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ディーンは、クリスが甲冑を着てロアンヌ様の部屋へと続く廊下を歩くのを、その言葉通り見守っていた。
クリスの 手伝いをするのは、これが最後と決めていた。泣いて頼まれても絶対やらない。それほどまでに今回の『可愛い弟が、気付いたら大人のお兄さんになっていた』の作戦は、クリスに振り回されっぱなしだ。
やはり、出だしが悪かったと思い出して嘆息する。
"男らしさとは精神的なものだ"と、何度も言ったのに。またクリスが勝手に解釈した。
「なるほど!カッコイイと思わせればいいのか!」
テンションが上がったクリスが机をバンと叩く。その態度にうんざりする。 『一を聞いて十を知る』と、言う言葉があるが、クリスの場合『一を聞いて十を忘れる』だ。
何とか軌道修正しようと声を掛ける。
「否、だから」
しかし、既に手遅れ。
クリスが腕組みしながら、一人でぶつぶつ言い出している。
(いったい、とこで間違えたんだ?)
「どんな格好がいいかな……そうだ!剣士の格好にするか?まて、狩人とかどうだ。背中に弓を背負ったりしたらワイルドに見えるかな。ロアンヌに僕の意外なところを見せられるなら、そっちの方が……。でもなぁ……騎士の姿も捨てがたい。う~ん……」
このままでは、ただの仮装になってしまう。ディーンはクリスの腕を掴んで、こっちを向かせると子供に言い聞かせるように話す。
「クリス。違う。『頼りになる』だ。分かったな。た・よ・り・に・な・る」
「頼りになるか……だったら、やはり、騎士か!どう思う?ディーン」
「………」
ディーンは、この状況に言葉を失う。だから、仮装じゃない。声を大にして言いたい。しかし、思い込んでるクリスに何を言っても無理だと諦めた。
それで、馬と騎士の服を用意してお膳立てしたのに……。
馬にまたがり颯爽とロアンヌ様の前に登場して手を振り、その場を退場すると言う簡単な計画だった。しかし、ロアンヌ様に見せる前のクリスがバランスを崩して、馬にしがみ付いたまま何も出来ずに通り過ぎて仕舞うと言う散々な結果だった。
馬を返して部屋に戻るとクリスが部屋の中を行ったり来たりしている。失敗して落ち込んでいるかとおもったが、そうでもないようだ。
「やっと、帰って来た」
俺の姿を見つけ駆け寄って来た。反省するなり、労を労うなり、それらしい言葉を期待していたが、責任を押しつけて来た。
「ディーン。そもそも、馬に乗るなんて無茶だったんだよ」
「なっ………」
確かに、クリスは乗馬が得意では無い。でも、乗ると言い張ったのは、お前だ!そう言い掛けたが、クリスは既に次の作戦を考えていた。
俺をベッドに座らせると指を振りながら、如何に今回の作戦が素晴らしいか説明しだす。
「そこで次に考えたのが甲冑を着ることだ」
「かっ、甲冑?」
突拍子もない事を言い出したクリスを唖然として見つめる。
この前は、狩人が良いと言ってたのに……。(と、言っても矢を当てられないが)
しかし、どうして甲冑を着る必要がある。候補は他にいくらでもあるだろう。それでも一応、その理由を訊ねてみる。
「なんでだ?」
「決まってるじゃないか、こっちの方が何倍も男らしいからだよ」
「………」
甲冑イコール男らしい。その短絡的な考えにディーンは何と言っていいか分からない。
考え直させた方が良いんだろうか?でも、他に思いつかないし……。
クリスは頑固なところがあるからな。下手に反対すれば逆に意固地になる。悩んでるとクリスが安心させようと俺の肩をポンと叩く。
「大丈夫。大丈夫。今回は甲冑を着て歩くだけだよ。そんな簡単こと誰にでもできるよ」
「……… 」
甲冑が二十以上キロあるのを知ってるんだろうか?
