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山小屋のシンデレラは尽くされる
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届けられた脅迫状が、二人の人間によって書かれた物だということが分かった。だとしても、事件を複雑にするだけだ。そのことにロアンヌは暗雲たる気持ちになる。
「犯人側も仲間割れしているのかもしれない。結婚の中止を望んでいるルーカスと、身代金を要求しているルーカスの共犯者」
その事実に お父様が渋い顔になる。
「困ったことになったな……」
ルーカスだけ調査すれば クリスの居場所の特定ができると 思っていたのに。共犯者がいるなら割り出すのも2倍の時間がかかる。 しかも、その相手が誰かも知らない。そんな 何の手がかりも無い所から探すのは、砂漠で針を探すようなものだ。八方ふさがりで どうしようもない。
こんなところで、手間取っていたくないのに。きゅっと唇をひき結ぶ。
「幸いなのは、ルーカスがクリスに対して恋心があることね。嫌われたくないから 乱暴なことは されないでしょう」
お母様の言葉に、ほっとして胸に手を当てる。
手首を縛られたり、猿くつわをされたりしているかもしれないけれど、それ以上のことは されないだろう。
( 犯人に、反抗するようなことをしなければいいけど……)
クリスは "女の子" とか "可愛い" とかの言葉に過剰反応するから心配だ 。
そう言われると、男だと証明するために胸をはだける。
そうなったら人違いだとバレて、逆上したルーカスが " 騙したな" と言って酷いことをするかもしれない。
(あぁ 神様。私たちが助けに行くまでクリスを お守りください)
手を組むと祈る。
****
ルーカスは手際よく木箱を重ねて簡易のテーブルを作ると、レースのテーブルクロスをかぶせて椅子を置く。
その上にスクランブルエッグに、ベーコン。温め直したスコーン。2種類のジャム。淹れたての紅茶。
そして仕上げに、薔薇の花を挿した 花瓶。
テーブルを手で示しながら横に避ける。
「さあどうぞ、召し上がってください」
「うわぁ~」
そわそわと後ろから見ていたロアンヌ
様が、合わせた手を口に当てて感嘆の声をあげる。
(努力が報われた)
目がキラキラしている。こういうのが好きなんだ。と、しっかりと心にメモる。
椅子を引いて、促すと素直に席に着いた。
ロアンヌ様が片手にスコーンを持ってパクパクと、スクランブルエッグを口に運ぶ。よほど、お腹が空いていたんだな。そんな食欲旺盛なロアンヌ様を見てルーカスは目を細める。
(スコーンを離さないところを見ると、好物なんだろう)
" スコーンも好き" とメモに追加する。
「デザートも用意してるんですよ」
そう言うと、さらに嬉しそうな顔になる 。
おかわりのお茶を飲み干したロアンヌ
様に感想を尋ねる。
「いかがでしたか? お口に合いましたか? 」
「すごく美味しかった」
と、笑いかけられてルーカスは、そばかすの散った頬を染める。
好きな女性に 笑顔を向けられることが、こんなに嬉しいなんて……。
初めて知る喜びに震える。
(もっと、もっと、尽くしてあげたい)
「よっ、良かったです」
コクコクと頷くロアンヌ様の口元にクリームがついていた。
子供みたいだとクスリと笑ってハンカチで拭うと、ロアンヌ様が恥ずかしそうに目を伏せた。
( 可愛い……)
17年生きてきて、こんなに幸せなことはなかった。
(次の食事も頑張ろう)
拳を作って頷く。
*****
ロアンヌは、ため息をそっとつく。
共犯者が誰かも、クリスが何処に居るかも分からない。これでは、手の打ちようが無い。
ディーンも弟分が居なくて元気がない。アンが私を励ますように手を握る。小さく頷き返す。
重苦しい沈黙だけが広がる。
それを打ち破るように、レグールが
話を始める。
「金を要求したことを考えれば、ルーカスの友達ではなく金で雇った者だと考えて間違いないでしょう」
友人ならルーカスのことを応援する。わざわざルーカスを怒らせるようなことはしないだろう。
同意するように皆が頷く。
「いずれにしろルーカスと接触したことは間違いありません。ですから、相手が誰か分かるのかは、時間の問題です」
「使用人という可能性はないの?」
お母様の疑問にディーンが
首を振って否定する。
「もし僕が使用人の立場で頼まれたら、断ります」
「でも、令息だから断れないんしゃないの?」
幼いときから、接しているから情のようなものはあると思う。
主の成功が一番の喜びだ。だからこそ、主のことを一番に考える。
「誘拐するのが男なら手を貸しますが、女なら止めたはずです。いかなる理由があるにせよ 騎士道に背きます」
(騎士道……)
令息たちは小さい頃から、その精神を叩き込まれる。初対面の女性を拐うんだから、どんな言い訳を言っても
誘拐は誘拐。
恋人同士なら駆け落ちになるけど。
またも沈黙が流れる。
時計の音だけが部屋に積もっていく。
闇雲に探して時間の無駄だ。警備隊が戻ってくるまで待つしかない。
そんな諦めムードが、みんなの中を漂っていた。
ところが、レグールが片手を挙げて皆
を自分に向かせる。
