幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫

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第28話 行き遅れ

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 シルヴァード様から衝撃の提案をされてから数日後。わたしは孤児院の子どもたちの定期診察を行うために外に出ていた。いつも護衛は付けなくても良いと言うのだけど、お父様が許してくれなかった。前に伯爵令嬢としての自覚を持てと言われたことはあるが……。

(お父様に言われたくありません。わたしはお父様の背中を見て育ったようなものですから)

 直接言えるはずもないことを考えながら、帽子を深く被る。できるだけ髪が目立たないようにしておきたい。護衛の人たちはわたしの意を汲んで、あからさまにわたしの近くに立つことはなく、遠くから守ってくれているのだ。

 街を歩いていると、向かい側から道の中央を堂々と歩いてくる集団が見えてきた。他の人たちの通行の邪魔になっており、それを皆が注意できない理由はなんとなくわかった。

(彼女は……カミラ様ですね)

 何度か会ったことがある。クロウリー侯爵家の長女、カミラ様。顔を合わせたらいつも嫌味混じりの言葉を言われるので、あまり好きな相手ではない。このままだと彼女と鉢合わせしそうなので小道に避けようかと考えたが、その時にはもう遅かった。

「あら? こちらの冴えないお方は……セレフィア様ではありませんか」
「こんにちは、カミラ様」
「お一人で何をしていらっしゃるの?」

 カミラ様に話しかけられてしまい、わたしは曖昧に笑みを浮かべる。わたしよりも身分の高い彼女が相手なので、適当に相手をすることはできない。誰であっても、適当に相手をすることはないけれど。

「子どもたちに会いに行こうと思ったのです」

 下手なことを言って嘘だとばれてしまったら後々に響きそうだと思ったので、正直に言った。わたしが孤児院に通っていることは、既に社交界でも知られていることなので、隠す必要はない。

「お可哀想に。セレフィア様には良いお方がいらっしゃらないものね……」
「カミラ様は、どのようなご予定でこちらにいらしたのですか?」
「わたくしはね、今度の夜会のためのドレスを仕立てに来たの。いつもであれば使用人に頼んで準備させるのだけど、今回はわたくし直々に見積もろうと思ったのよ。愛する旦那様の瞳色のリボンは、わたくしが選びたかったからね」
「そうですか。それは、良いことですね」

 にこりと微笑んでそう言うと、カミラ様は扇を口元にあてて鼻で笑った。

「行き遅れの貴女様には理解できないことでしょう。セレフィア様は、次の夜会も依然と同じようにお一人で参加なさるのですか?」
「……今のところは、そうですね」
「ごめんなさいね。意地の悪いことを聞いてしまって。そうだ、わたくしがセレフィア様に良い男性を紹介しましょうか?」
「間に合っているので、平気です」

 こういうのは、正面から取り合ってはいけない。それに、こういったことを言われるのは、慣れている。わたしがにこにこしながら受け答えしているからか、カミラ様は段々とつまらなく思えてきたようだ。

「わたくしは貴女様と違って暇ではないので、帰らせていただくわね。セレフィア様は、子どもと楽しくお過ごしくださいな」
「ええ、ありがとうございます。わたしは、子どもたちと過ごすのがとても好きですから」
「……ふん。相変わらず、調子が崩れるわね」

 カミラ様はそっぽを向いて、たくさんの護衛たちを連れて歩き去っていった。……嵐のような人だったな。

(完全に一人で参加すると言ったわけではないので……嘘にはなりませんよね)

 わたしは彼女の姿が見えなくなってから、小さく息を吐いた。慣れているとはいえ、心に効くことはある。

 わたしには婚約者がおらず、世間では「行き遅れ令嬢」と言われていることもあるらしい。わたしと同年代の女性たちはほとんど結婚しているのもそれに拍車をかけている。本来わたしくらいの年が結婚適正年齢だと思うのだけど、貴族にとっては違うのだ。

(やっぱり、早く結婚相手を見つけるべきですね……)

 エランディール伯爵家のためにも、必要なことだ。結婚について考えるとすぐにシルヴァード様の顔が頭に浮かんできたが、気が付かないふりをした。
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