まぁ、でも、クリスの言う通り歩くだけだし……上手くいくだろう。
そう思っていたが……。
クリスが、その勇敢な?姿を見せるために歩いているのをハラハラしなが、注視する。
ガシャン……ガシャン……ガシャン……と一歩が余りにも遅い
そのうえ、両手両足が一緒に動いていてギクシャクしている。
やっぱり、サイズが合って無いのは致命的だった。
小さい甲冑を探そうと伝を頼ったが、戦争の無い今のご時世、邪魔だからと売り払われたり、捨てられたりで、
思うような物が手に入らなかった。
やっと見つけた甲冑だったけど……。
視界が悪いらしく数歩進むたびに一々ゴーグルを押し上げて場所を確認している。ゴーグルから覗くクリスの顔が真っ赤だ。息も上がってる。
ガシャン……ガシャン……ガシャン……。
本当なら今すぐにでも止めさせに行きたい。それを堪えてるのは、当に限界を超えただろうクリスが歩みを止めない姿に感動していたからだ。根性なしだと思ってたのに、よく頑張っている。
(お前にしては上出来だ。後で褒めてやるぞ)
しかし、このペースではロアンヌ様の部屋に行く前に前に倒れてしまいそうだ。折角の努力。ロアンヌ様にその勇姿を見せてあげたい。どうしたら……。ポンと手を打つ。
そうだ。
ロアンヌ様の部屋の近くまで甲冑を持ってて、その場でもう一度甲冑を着れば良い。ズルをする事になるが、見せるのが目的だから問題ない。そうと決まれば、ディーンはクリスの元へ駆け付けたようとしたが、運悪く足音が聞こえて来た。
慌てて周り右して、元居た場所に移動する。
(誰が来たんだ?)
物陰から覗いているとロアンヌとアンが、何か話しながら近づいて来る。
これはチャンスだ。早くクリスに知らせないと。
『クリス。クリス……。オイ!クリス』
ガチャン……ガシャン……。
声を掛けたが甲冑の音にかき消されたしまった。どうしたらいいんだ……。
ロアンヌたちに気付かれない様に、もう一度顔を出すと、既に二人がクリスを取り囲んでいる。
「まぁ、誰が甲冑を着てるの?」
「ロアンヌ様。危険です。近寄ってはなりません」
「あなたは誰?名前を名乗りなさい」
「はぁ~、はぁ~」
アンの言葉に不審者かもとロアンヌが警戒して遠巻きに聞く。
ロアンヌの声にクリスが兜のバイザーを押し上げる。
汗だくで真っ赤な顔をしたクリスが荒い息で答えている
「はぁ~、はぁ~。やぁ、……ロアンヌ……」
「クリス?何やってるの?」
まさか、クリスだと思っていなかったロアンヌたちが驚いている。無理も無い。甲冑とクリスは正反対の存在だ。
「早く脱ぎなさい。酷い汗よ。このままにしてたら、体を壊してしまうわ」
「そうです。そんな引きずるような、歩き方では床が痛むから、今すぐ止めなさい」
「そうよ。早く脱ぎなさい」
「はぁ~、はぁ~。だっ、……大丈夫だよ。……そっ、それより……僕の」
甲冑を脱がせようとロアンヌが近づこうとすると、クリスが来なくて言いと首を振った。すると兜がクリスの動きに反応して、ぐるりと半回転して 後ろ前になってしまった。
「あっ、何だ。急に真っ暗になったぞ」
「クリス。落ち着いて」
「暗いよ。怖いよ。ロアンヌ助けて」
パニックになったクリスが両手を突き出して助けを求める。
(違う。兜を元に戻すんた)
助けに行くべきか、留まるべきか、悩ましいところだ。
「分かったわ」
「アン。手をかして」
「かしこまりました」
ロアンヌが捕まえようとしても、あっちへフラフラ、こっちへフラフラした動きは予想が付きづらい。
ロアンヌやアンが助けようとしても逆の方に進んでしまう。
「そっちじゃないわ。こっちよ」
「こっちって、どっち?」
「動かないの!」
苛立ったロアンヌが命令する。しかし、クリスには聞こえない。
「怖いー!」
流石にこのまま傍観してられない。俺が協力しないと。ばれるけど仕方ない。そう思って一歩踏み出した。そのときクリスがとうとう、バランスを失いガチャーンと大きな音をたてて、甲冑ごと倒れた。
出鼻をくじかれて足が止まる。
「クリス!」
「大変!アン。早く脱がせて」
「はい」
ロアンヌが、しゃがむと兜に、向かって声をかける。
「クリス。しっかりするのよ」
アンが何とか脱がせようと悪戦苦闘している。甲冑は普通の服と違うから脱ぐ順番も大事だ。
「クリス。クリス。返事をして!アン。まだなの?」
「申し訳ありません。甲冑は専門外なので」
ロアンヌが、兜に耳を兜に押し当てる。しかし、何も聞こえないようで青ざめた顔をしている。これは、不味いことになっているかもしれない。二人の所へ駆け寄る。
「俺がやります」
大きな音を聞きつけた使用人たちも集まり、総出で脱がせにかかる。着る時も大変だったが、横になった状態で脱がせるのは至難の業だ。周りがこんなに騒がしいのに甲冑の中からは物音一つしない。
(気絶してるのか?)
