転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

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39 鳳凰と朱雀

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 暗闇の中では進む速度は非常にゆっくりだ。
 霊亀と玄武が険悪な雰囲気を醸し出す中、聖苺は朱雀紅麗を伴い、永然達の少し後をついて歩いていた。
 馬やトカゲは闇の中に入れないので、神浄外の中に置いてきている。
 だから皆、荷物を持って徒歩になる。

「紅麗、君も自分の分くらい持てば?」
 
 聖苺から注意をされるが、態々自分専用の共を連れて来た紅麗は、彼等に荷物を全て持たせていた。
 不必要な程の衣類や、傷みやすい食べ物まで持って来ていて、置いて行かせようとしたが怒り出したので諦めた。


 鳳凰聖苺と朱雀紅麗は同じ鳥族だ。
 鳥族は弱い。
 しかも鳥といいながら、羽は退化して飛べない者が殆どだ。
 鳥族は他の種族に負ける。
 だからより強い者を求めた。
 その象徴として羽を取り戻そうと考え、それを考えた学者達は、退化した生殖能力を戻そうと考えた。

 神浄外には様々な種族がいる。
 大きく分けると獣人、龍人、鳥人の三つ。
 各種人には様々な種族が存在しており、その昔はその種族ごとで体内を使って繁殖していたと言われている。
 だが神浄外の中で種族ごとに繁殖していても数に限りがあり、消えゆく種族も存在した。
 長い時間を掛けて、繁殖方法は進化し、神獣達の意思で生命樹という他の媒体を使って子孫を作るようになった。神獣達の誕生が元々生命樹からだったので、神浄外の住人達もそうして種族の垣根を無くせば、繁殖し人も増えていくと考えたのだ。
 これによって種族という概念はなくなり、どの種族同士でも伴侶を作り子孫を儲けるようになっていった。
 その代わり、種族特有の特徴が失われていったのは、それから数千年経ってからだった。
 鳥と龍は羽を無くした。
 獣は体毛が薄くなり耳と尻尾を残すだけになった。
 蛇や亀、蜥蜴、魚人などの種族は減少の一途を辿り、今や霊亀領に細々と暮らしている。
 種族特有の神獣に進化する程の神力を持つ者も生まれなくなり、神力は衰えていった。
 特に鳥族は退化が激しかった。
 羽も無くなり神力も弱い。
 神力が弱いから寿命も短い。
 だからその力を、羽を、取り戻そうと躍起になった。

 鳳凰聖苺は鳥族の女の腹から産まれた。
 腹の中の卵は大きくなり、母親を割って出てきた。
 昔は股の間から産まれたらしいが、進化と共に卵の大きさが大きくなり、股から出れる大きさではなくなっていた。
 聖苺の母親は聖苺を産むことによって死んでしまった。
 久しく母胎から産まれることのなかった子供の誕生。しかも卵から孵ると羽が生えていた。豊富な神力に鳥達は大喜びした。
 良かった、朱雀の身体を使ったから成功した!
 そう喜んだ。
 
 聖苺の母親は当時の朱雀だった。
 神獣も巻き込んで鳥人に羽を生やそうと躍起になる同族達を、聖苺は冷めた目で見ていた。
 幾度も試される朱雀の産卵。
 当時の鳳凰は止めようとする事を諦め、鳳凰の座を降りた。
 降りたら神力の多さで勝手に聖苺が鳳凰になった。
 迷惑な話だった。

 翼の王!
 鳥の救い主!

 聖苺は何もやっていない。
 羽を持って産まれただけだ。
 聖苺は自分が親になるのが嫌で、伴侶を娶らなくて良いように子供の姿で時間を止めた。
 どんなに神力が多くても、他の神獣に比べれば普通なのに、何故同族達は理解出来ないのか。

 見ろ、現朱雀、紅麗は卵を産むことを忌避している。
 お陰で性格が捻くれたじゃないか!

