幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫

文字の大きさ
29 / 32

第29話 孤児院

しおりを挟む

 道の途中で、人混みが多い場所を見つけた。騒ぎになっているので、何か事故か事件があったのかもしれない。怪我人がいたら大変だと思い、様子を見ていくことにする。

 人混みの間から顔を覗かせて騒ぎの中心を見る。すると、遠目からでもよく見える、フードを被った騎士がいることにすぐ気が付いた。

(シルヴァード様です……。お仕事中でしょうか)

 騎士の制服姿をしているシルヴァード様を見たのは、凱旋以来になる。我が国の騎士団の制服は白色が基調で、彼の黒髪ととても映えていてかっこよかった。今の彼はフードを被っているので、彼の純黒の髪と純白の騎士服の美しいコントラストを見ることはできないけど……。

 事件があったようで、騎士の人たちが男の人を取り押さえている。シルヴァード様はそこから少し離れた場所に立っている。隣にはラティウス様もいらっしゃって、彼に何かを話しかけているようだ。

 彼らは騎士団の中でもかなり格式高く身分も高い人たちだと把握している。彼らの主な仕事は、王族や王城近くの護衛だと思っていたけれど、このように街の治安維持も担当してくれているのだろうか。

 シルヴァード様がフードを被っているからか、周囲の人たちは彼が英雄様だと気が付いていないようだ。わたしも彼のフード姿を見ていなかったら、気が付かなかっただろう。彼のローブには何か魔法がかけられているのか、認識があやふやになるようにできている。

 彼はフードの下で、笑みを浮かべているのだろうか。それとも前にリーリアに聞いたように、戦場での彼のように無表情なのだろうか。それは分からなかった。

 怪我人などはいないみたいなので、その場から離れる。

 その時に、シルヴァード様がわたしを見ていたということは、一切知らなかった。
 




 子どもたちにお土産を買っていこうと思い多少寄り道をしてしまったが、予定時間には孤児院にたどり着いた。建物の中に入ると、すぐにルーミさんがわたしを迎えてくれた。彼女は、子どもたちに「先生」と呼ばれている女性である。

「セレフィア様! いつもありがとうございます。子どもたちがとても楽しみに待っていて、落ち着きがないのですよ」
「こんにちは、ルーミさん。わたしも子どもたちと会いたかったです」

 彼女に案内され、一つの部屋に入る。するとすぐに、わたしの周囲には子どもたちが集まってきた。

「天使さま!」「天使さま、会いたかった!」「一緒にあそぼう、天使さま!」

 子どもたちの頭を撫でながら部屋の中を見回す。子どもたちの遊び場のようで、たくさんの子どもたちがそれぞれ元気に遊んでいる。小さな子に手を振っていると、以前食堂で会ったハウロ君が駆け寄ってきた。勢いのある走りで、わたしはそっと彼を抱きとめる。

「天使さま! 来てくれたんだ!」
「ハウロ君、こんにちは。お元気でしたか?」
「うん! 元気だよ!」

 体を動かす遊びをしていたのか彼の髪が少し乱れていたので、軽く整える。

 ハウロ君は、今ではわたしに懐いてくれているが、彼が孤児院に来たばかりの時は親からの虐待などの影響で、痛々しいくらい人間不信だった。この孤児院には優しい人たちしかいないので、段々と彼も心を落ち着かせることができるようになったのだ。わたしも、彼のトラウマを軽減できるように何度も孤児院に通って彼と話をしていた。

「そうだ。これ、お土産です。ハウロ君が好きな、ミルクキャラメルですよ」
「やった! ありがとう、天使さま!」

 かばんからお菓子箱を取り出して、ハウロ君に手渡す。お土産はこれだけではない。他の子どもたちの好きなお菓子もたくさん買ってしまった。つい、子どもたちが喜ぶ姿が見たくて、いつも買いすぎてしまうのだ。

 ハウロ君が嬉しそうに箱を抱きしめているのを見ると、心がぽかぽかと温かくなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

内気な貧乏男爵令嬢はヤンデレ殿下の寵妃となる

下菊みこと
恋愛
ヤンデレが愛しい人を搦めとるだけ。

わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫
恋愛
 若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。  婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?  そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。  主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。 ※他のサイトにも投稿しています。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

処理中です...