瓊の様子など気にせず二人は真剣に取り組んでいた。

「………む~~~~っ、ぷはぁっ!出来た!」

 雪代の中に髪の毛に入っていた神力が漸く移った。
 金の髪は力を無くし、ポロポロと紙切れの様に崩れて消えてしまった。
 
「あ~~~、無くなるんだ?」

 万歩が消えた髪を見て残念そうに言った。

「そうだな。なんか勿体無いよな。尻尾は取っとくか?朝露の遺品っぽいけど。」

 那々瓊がハッと口を開く。

「要らないなら私に下さい。」

 二人はえ?何で?と驚いている。
 それはそうだろう。万歩も雪代も呂佳が元珀奥だとまだ知らない。特に言う必要性も感じなかったので言っていない。
 那々瓊からすれば金の尻尾は珀奥を甦らせる為に、金の枝にする材料として永然に渡してしまった。ずっと一緒に育ち大切にしていた尻尾だったのだ。
 取り戻せるなら取り戻したかった。

「ダメですよ。その尻尾は雪代が取り込むのが一番でしょう。その為に朝露は渡したのですから。下手にそんな神力が入った物を持ち歩くのも危険ですので、取り込んでしまいましょう。」

 もし神力欲しさに悪い者に目をつけられても困る。
 雪代は見目も綺麗なので特に危険だ。

「んーでも………。」

 雪代は朝露が万歩と呂佳の幼馴染だと聞いているので、残してあげた方がいいと思っている様だ。

「いいよ、雪代の中にあると思えばいいんだし。」

 万歩が雪代にそう言って、取り込む様促した。
 二人は今立っているのだが、万歩の方が背が高く体格が良くなっていた。
 雪代は今二十歳なのだが、どうやら適齢期が早かったらしく既に成長が止まっている。
 その所為か、背中に背負う長剣が未だに大きく見えた。
 見た目は十代後半だ。
 まだ幼さは顔に出ているが、十五歳の万歩の方が大きかった。
 万歩が持つ聖剣月聖は腰に下げられている。
 
 雪代は分かったと頷いて、金の尻尾の神力を取り込み出した。
 那々瓊が残念そうに、あ~~~と言っている。

 暫くして取り込み終えると、金の尻尾もパラパラと溶ける様に消えてしまった。
 雪代の見た目は変わらないが、神力が増えた事により瞳の中の金色が増し、瞳が動くたびに宝石のように煌めいていた。

「はい、これで終了です。朝露はもういませんから大丈夫ですが、雪代は那々瓊から神力を貰ってはいけませんよ。」

 呂佳が補足して注意した。
 万歩と雪代は不思議そうだ。

「え?なんで那々瓊様?」

「朝露と那々瓊の神力はとても似ています。万が一取り込んだら神獣ですし量が多く濃いものになります。変換が間に合わず直接体内に神力が流れてしまいます。そうなるとどうなると思いますか?」

 雪代がうーんと考えて答えた。

「あれか?傀儡化するって事?」

「そうです。一度取り込んだ神力は取り込みやすく身体を流れやすい。なので危険ですから那々瓊のは駄目です。同じ理由で天凪のも駄目ですよ。それから万歩は天凪に育てられたので、万歩は天凪には貰っても平気です。」

 二人はそうなんだ~と感心して聞いている。応龍が銀狼を育てる理由は、銀狼が神浄外の為に討伐に出るよう従えさせる為もある。
 逆らう銀狼が今迄いなかったので、討伐を強要した事はないが、もしもの場合の布石でもあった。だが銀狼である万歩に、これは言える内容ではない。
 
 話を変える為に、それと…と続ける。

「え、なに?なんかまだある?」

 雪代が慌てて聞くと、呂佳は首を振った。

「いえ、教える時に雪代の神力を見たのですが、なかなか味わい深いと思いまして。」

 ほんの少し触った程度だったのだが、味があるように感じる神力は珍しかった。

「味?雪代の神力って味がすんの?」

 万歩は基本幼少期は天凪にしか神力を貰わなかった。銀狼は生まれながらに神力が多いが、その身体も特別だ。十分に強く育つ為には神獣の神力を分けてもらうしかなく、キスは嫌だと断固拒否して、天凪から握手で貰い続けていた。
 それも漸く成人と共に終了して、ホッとしている。