 鳳凰は最も神力のある鳥がなるが、朱雀は前任者の指名。だから態と雌を選ぶ。
 嫌なら卵を胎で産まなければいいのに、一族の期待を背負った朱雀は卵を生む。
 紅麗もその内胎に卵を宿すのだろう。
 その相手がまだ決まっていないだけだ。
 相手も一族が強い鳥人を選んで当てがうので、愛し合っているわけでもない。
 
 今や羽を持ち空を駆けるのは聖苺だけになった。
 生まれた頃は少しはいたけど、もう先に死んでいった。
 聖苺は別に鳥人が強くならなければならないとは思っていない。
 龍人だって羽は退化している。
 
 紅麗は朱雀の地位を捨てたいのだ。
 この馬鹿馬鹿しい風習を捨てたい。
 だったら捨てれば良いのに、朱雀となった己の矜持が邪魔をしている。
 ほんと、浅はか。 
 考えなしに白虎に力を貸したりする。
 鳥人は弱い。弱いので殆どの鳥人は内側の鳳凰領に固まって暮らしている。
 朱雀領にはあまり鳥人はいない。獣人がぽつりぽつりと点在しているだけだ。
 森が多く、鳥人の村は大きな木の上に板を張り橋を掛け、家を作って生活している。
 下で暮らすには身体が弱い。戦うのは皆苦手だ。
 獣人は気性が荒い種族が多いので、なるべく会わないようにしている。
 鳥人は鳥人の伴侶を娶る事が多く、獣人と伴侶になる者は少ない。
 それでもいないわけではなく、徐々に鳥人の純血種は減っていくばかりだった。
 鳥人の村を捨て獣人や龍人と共に地上に暮らす者は後を絶たない。
 聖苺は別にそれで良いと思っている。
 その方が強い子供が生まれる。
 羽は失くすが、身体が丈夫な子供が生まれる。
 種が違う者同士だと、強い方に引っ張られるのか、鳥人の特徴を持つ者が生まれる確率は低い。
 だけどそれで良いんじゃないかと思っている。それが今の神浄外だ。

 そう思っていない奴らだけが、後生大事に鳥だけで固まって暮らせば良いのだ。
 朱雀の様に、必ず鳥人の純血種を自分の胎を使って産めなんて、時代錯誤だと思う。

 聖苺はそんな古臭い考えを持つ自分の種族が嫌いだった。

 紅麗の瞳は聖苺を捉えると憎々しげにいつも睨みつけてくる。
 朱雀紅麗には羽を持つ子供を産むと言う義務がのしかかっている。
 嫌だと、産みたくないと、聖苺に言えば良いのだ。
 そうしたらこんな風習は辞めようと聖苺は手助けをする。
 なのにいつの朱雀も卵を産もうとする。
 そんな朱雀を一族は大切にする。
 領地を守っているのは、ほぼ鳳凰である聖苺が一人でやっているようなものなのに。

 今回の妖魔討伐は流石に神獣である朱雀も来ないわけにはいかずついてきたが、朱雀は殆ど戦った事がないので邪魔としか言いようがない。
 達玖李に唆されて麒麟那々瓊を操ろうとするなど、獣人に喧嘩を売るようなものだ。
 那々瓊は珀奥との邂逅で浮かれて紅麗にまで報復が無かったから良かったものの、これは珀奥こと呂佳の存在が無ければ鳥人の殆どが絶滅していた。
 それを防ぐ為にも聖苺は那々瓊を救う手助けをしにいったのだ。
 呂佳はその意図を汲んで、聖苺の顔を立てて鳥人には手を出さない様言い含めてくれた。流石、元珀奥。珀奥は強いくせに争いを好まない。聖苺が仲良くしているうちは絶対敵対関係にならない。それは獣の王、麒麟も敵に回らないと言う事だ。
 
 ここまで僕は気を遣って鳥人を守ってるのに、一族はホント自分勝手だもんねぇ。
 紅麗が今回何も余計な事をしなければ良いんだけど…。



 聖苺は目の前に共を連れて歩く紅麗の背中を見ながら、テクテクと歩いていた。
 聖苺は飛べるが周りは飛べないし、迂闊に飛んで銀狼の守護から離れると、妖魔に襲われてしまうので歩くしかない。
 銀狼の勇者の周りは仄かに明るい。
 暗闇の中で、彼の周りだけは神力の守護があるのだ。
 息ができ、自分達も神力を使う事が出来る。
 彼の守護もまた重要な役割だった。死なれでもしたら全員全滅しかない。

 銀狼の勇者万歩は隊の真ん中を歩いている。側には白狐が必ず側にいて守護している様だ。
 雪代と名乗り一度挨拶してくれた。綺麗な顔と龍人顔負けの神力の多さに、周りが色めきたったが、当の本人は興味無いのか分かっていなさそうだった。
 どちらかと言うと銀狼の方が理解していて、周りを牽制した。
 銀狼に楯突く者はいないが、万歩と雪代はどちらが守られているのか判らないなと思ってしまった。

