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急病人と魔法
しおりを挟む「ランディさん大丈夫ですか?」
「しっかりして下さい」
胸を押さえ苦しそうに呻く年配の護衛騎士を旦那さまと髭面の護衛騎士が支える。名前はランディさんと言うらしい。
「この護衛騎士団さん、前に合った時も胸を押さえていました。もしかして持病持ちですか?発作を抑える薬をお持ちですか?」
髭面の護衛騎士に聞くも解らないと首を横に降る。旦那さまがランディさんのポケットを探すも薬は見つからない。
「……ミリヤ妃、貴女の護衛騎士が苦しんでいます。治療を施して下さい」
旦那さまがミリヤ妃に訴えた。
そうでした。すっかり忘れてたけど、この人聖女だった。癒しの力が使えたはずです。
「お願いしますランディさんを助けてください!」 髭面の護衛騎士もミリヤ妃に深々と頭を下げた。
フローラさんを始め騒ぎを聞きつけ店に集まった人達が期待と尊敬を込めてミリヤ妃に見つめた。
「嫌よ!」
きっぱりとミリヤ妃は治療を拒否した。
信じられない発言にその場の空気が凍り付く。
「え???どうしてですか?こんなに苦しんでいるのに」
「なぜって?疲れますの。この年寄りは小言が多くてうるさいですし、治療するメリットが無いもの。無駄なことに貴重な癒しの力を使いたくないわ」
「……ランディさんも好き好んでミリヤ妃の護衛騎士になったわけじゃない!」
苦々しく髭面の護衛騎士が吐き捨てた。
「ミリヤ妃、貴女は聖女の役目も放棄するつもりなのですか?」
諭すように旦那さまが尋ねると、ミリヤ妃は満面の笑みでとても良いことのように言った。
「ヴィヴィアンさんが公妾になってくれるなら治療しますわ!」
「ミリヤ妃……この後に及んで交換条件ですか?脆弱な聖女の貴女に病気は治せない。出来るのは応急処置です。それも断ると言うのですか?人の命を何だと思っているのですか?」
旦那さまの声が怒りに震え、拳を強く握りしめた。
ミリヤ妃……本当にしつこいですね!人の命が掛かっているのに、まだ言うつもりですか?ふつふつと怒りがこみ上げてきた!!
「わかりました」
「まあ!公妾になって下さいますの」
してやったりとニンマリ顔のミリヤ妃を無視し、横たわるランディさんの胸に手を添えた。私に癒しの力は無いけれど、出来ることはあるから。
「ヴィー、何をするのですか?」
「粗っぽい方法ですけど、応急処置なら私にも出来ます!黒丸くん出てきて下さい」
ポヨンと私のおっぱいとおっぱいの間から黒丸くん改が滑り出た。拳大の黒い塊が空中でぷるぷる揺れる。
「なんですのソレ?まさか……闇の精霊」
信じられないとミリヤ妃の声が震えた。
ミリヤ妃の質問をまるっと無視し、黒丸くん改を手のひらに乗せると、苦しむランディさんの胸に押し当てた。黒丸くんはゆっくりとランディさんの胸に吸い込まれていく。
「がっ、はあっ、ぐっ、ん゛………。」
全身が黒丸くんに包み込まれると、苦しんでいたランディさんはピクリとも動かなくなった。
「え?死んだの?」恐る恐るミリヤ妃が聞いた。
「ランディさんに何をしたんですか!!」
髭面の護衛騎士が私に食って掛かる。旦那さまは間に入ると興奮する彼を止めてくれた。
「落ち着いてください彼は死んでいません。彼は時が止まっている状態なのです……ヴィー、魔物の足止めの応用ですね」
「はい!そうです。治療は出来ませんがこれ以上悪化しません。今のうちにお城にお連れして、聖女アリアナさまに治療してもらいましょう……私の魔法は長くは持ちませんから」
髭面の護衛騎士はミリヤ妃を監視し、この後教会の慰問に参加させないといけない。
急遽、マクガイヤの馬車で王城に連れて行くことになり、私と旦那さまで搬送した。ちょうど馬車2台で買い物に来ていたので、シリウスはスージーさんとワタルさんにお願いし、先に屋敷に戻ってもらった。
獣人騎士団長の旦那さまと聖女アリアナさまは領地周りに何度も同行している周知の仲。
王城に着くと伝令を受けたアリアナさまは直ぐに馬車に駆けつけてくれた。
アリアナさまは、時を止めたランディさんを見て一瞬瞳を瞬かせた。
私が黒丸くんをランディさんの体から回収すると直ぐに苦しむ彼を癒しの力で治療してくれた。苦しそうな浅い呼吸が徐々にゆっくり深くなっていく。
苦悶のひきつり顔から安らぎの顔に。神々しい聖なる力に圧倒的される。さすがアリアナさま。ミリヤ妃とは大違いです!
一命を取り留めたランディさんを王宮騎士が医務室まで運んでいく。良かったもう大丈夫!私と旦那さまがホッと胸を撫で下ろすと、アリアナさまに頭を下げた。
「顔を上げてください。御礼など良いのです人の命は何者にも代えがたい尊いものですから……」
悠然と微笑むアリアナさまは、三つ編みメガネで地味な外見。でも彼女の内面はまぶしいまでに美しく人々を魅力する。
ぽうっとその笑顔に見とれていると、アリアナさまにギュウと両手を握られた。
ええ?どうしましたか?
「それよりヴィヴィアンさん……先ほどの時止めの魔法……私、初めてみましたわ。たいへん素晴らしいです。実は趣味で魔法の研究もしておりますの!ご協力して下さいませんか?」
キラキラキラと見つめられ、神々しい聖なる光をこれでもかと浴びせられた。
うわわ~。アリアナさまのお願いを断れる人って居るのかな?
「うっ、旦那さまの意見を聞かないとなので……」
神々しい光から目を反らし、くりんと旦那さまに顔を向けた。お姉さんの体、闇属性なので地味にダメージが~。
「ヴィー。アリアナ様は魔法学の先生でもあります。協力ついでに魔法について学ぶ良い機会だと思いますよ」
「そ、そうですが」
確かに闇魔法について知らないことが多いから、学ぶことは嫌ではないです。
「それでしたら、ミリヤ妃にお教えする教義にご参加して下さいませんか?
同じことを教えるのは二度手間ですし、私の体調が優れない時もあるのです。それに時間も余りませんので。きっと……ミリヤ妃も一緒に学ぶお方が居ればお逃げにならないと思うのです」
「えぇ~?ミリヤ妃とですか?」
平穏に授業が出来なさそうだし、私が居てもミリヤ妃逃げ出すと思いますが。
ジャスティス王子の居る王城に余り行きたくない。それは、旦那さまもわかっているはず。
「すいません、私もミリヤ妃にほとほと手を焼いているのです。グランシア国に聖女はミリヤ妃しかいません。国を助けると思って参加して下さいますか?」アリアナさまは、本当に困り果てているのだろう。体調が優れないと言う彼女の顔に疲労の色が滲む。
「わかりました……アリアナ様には、魔物討伐で無理をさせてしまいましたので」
「本当ですか?シオン様!」
ぱああっとアリアナさまの顔が光輝いた。
「……ただし、条件があります」
至極真面目な顔をした旦那さまは、アリアナさまに条件を提示した。
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