「へー俺の神力って味すんの?」

 雪代も面白そうに自分の身体を見ている。
 
「ええ、機会があれば、神力を渡した者に聞いてみるといいですよ。」

 呂佳としては将来神力を渡し合う様な、仲の良い者が出来たら聞いてみて下さいと言うつもりで言った。
 
「さ、こんなに暗いと夜かどうかも分かりませんね。朝の為に寝ましょうか。」

 今は夜の休暇に入っていた。
 那々瓊が二人用の天幕を持って来たので、呂佳達はそこに帰って行った。



「な、な、味見してみたい。」

 雪代は固まった。
 万歩が味見したいと言うのは、自分の神力だと理解したからだが、万歩はその意味を理解していないと思ったからだ。

「え………。」

「ダメなん?ちょっとくらい良いじゃん。」

 雪代は少し迷って手を出した。

「少しだけな。」

 万歩は迷いなく雪代の手を握った。
 ふわっと雪代の身体から万歩の方へ神力が流れてくる。
 万歩に入ってくる神力は、暖かく甘かった。

「んっ!甘い!」

 そのままの感想を万歩は言う。

「甘いのか?」

「うん、無茶苦茶甘い。砂糖菓子みてー。」

 神浄外には甘味が少ない。クリームやケーキといった洋菓子は特に無い。なので雪代の甘い神力は美味しく感じた。
 ペロリと万歩が唇を舐める。

「もうとょっと。」

 雪代の手を引いて背中に背負う長剣ごと身体を抱き込み、ぎゅうっと力を入れた。
 甘い神力は更に暖かさと甘さを増して、万歩を包み込む。
 腕の中の細い身体が硬直して固まっているが、気にせず暫く抱きついていた。
 万歩に触れる存在はこの神浄外には少ない。
 銀狼は異界の魂だ。異界の存在はこの神浄外の者に違和感を与えるらしく、仲良く喋るとこまではいくのだが、それ以上親しくなる存在はいない。
 友達かな?と言う程度は出来ても、触れ合う存在などいないのだ。
 呂佳を除けば雪代以外は。

 人の身体は暖かい。
 生きている温もりと甘い神力が心地よかった。
 下を見下ろすと雪代は固まり続けていた。
 金茶の毛が混じる白い耳がヘニョリと落ちている。白い頬は真っ赤だ。
 最近の雪代は感情を表に出さないので新鮮に写った。
 万歩は少しだけ悲しい瞳で、その白い耳に頬をつけ、雪代の神力を味わった。
 
 いつからだろう。
 この神浄外で雪代の存在を頼りにする様になったのは。
 初恋の呂佳ではなく、雪代が側にきて楽しく感じる様になったのは。
 雪代は五つ歳上なのに話し易くて友達だと思ってたのに、綺麗な顔が笑う度に安心出来た。
 一人じゃないと、きっと五十年の寿命まで一緒にいてくれると…。
 
 自分が死んだら雪代は誰かと伴侶になるかもと思う様になったら、それはそれでモヤモヤとする様になった。
 俺は伴侶を作るつもりはない。
 だって伴侶を作れば自然と子供をって流れになるだろうし、子供を作らないと言ったら相手に対して可哀想だ。
 
 雪代も伴侶と子供作るのかな…。
 俺以外の誰かと。
 見たくないな…。
 どうせなら、俺がなれればよかったなぁ。






 呂佳と那々瓊が戻った天幕は、木枠で出来た折り畳み式の支柱に布を被せるだけの、持ち運びしやすい簡易的な物なので、二人で入ると寝るだけのスペースしかない。
 その中で呂佳は那々瓊にお説教をする。最近の恒例だ。
 こんなに注意してはダメだとは思うのだが、ついつい我が子にはちゃんとして欲しいと思うと怒ってしまう。
 
「あれはもう朝露の物でしたし、それは雪代に渡されたのです。横から取るような態度はダメですよ。」

「分かってるよ。」

 那々は反抗はしないのだが、あまり反省もしない。
 分かったとは言うが、次もあまり変わらない事が多かった。
 既に那々は大人。
 こうやって歳若く見える呂佳の話しを黙って聞くだけ性格は良いのだとは思っている。