 最後尾には麒麟那々瓊と呂佳が戯れながら歩いている。
 その少し前を麒麟の鎖で繋がれた達玖李が不機嫌そうに歩いていた。彼は少し離れて一人でいる事に決めている様だ。
 この緊張の中、あそこだけは呑気に見える。たまに青龍空凪が二人を窘めていた。
 空凪が一番歳下である筈なのに、一番しっかりしている様に見えた。
 
 何で自分は鳥に産まれたのか…。
 周りが楽しそうで羨ましい。
 
 ……そうだ、揶揄いに行こう。
 前に行くか、真ん中に行くか、最後日に行くか…。
 やはり親しさから最後尾の呂佳かなぁ~。
 るんるん。

 聖苺は気分で後ろに下がった。

「ちょ……や、やめなさい!こんな所で…。」

 近付くと呂佳の恥ずかしそうな声が聞こえ出した。
 また麒麟が纏わりついているらしい。
 見れば呂佳の耳をハムハムしていた。
 周りの目とか気にならない様子だ。

 麒麟那々瓊は物静かな人柄だった。綺麗な顔に金色の美しい髪。瑠璃色の瞳は理知的で、永然が教育しただけあって知力があり麒麟領の統治も素晴らしい。
 穏やかで優しく、時に強く、理想的な統治者と言えた。
 白虎達玖李より遥かにマシで、達玖李も前任の麒麟の事なんか一度頭から捨てて、ようく那々瓊を観察しておけば、勝てるなんて思わなかっただろうにと思わずにはいられない。
 達玖李はバカだしね。
 聖苺は完全に達玖李はバカで短慮だと思っていた。

 それにしても、あんなに理性的で穏やかだった那々瓊の豹変に、周りは恐ろしくて誰も近付かない。
 呂佳に纏わりつく異常性が怖い。
 そして面白い。
 聖苺はワクワクと近付いて行った。

「ねーねー、もうやっちゃってるの?」

 唐突に尋ねられ、それまで耳を手で防御していた呂佳の動きが止まった。

「……聖苺、やるとは?」

 呂佳は色恋ごとに疎い。怪訝そうに尋ね返してきた。
 それがまた面白い。
 聖苺はニコニコにっこりと満面の笑顔で笑った。

「え?だって、そんなに身体の中に麒麟の神力溜め込んでて何言ってるの?中に直接入れなきゃそんなに濃くならないでしょ?」

 消化不良でお腹パンパン状態に見える。
 自分の神力に変換するのが間に合わないくらい入れ込まれているのだろうが、これだけの量を溜め込める呂佳もなかなか凄い。
 普通の獣人なら神力過多で傀儡まっしぐらだ。まさかそれを狙って…?怖いな。
 とっくに性交でもしてそうなくらい濃ゆい量なのだが、これでやってないとなると………、ふむふむふむ。

「や、や、や、やる………!や、やってませんよ!」

 呂佳が真っ赤になって否定した。
 やってなかった!
 もう聖苺は呂佳を揶揄う事しか考えられなかった。
 こんな辛気臭いとこで見つけたお楽しみだ。揶揄わずしてなんとする!

「下からじゃ無いって事は、上から!?ぷくくく~口付けだけじゃ無いでしょ!?ま・さ・かぁ~~!ぶふっ!」

 呂佳が赤くなったり青くなったりしながら聖苺の口を塞いだ。

「ちょっ!ここで何を言うつもりですか!?恥じらいは無いのですか!?」

「もごもごもご……。」

 そんな身体の中に他人の神力溜め込んでて、呂佳の方こそ恥ずかしいよ?
 と言いたかったが、口を塞がれているので言えなかった。残念。
 しかし周りは猛者ばかりなので、皆んな気付いてると思う。
 笑える。
 見上げると直ぐ近くに那々瓊が立って、聖苺を見下ろしていた。
 あ、はいはい、呂佳と近いってね。
 そんな殺しそうな目で見ないで欲しいな。

「呂佳、聖苺は離してやった方が親切だぞ。」

 空凪が呂佳に注意してくれた。
 流石、空凪。那々瓊の親友なだけあって、よく性格と状況を認識している。
 
「あ、すみません。苦しいですよね。」

 そして呂佳は超鈍い。
 呂佳の手が離れた事により、僕の寿命が伸びた。

「ね、毎日飲んじゃってるの?」

 僕がすかさず呂佳に尋ねると、呂佳は衝撃を受け過ぎて失神しそうになり、那々瓊が嬉しそうに抱き止めていた。
 良いねぇ~、楽しそう。

 紅麗もそんな好きになれる人を見つけたら良いのにね~。
 聖苺も暫く呂佳達と一緒に最後尾を歩く事にした。
 呂佳を揶揄うの面白いな。





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