私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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異性を幼馴染とは認めない

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ディーンは甲冑を着たまま倒れてしまったクリスを心配気に見る。
今日の分の体力を全部使い切ってしまったようで、ぐったりしている。
「クリス!クリス、起きなさい」
甲冑を脱がされて下着姿で気を失っているクリスの頬をロアンヌ様が叩く。すると、瞼がゆっくりと開く。
その場に居た全員がホッとする。俺もその一人だ。大事に、至らなくて良かった。
クリスが無事だと分かると皆が何事も無かったように三々五々に戻って行く。

ロアンヌが汗ばんだクリスの額の汗を拭う。それをクリスが、うつろな目で見ている。
「クリス。大丈夫?怪我は無い?」
「ロアンヌ……おはよう……」
昼間なのに、謎の言葉とともに何故か満足気に笑って寝てしまった。
「えっ?クッ、クリス?」
「クー、クー」
ロアンヌが驚き、またその頬を叩くが反応がない。熟睡しているようだ。
アンがクリスの顔を覗き込むと首を振る。
「寝ましたね」
「ええ、寝たわね」
ロアンヌがアンの言葉に同意すると静かな寝息を立てているクリスの顔を諦めた表情で見つめている。
しかし、アンは眉間に皺を寄せて、何かを探すようにクリスを見続けている。
「一体どうしたんでしょう?この前の件といい。今回の件といい行動が変です」
「そう言われれは、クリスらしくないわね」
クリスの寝顔を見ながら、お互いに首を捻る。他人から見たらクリスの行動は理解出来なのは無理もない。

今回も作戦失敗かと、頭をポリポリと掻いていると
「ディーン。何か知らない?」
ロアンヌに行き成り聞かれてギクリとしたが本当の事は言えない。言えばクリスが惨めになるだけだ。
自分も知らないと、とぼけた。
「さぁ、さぁ~」
「………」
「………」
ロアンヌたちは それ以上聞いてこなかったが、自分を見る視線は協力したんでしょと語っている。
クリスが一人で甲冑を用意したり、まして着る事など絶対無理だ。
「ロアンヌ様の気を引きたいのではないでしょうか?このところ多忙で全然構ってあげてませんでしたし」
「えっ?そんな事で?」
驚くロアンヌ様に、その通りですと言いたい。
でも、クリスの了解も得ずにペラペラと白状する気は無い。しょうも無い奴だが、俺の弟分だ。

「もう、子供じゃないんだから~」
ロアンヌが困り顔でそう言うけど、何処か嬉しそうだ。
それをディーンは複雑な気持ちで見ていた。何故なら、その口調は甘えん坊の弟に呆れながらも、愛しさが混じった姉の声音のようだったからだ。
「忙しいんだら、これ以上ロアンヌ様に迷惑を掛けてほくないわね」
アンがクリスを見ながら小さく首を動かす。
「ディーン。クリスの事、頼みましたよ」
「はい」
立ち上がつたアンが、俺に厳しい視線を向ける。ちゃんと、見張っておけと言いたいのだろう。
分かったと頷くとアンがロアンヌに手を差し出す。
「 ロアンヌ様。それでは、行きましょう」
「ええ」
クリスをそのままにして、ロアンヌがアンの手を取ると去って行く。
その後ろ姿に一抹の寂しさを感じる。
ちょっと前ならロアンヌはクリスを心配して一緒に部屋までついて来たのに。
(不動の一番だった……)
ロアンヌの中での一番はレグール様になってしまったんだ。
勿論。幼馴染より婚約者の方が大事だと言うことは分かってる。

この分だと、きっと今まで以上にクリスの事を弟扱いするな。
ディーンは何も知らずに、ぐっすり寝ているクリスをチラリと見て溜め息を押し殺した。
(今更か……全てが遅すぎたんだ……)
クリスを抱き抱えるとその場を後にした。

**異性を幼馴染とは認めない**

確実に季節は移り、森の緑は色をまし花が咲き揃う。
こうしてロアンヌと腕を組んで径を仲良くデートするのも、日常になりつつある。しかし、視線は自然と自分がプレゼントしたペンダントに行く。
私があげた目印がロアンヌの胸元で揺れている。それを見るだけで十分優越感に浸れる。
残念なのは、それを身に付けたロアンヌを他の男に見せびらかせる事が出来ないことだ。しかし、他の男がロアンヌを見るのかと思うと見せたくなくなる。そんな矛盾した気持ちを持て余す。