最後に兜を脱がせると、ぐったりとしたクリスが現れた。
クリスの 手伝いをするのは、これが最後と決めていた。泣いて頼まれても絶対やらない。それほどまでに今回の『可愛い弟が、気付いたら大人のお兄さんになっていた』の作戦は、クリスに振り回されっぱなしだ。
やはり、出だしが悪かったと思い出して嘆息する。
"男らしさとは精神的なものだ"と、何度も言ったのに。またクリスが勝手に解釈した。
「なるほど!カッコイイと思わせればいいのか!」
テンションが上がったクリスが机をバンと叩く。その態度にうんざりする。 『一を聞いて十を知る』と、言う言葉があるが、クリスの場合『一を聞いて十を忘れる』だ。
何とか軌道修正しようと声を掛ける。
「否、だから」
しかし、既に手遅れ。
クリスが腕組みしながら、一人でぶつぶつ言い出している。
(いったい、とこで間違えたんだ?)
「どんな格好がいいかな……そうだ!剣士の格好にするか?まて、狩人とかどうだ。背中に弓を背負ったりしたらワイルドに見えるかな。ロアンヌに僕の意外なところを見せられるなら、そっちの方が……。でもなぁ……騎士の姿も捨てがたい。う~ん……」
このままでは、ただの仮装になってしまう。ディーンはクリスの腕を掴んで、こっちを向かせると子供に言い聞かせるように話す。
「クリス。違う。『頼りになる』だ。分かったな。た・よ・り・に・な・る」
「頼りになるか……だったら、やはり、騎士か!どう思う?ディーン」
「………」
ディーンは、この状況に言葉を失う。だから、仮装じゃない。声を大にして言いたい。しかし、思い込んでるクリスに何を言っても無理だと諦めた。
それで、馬と騎士の服を用意してお膳立てしたのに……。
馬にまたがり颯爽とロアンヌ様の前に登場して手を振り、その場を退場すると言う簡単な計画だった。しかし、ロアンヌ様に見せる前のクリスがバランスを崩して、馬にしがみ付いたまま何も出来ずに通り過ぎて仕舞うと言う散々な結果だった。
馬を返して部屋に戻るとクリスが部屋の中を行ったり来たりしている。失敗して落ち込んでいるかとおもったが、そうでもないようだ。
「やっと、帰って来た」
俺の姿を見つけ駆け寄って来た。反省するなり、労を労うなり、それらしい言葉を期待していたが、責任を押しつけて来た。
「ディーン。そもそも、馬に乗るなんて無茶だったんだよ」
「なっ………」
確かに、クリスは乗馬が得意では無い。でも、乗ると言い張ったのは、お前だ!そう言い掛けたが、クリスは既に次の作戦を考えていた。
俺をベッドに座らせると指を振りながら、如何に今回の作戦が素晴らしいか説明しだす。
「そこで次に考えたのが甲冑を着ることだ」
「かっ、甲冑?」
突拍子もない事を言い出したクリスを唖然として見つめる。
この前は、狩人が良いと言ってたのに……。(と、言っても矢を当てられないが)
しかし、どうして甲冑を着る必要がある。候補は他にいくらでもあるだろう。それでも一応、その理由を訊ねてみる。
「なんでだ?」
「決まってるじゃないか、こっちの方が何倍も男らしいからだよ」
「………」
甲冑イコール男らしい。その短絡的な考えにディーンは何と言っていいか分からない。
考え直させた方が良いんだろうか?でも、他に思いつかないし……。
クリスは頑固なところがあるからな。下手に反対すれば逆に意固地になる。悩んでるとクリスが安心させようと俺の肩をポンと叩く。
「大丈夫。大丈夫。今回は甲冑を着て歩くだけだよ。そんな簡単こと誰にでもできるよ」
「……… 」
甲冑が二十以上キロあるのを知ってるんだろうか?
