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お邪魔虫と買い物デート②
しおりを挟むお互いの瞳の色のアクセサリーを贈り合うことになり、旦那さまと相談して普段使いでも邪魔にならない品良く小降りの形に決めてフローラさんに注文した。旦那さまには獣耳の先に付けるイヤリング、私はピアス。
旦那さまが自分もピアスにしたいから、獣耳に穴を開けると、とんでもないことを言い出して、必死に止めた。ふかふかもふもふの猫耳に穴を開けるなんて大罪ですよ。涙目でこんこんと猫耳の魅力を語ったら解ってくれた。
大満足で注文を終えて、ほくほく笑顔のフローラさんにお見送りされつつ、店の階段を降りていく。
階段を一段一段ジャンプして降りるシリウスをしっかり手を繋ぎ支える。シリウスの反対側の小さな手は、旦那さまと繋がれている。
私と旦那さまに支えられ、安心仕切ったシリウスは私たちに体重を預けてぴょんぴょん飛ぶ。
うふふ、かわいいし元気だなぁ。
一階に近づくと、騒がしい声が聞こえた。
「なぜですの?おかしいですわ!!」
ん?鼻にかかる甘ったるい女の人のヒステリックな声。何処かで……聞いたことがあるような?
「この時間に予約したはずです!王子妃の私を蔑ろにするなんて酷いです。王様に訴えてこんな店は潰しますわ~!」
案の定……店員さんに詰め寄るのは、可愛らしい顔を醜くく歪めたミリヤ妃だった。
後ろには能面顔の侍女が控え。この前と同じように胸を押さえた年配の護衛騎士。その護衛騎士より少し若い髭面の護衛騎士も連れていた。
なんで、せっかくの買い物デート中に出会うんだろう?見たくなかった顔にうんざりしていると、隣で旦那さまが舌打ちした。旦那さま気持ちはわかりますよ~。
「大変申し訳ないのですが、ミリヤ様のご予約は王妃様よりキャンセルされております」
慌てた店長のフローラさんが店長さんとミリヤ妃の間に入り、頭を下げて謝った。高貴な人のキャンセルってミリヤ妃のことだったんだ。
「キャンセルなんて、私は認めませんわ!早く二階に案内しなさい!」
「……ミリヤ様。申し上げにくいのですが、前回のドレスのお支払もまだなされておりません」
キャンキャン喚くミリヤ妃に申し訳なさそうにフローラさんが言った。
「は?何言ってるのよ。支払いはジャスティス王子がしてるはずよ!」
「…それがされておりません」
「何でなのよー!あの、馬鹿王子」
地団駄を踏むミリヤ妃。
「ミリヤ妃……度重なる怠慢により第一王子夫婦の予算は削減されております。無駄な出費は出来ません」
喚くミリヤ妃に、年配の護衛騎士が冷静に指摘した。
「削減なんて……私は聖女としてキチンとお勤めしているわよ」
「キチンと言うなら、このあとの予定は承知しておられますよね?……町の教会に慰問ですが?」
髭面の護衛騎士が冷たく言い放つ。
「うるさいうるさいわよ!ただの護衛騎士のクセに、私に意見するなんて!!」
顔を真っ赤にしヒステリックに喚くミリヤ妃は、商品を掴むと護衛騎士に投げつけた。「止めてください」と、フローラさんが叫ぶ。
ミリヤ妃の大きな声に外に待機させていた馬車からスージーさんとワタルさん店に乱入した。スージーさんはミリヤ妃を見るとあからさまに嫌な顔をした。旦那さまは身構える二人にシリウスを託すとそのまま馬車に下がらせた。
「ミリヤ妃、落ち着いてください」
旦那さまは暴れるミリヤ妃の手首を掴んだ。
「まあ!シオン様っ。いらっしゃったのですか?気づきませんでしたわ」
ミリヤ妃の声が一段階高くなったよ。うっとりと瞳を潤ませ旦那様を見つめた。毎回ながらその変わり身の速さに驚きますよ。
「大丈夫ですか?ミリヤ妃」
わざとらしく微笑む旦那さま。ミリヤ妃は旦那さまの笑顔に味方を得たと思ったのか切々と話し始めた。相変わらず隣に居る私の存在は眼中にないみたい。
「聞いてくださいシオン様っ!皆さん意地悪するんですの~」
嘘泣きしながら、旦那さまの首に抱きついた。
ちょっとミリヤ妃!私の旦那さまに触らないでください!
「意地悪というのは……支払いもせず買い物しようとする事ですか?
それとも哀れな護衛騎士に大事な商品を投げつけたことですか?」
冷ややかに旦那さまは言った。
「ひっ!」
その足元から底冷えするような怒りにミリヤ妃は旦那さまから離れた。
「……ミリヤ妃…これ以上、民を私たちを失望させないで下さい」
旦那さまのフローラさんの護衛騎士の冷たい視線がミリヤ妃に注がれる。苦しそうに喘ぐミリヤ妃に、能面の侍女が何を呟いた。
くわっと見開いた瞳が私を捕らえた。憎しみに駆られた深い闇そのものの色。ミリヤ妃は私を指先し叫んだ。
「ヴィヴィアンさん!貴女のせいよ!全部貴女が悪いのよ!」
「………は、へ?え?なんで、私の責任に?」
おもいっきり変な声が出た。
「そうでしょう?貴女が居るからシオン様が私に靡かない。貴女が公妾になって私の変わりに真面目に仕事をしないから予算削減されたの!
王子妃の仕事が多いから聖女の仕事が出来ないのよ!ほら!貴女が全部悪いわ!!」
あ、頭痛いです……ただの責任転嫁ですよねー?あまりの言いぐさに呆然としてしまう。言い返す気力も沸かない。
フローラさんたち店員さんがひきつり顔で固まり、護衛騎士が頭を抱えた。
「学生時代のように、全部ヴィヴィアンの責任にすれば済む問題ではありませんよ……」こめかみを押さえ旦那さまがため息をついた。
「ミリヤ妃、………旦那さまはあげられませんが、そんなに仕事が辛いなら、私を公妾にしなくても王妃に優秀な補佐を頼めば良いと思いますよ。
仕事が楽になって精神的に余裕が出来れば赤ちゃんも望めるかも知れませし」
「私、赤ちゃんなんて欲しくないわよ。うるさいし、出産は痛いし、体型崩れるもの」
ミリヤ妃は、はっと鼻で笑った。
「でも、赤ちゃん産まないとジャスティス王子は王太子になれませんよね?」
「ふんっ……ジャスティス王子に子は望めないわよ」
馬鹿にしたようにミリヤ妃は笑った。
「ミリヤ妃……望めないとは?」
訝しそうに旦那さまが尋ねた。
「な、なんでもないの!ヴィヴィアンさんが公妾になれば丸く収まる話よ」
はぐらかすミリヤ妃を旦那さまが問い詰めようとした。その時ーー。
「ぐっ、あ゛っ」
年配の護衛騎士が胸を押さえ苦しそうに膝をついた。
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