「はぁ、すみません。ついつい私も口出しし過ぎですね。那々はもう子供では無いのに……。」

 偉そうに言ってしまうが、呂佳だって子育てなんてした事はない。家族がどんなものかさえ理解はしていないのだ。

「うん、いいよ。だって呂佳は私の事を思って言ってくれてるんだから。」

 ニコニコと笑う那々瓊は、やはり大人なのだろうと思ってしまう。

「明日も早いので寝ましょうか。」

 荷物を減らす為に布団は無い。
 敷物を敷いてそこに雑魚寝になるのだが、呂佳が寝転がると那々瓊はいそいそと隣に寝転がってきた。
 呂佳を抱き込んで寝る態勢に入る。
 那々瓊が着ている長衣が掛け布団代わりに呂佳に被さった。
 モゾモゾと中で動いているのは那々瓊の手だ。

「……………んっ。」

 那々瓊の頭は今、呂佳の胸に沈んでいる。
 最初の頃はお願いと悲しげに言われて、しょうがなく頷いていたが、今では許可無しで毎日この行為に及んでいる。

 ペロリと生温く柔らかい感触が舐めてくる。ぢゅう、と先端を吸われて思わず吐息を漏らしてしまった。
 反対側はフニフニと揉んだり、キュッと摘んだりして遊んでいる。

「……はぁ………、那々、そのぅ…どうしてもコレは毎日しないとダメですか?」

 那々瓊は毎日寝る時は呂佳の乳首を吸っていた。最初は拒否していたが、涙を溜めて懇願され、悲し気な顔に負けて許可してしまった。
 それからは毎日だ。
 乳首を吸う為という謎の理由で、呂佳の寝室は那々瓊と一緒になってしまった。
 そして今、こんな妖魔が蔓延る闇の世界でも、態々天幕を持参してまでしなければならないのか疑問だ。
 毎日吸われたり噛まれたりしている所為か、自分の乳首が大きくなってきた気がして少し怖い。

「美味しいよ?」

 瑠璃色の瞳が見上げくる。
 呂佳はこの瞳に見られると弱かった。
 那々瓊の大きな手が呂佳の服の中を弄り、下着の中に入り込んでくる。
 乳首を吸いながら下も触られるので、最近の呂佳は条件反射で反応する様になった。完全に勃ち上がっているのだ。
 非常にマズい気がする。
 直に陰茎を触られ擦られると、快感に震えて胸に埋まる那々瓊の金の頭を抱え込んだ。

「んん………あ、ダメ…。」

 先っぽをグリグリされると気持ち良すぎて腰が揺れてしまう。
 腰紐を解かれ、ぷるんと出されてしまい、呂佳はああ、またこの行為をするのかと熱が上がる。
 
 最初那々瓊にされた時、あまりの事に動けなかった。衝撃を受け過ぎたのだ。
 呂佳の陰茎を那々瓊が咥えて扱いたり吸われたりすると、腰が抜けて快楽のままに射精してしまった。那々瓊の口の中に。しかもゴクンと飲まれてしまった時、呂佳は気絶するかと思った。
 那々瓊は美味しいと言い、呂佳の神力がいっぱい入ってて嬉しいとまで言った。
 そして呂佳にも自分のを飲んで欲しいとお願いしてきた。
 嫌がると涙を浮かべて自分の神力は受け取りたくないのかと嘆かれて、そんなわけないと否定すれば、じゃあ飲んでと要求された。


 ゴクンという嚥下する音で快感から浮上する。

「次は呂佳の番だよ。」

 那々瓊の精は多い。しかも出すのが長いので飲むのが大変だ。
 ウッとなりながらも呂佳は座り直した那々瓊の腰紐を解いた。
 自分のより大きい陰茎にはいつも怯んでしまうが、口を開けて咥え込む。
 那々瓊が呂佳の頭を愛おしそうに撫でて、はぁはぁと荒く息を吐いていた。
 黒耳をあまり撫でられると力が抜けるので止めて欲しい。
 
「…ん、ん。」

 じゅぼじゅぼと音を立てて唇や上顎で扱いていく。硬さを増して太くなるので咥えるのが大変だ。
 
「はぁはぁ、呂佳っ、気持ち良い………。あ、ろっか、ろっか、可愛いっっ!」

 だんだん興奮してきた那々瓊は呂佳の頭を押さえ込む。

「んぶっ!」

 喉の奥に那々瓊の陰茎の先が押し込まれ、嘔吐えずいてしまうが、後頭部を抑えられているので喉奥に押し込まれたままだ。
 那々瓊の服にしがみつき、少し緩めてもらおうと見上げると、瑠璃色の瞳は興奮で見開いていて怖かった。