まぁ、でも、クリスの言う通り歩くだけだし……上手くいくだろう。
そう思っていたが……。
クリスが、その勇敢な?姿を見せるために歩いているのをハラハラしなが、注視する。
ガシャン……ガシャン……ガシャン……と一歩が余りにも遅い
そのうえ、両手両足が一緒に動いていてギクシャクしている。
やっぱり、サイズが合って無いのは致命的だった。
小さい甲冑を探そうと伝を頼ったが、戦争の無い今のご時世、邪魔だからと売り払われたり、捨てられたりで、
思うような物が手に入らなかった。
やっと見つけた甲冑だったけど……。
視界が悪いらしく数歩進むたびに一々ゴーグルを押し上げて場所を確認している。ゴーグルから覗くクリスの顔が真っ赤だ。息も上がってる。
ガシャン……ガシャン……ガシャン……。
本当なら今すぐにでも止めさせに行きたい。それを堪えてるのは、当に限界を超えただろうクリスが歩みを止めない姿に感動していたからだ。根性なしだと思ってたのに、よく頑張っている。
(お前にしては上出来だ。後で褒めてやるぞ)
しかし、このペースではロアンヌ様の部屋に行く前に前に倒れてしまいそうだ。折角の努力。ロアンヌ様にその勇姿を見せてあげたい。どうしたら……。ポンと手を打つ。
そうだ。
ロアンヌ様の部屋の近くまで甲冑を持ってて、その場でもう一度甲冑を着れば良い。ズルをする事になるが、見せるのが目的だから問題ない。そうと決まれば、ディーンはクリスの元へ駆け付けたようとしたが、運悪く足音が聞こえて来た。
慌てて周り右して、元居た場所に移動する。
(誰が来たんだ?)
物陰から覗いているとロアンヌとアンが、何か話しながら近づいて来る。
これはチャンスだ。早くクリスに知らせないと。
『クリス。クリス……。オイ!クリス』
ガチャン……ガシャン……。
声を掛けたが甲冑の音にかき消されたしまった。どうしたらいいんだ……。
ロアンヌたちに気付かれない様に、もう一度顔を出すと、既に二人がクリスを取り囲んでいる。
「まぁ、誰が甲冑を着てるの?」
「ロアンヌ様。危険です。近寄ってはなりません」
「あなたは誰?名前を名乗りなさい」
「はぁ~、はぁ~」
アンの言葉に不審者かもとロアンヌが警戒して遠巻きに聞く。
ロアンヌの声にクリスが兜のバイザーを押し上げる。
汗だくで真っ赤な顔をしたクリスが荒い息で答えている
「はぁ~、はぁ~。やぁ、……ロアンヌ……」
「クリス?何やってるの?」
まさか、クリスだと思っていなかったロアンヌたちが驚いている。無理も無い。甲冑とクリスは正反対の存在だ。
「早く脱ぎなさい。酷い汗よ。このままにしてたら、体を壊してしまうわ」
「そうです。そんな引きずるような、歩き方では床が痛むから、今すぐ止めなさい」
「そうよ。早く脱ぎなさい」
「はぁ~、はぁ~。だっ、……大丈夫だよ。……そっ、それより……僕の」
甲冑を脱がせようとロアンヌが近づこうとすると、クリスが来なくて言いと首を振った。すると兜がクリスの動きに反応して、ぐるりと半回転して 後ろ前になってしまった。
「あっ、何だ。急に真っ暗になったぞ」
「クリス。落ち着いて」
「暗いよ。怖いよ。ロアンヌ助けて」
パニックになったクリスが両手を突き出して助けを求める。
(違う。兜を元に戻すんた)
助けに行くべきか、留まるべきか、悩ましいところだ。
「分かったわ」
「アン。手をかして」
「かしこまりました」
ロアンヌが捕まえようとしても、あっちへフラフラ、こっちへフラフラした動きは予想が付きづらい。
ロアンヌやアンが助けようとしても逆の方に進んでしまう。
「そっちじゃないわ。こっちよ」
「こっちって、どっち?」
「動かないの!」
苛立ったロアンヌが命令する。しかし、クリスには聞こえない。
「怖いー!」
流石にこのまま傍観してられない。俺が協力しないと。ばれるけど仕方ない。そう思って一歩踏み出した。そのときクリスがとうとう、バランスを失いガチャーンと大きな音をたてて、甲冑ごと倒れた。
出鼻をくじかれて足が止まる。
「クリス!」
「大変!アン。早く脱がせて」
「はい」
ロアンヌが、しゃがむと兜に、向かって声をかける。
「クリス。しっかりするのよ」
アンが何とか脱がせようと悪戦苦闘している。甲冑は普通の服と違うから脱ぐ順番も大事だ。
「クリス。クリス。返事をして!アン。まだなの?」
「申し訳ありません。甲冑は専門外なので」
ロアンヌが、兜に耳を兜に押し当てる。しかし、何も聞こえないようで青ざめた顔をしている。これは、不味いことになっているかもしれない。二人の所へ駆け寄る。
「俺がやります」
大きな音を聞きつけた使用人たちも集まり、総出で脱がせにかかる。着る時も大変だったが、横になった状態で脱がせるのは至難の業だ。周りがこんなに騒がしいのに甲冑の中からは物音一つしない。
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