見違えるほど、あか抜けて綺麗になった。だけど、まだ早い。
ロアンヌは私だけのものなのだから。

二人の時間を楽しもう。そう思って
ロアンヌの話に耳を傾けていたが、ピタリと足を止めた。
「えっ?クリスが騎士の恰好をした?」
「そうなんです。その後は甲冑を着て歩き回ったりして無理するから筋肉痛になって、今もベッドで寝ています。
湿布薬臭くて大変です」
やれやれと首を振っているロアンヌを見ながら眉を寄せる。本当にクリスの行動の意味が分からないのか?
どう考えても男性アピールの行動なのに……。
それとも気付かぬふりをしているのか?一体どっちなんだ?

ロアンヌが17歳になっても二人の関係は進展していなかった。
私のプロポーズもすんなり受け入れてくれて婚約している。
そのことを考えれば結婚相手ではない。しかし、クリスの事を話すロアンヌの声音には愛情が感じられて嫉妬してしまう。
胸にチクチクと棘が刺さって痛む。
この件をしつこく聞くと寝た子を起こすかもしれない。クリスの事をどう思ってるか、悔しいが聞くべきか、聞かざるべきか、それが問題だ。ただのちびすけと思っていたが、男として対抗して来た。
二人にはロアンヌが、5歳からの10年と言う歴史がある。
幼馴染との絆は特別と聞くし……。こんな思いをするくらいなら、もっと早くに声を掛けて、二人の時間を邪魔しておけば良かった
「………」
「レグール様?」
すっかり考え込んでいた私を、いぶかしそうにロアンヌが見ている。
嫉妬や疑惑と言った負の感情は、直ぐに手を負えなくなる。この気持ちを胸に棲みつかせたくない。そんな事したら、あっという間にモンスターに、なって自分だけでなくロアンヌを傷つけてしまうかも知れない。
(愛が執着に変わるのは何としても避けたい)
ええい ままよと運を天に任せて聞いてしまえ。

「……ロアンヌは、その……クリスの男らしい姿を見て」
ロアンヌが片手を突き出して私の話を止める。
「レグール様、それは誤解です」
「誤解?」
そうだとコクリと頷く。何処をどう考えても誤解とは思えない。
「私の結婚が決まって、前みたいに一緒に居る時間が減ったから、構って欲しくて駄々を捏ねてるだけです」
「駄々………」
駄々を捏ねると言う表現は18歳になる男に対する扱いとは思えない。
「別に結婚しても縁が切れる訳じゃないのに……クリスには、本当に困ります」
困った様に、ため息交じりで呟くロアンヌを見ながら、レグールはクリスに対する扱いに内心同情した。

しかし、クリスはどうやら結婚を止めさせよと他にも色々と画策してたらしい。口振りからして一つや二つではないと察する。
今は、ただ拗ねているとロアンヌは考えているらしいが、今後どうなるか分からない。
やはり、ここはロアンヌのクリスに対する気持ちを確かめよう。
それしだいでは今後のクリスへの態度も変わっていく。
(芽は早いうちに摘むに限る)

「……随分、気にしているようだけど、ロアンヌにとってクリスはどんな存在なんだい?」
「そうですねぇ……」
ロアンヌが指で顎をトントンとリズミカルに叩きなが、考えをまとめている。
何故、即答しない!
それほど関係が曖昧なのか?
いわゆる、幼馴染以上、恋人未満。
悩むその姿を見ているとクリスを排除したいと言う嫉妬の炎が燃え上がる。
しかし、そんな事をしたらロアンヌの信用を失う恐れがある。
レグールは、深呼吸して冷静になれと自分を諌める。

例え、クリスに対する自分の気持ちにロアンヌが気付きたとしても既に婚約している。ロアンヌの性格を考えれば取り止めにはしない。もし、そうなってもクリスに何かするのは後でいい。

今は計画を練るだけだ。
(人の女に手を出したら、どうなるか)

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