 あ、ダメそうです……。

 諦めたら喉の奥を犯すように揺らしてきた。

「……んっ!んぶっ、………んー!ん゛ん゛ーーっ!」

 喉で陰茎を扱かれ涎が溢れ鼻水が出て息が苦しい。
 尻尾を掴まれお尻を上げるように引っ張り、なんでか那々瓊には尻尾の先を咥えられてしゃぶられてしまった。
 
「あぁ、きもち……、はぁ…はぁ…尻尾美味しいよ、呂佳。可愛い、好きっすきっ。」

 何か鼻息荒く言っているが呂佳は苦しくてそれどころじゃない。
 苦しいのか気持ち良いのか分からない。
 長かったのか短かったのか分からないが、喉にゴポリと熱い液が溢れた。
 喉の奥に挿入されたまま射精されたのだと理解は出来るが、口は塞がれているし量が多いので鼻から出てきたし、兎に角苦しい。
 出し終わって大きな陰茎がずるっと口から抜けて、漸く咳き込む。

「ぐっ!ゲホッゴホゴホっっ!」

 白濁を吐き出しかけたが、零せば敷物が汚れるので我慢して飲み込む。殆どは胃の中に流れていった。那々瓊の神力が豊富に混じっているのでお腹の中が暖かくなる。

「ごめんね、興奮しちゃった。ああ、ほら水はあまりないからちゃんと飲んでしまってね。汚れちゃうから。」

 そう言って口から垂れる那々瓊の精を、指で掬って口の中に戻された。
 無理言うなと思うが脱力してしまって、文句を言う気力も失せた。
 ゴロリと倒れて那々瓊を見上げると、嬉しそうな顔の我が子と目が合う。
 ニコニコと幸せそうだ。
 苦しくて出た涙と鼻水は、那々瓊が舐め取ってしまった。汚くないのだろうか。
 
「…………ケホッ……、親子って……こんな事しませんよね……?」

 何度目かの質問を繰り返す。

「え?人それぞれだよ?私達は長く一緒にいられなかったんだから、しようよ!」

 ニコニコ、ニコニコ。
 鈍い呂佳も流石にもう気付いているが、那々には弱かった。
 こんなに神力をやり取りするのは伴侶同士くらいだ。

 那々は僕と伴侶同士そういう関係になりたいのでしょうか……。

 ウトウトと瞼が落ちてくる。那々瓊の神力が身体の中を巡りポカポカと温かい。

「…おやすみなさい。那々……。」

「うん、おやすみ。呂佳。」

 


 完全に瞼が落ちてスースーと寝息を立て出すと、上に着ていた長衣を脱いで呂佳にかけ、那々瓊は天幕から這い出た。

「そこまでやる必要あるのか?」

 少し離れた位置から声が掛かる。
 
「あるよ。呂佳の中に私の神力を入れ込んでおかなければ。」

 近付いて来ながら空凪はふうっと溜息を吐いた。
 呂佳の中に自分の神力を満たしておかなければ不安でしょうがない。
 ずっと暗闇から見ている目に、呂佳が連れ去られそうで怖い。

「やり過ぎて嫌がられるぞ。」

 そう言いながらも皮袋を渡して来た。中にはたっぷりと水が入っている。
 空凪は応龍と同じ枝から生まれた神獣だからか、応龍と同じく水が得意だった。

「流石、空凪。ありがとう。」

 受け取りながら那々瓊はにっこりと笑う。
 
「俺も用心はしておこう。」

 二人とも気付いていた。
 闇の中に入ってから、ずっと視線を感じる。
 敵意はない。
 ただ呂佳を見ている目がある。
 それが呂佳の言う前青龍宙重なのだとしたら、呂佳を渡すわけにはいかない。
 
「呂佳は私のもの。」
 
 瑠璃色の瞳に冷え冷えとした光が宿る。
 空凪はそんな那々瓊の様子に、麒麟は龍より執着が酷いなと、また溜息を吐いた。







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