「今は、一分一秒でも時間が惜しい状態です。警備隊長を待っていては、時間がかかりすぎます。そこである作戦を思いつきました。聞いて下さい」
皆が、その作戦が気にかかる。
教えて欲しいと、レグールを見つめると、自信満々で私達を見回す。
「今回の誘拐事件で、我々が有利な点が一つあります」
そう言って私たちに向かって指を一本立てる。
「それはなんだ」
「ここの『金額は追って知らせる』の部分です」
脅迫上手に撮ると指を差す。
そう言われてもピンとこない。
分かる? と、他の人の反応をても、私と同じように困った顔をしている。
「ルーカスは婚約式が中止になったら、クリスを送り届けるはずです。しかし、身代金が欲しい共犯者は、その前に金の受け渡しを終わらせたいと考えているはずです」
「なるほど……」
レグールの説明に、 やっと言いたいことが 分かった。
ディーンが膝を打ち付けて、小刻みに頷く。
「共犯者はルーカスに、ばれないように金額を知らせて、金を回収しないと
イケないということですね」
その後アンが 引き取る。
「もし、ルーカスにそのことがバレたら、殺されるか、全部の責任を背負わされて突き出されかもしれない。そんな危険を冒す輩は、ならず者です」
女性を助ける高尚な目的としたルーカスにとって、女性を利用として金を稼ごうとする卑劣な行為を許すはずが無い。
「犯人側から連絡が来るので、その時がクリスの居場所を知るチャンスです。連絡しに来た犯人の後を追って場所を見つけるつもりです」
レグールが、何がそう言って全員を見渡すと、お父様が異議を唱えた。
「それは構わないが、うまくいくのか?」
「勝算は十分あります。共犯者は、ルーカスに知られてはまずいですから、
長く留守にはできません。慌ててアジトに戻るはずです。だから、他の事に気が回らないでしょう」
「 ……… 」
共犯者も その場の思いつきで、身代金をもらおうと考えたに違いない。
でなかったら、 最初から 額を記入したはずだ。
そう考えると、2回共犯者の後をつけられる。身代金の金額を知らせるときと、受け取りに来たとき。途中で見失っても捜索範囲が絞られる。
これは試す価値があると思う。
「信じて頂けましたか?」
「良い案だと思う。犯人も、まさか、自分の後をついて来るとは考えまい。しかし、慎重に行動してくれ」
お父様が立ち上がって握手を求める。
レグールが嬉しそうに、その手を取る。
「期待に応えれるよう頑張ります」
「ああ、期待している」
「私も うまくいくことを願っているわ」
お母様もそう言って賛成する
お父様がレグールの事を認めてくれた事が 自分の事の様に嬉しい。
「私にも協力させてください」
ロアンヌはレグールのもとへ行くと、自分も手伝うこと真っ直ぐに瞳を見詰める。すると、レグールが苦笑いしながら肩を竦めた。
「どうせ、反対しても行くんだろう」
諦めたような口調に自分も苦笑いする。
「ごめんなさい」
レグールにとって、クリスは赤の他人だけど、私にとって大切な人だ。
どんなに酷い事をされても見捨てられない。その事を理解してくれているからの言葉に、感謝の気持ち で一杯になる。
「いいよ。知ってるから。でも、無茶はしないように」
「はい」
レグールが、私を引き寄せると額にキスした。嬉しさに額を押さえる。
そこへ、執事が冷静な声で割って入って来た。
「レグール様に任せしますが、ディーンを連れて行って下さい。腕は立つのでお邪魔にはならないと思います」
そう言ってディーンの背中を押す。
前に出されたディーンが、ペコリと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「分かった」
レグールが、受け入れると頷く。
そこへ、アンも加わる。
「タイムリミットは午後2時です。それを過ぎたら婚約式は中止にします」
厳しい顔で、" 分かってますね" と、
私とレグールを交互に睨みつける。
頷いて返事をするとアンが、私の手を撫でる。
「本当なら行かせたくないんですよ」
「分かってわるわ」
レグール同様、私を引き止められないと知っている。
アンはこの日を楽しみにしていた。
私を二回 お風呂に入れて、完璧な私を参列者にお披露目するはずだった。
それを全部諦めたことが悔しいのだろう。
出来れば中止にしたくないが、クリスの命にはかえられない。
" ごめんね" とアンの手を掴む。
すると、アンが急にレグールに向き直って指を振り回しながら迫る。
仰け反るようにして、アンから逃れようとする。
「ロアンヌ様に、かすり傷の一つでもつけようものなら、タダじゃ起きません。いいですね!」
「わっ、分かった。約束する」
脅かすように念を押されて、レグールがたじろぐ姿が可笑しくて笑いを噛み殺す。
「残り、6時間」
お父様の言葉に全員が部屋に有る時計を見る。
時刻は7時を過ぎた所だ。
「それじゃあ、全力でクリスを救出しよう」
「「「「了解!」」」」
一致団結した瞬間だ。正直、6時間で解決するとは思えないが、無理だと最初から諦めたくない。
ここはレグールの予想通りに、なる
事を願うしかない。
「私たちは何をすればいいんですか?」
「何か特別に用意するものはありますか?」
ディーンと並んでレグールの指示を待つ。同行するなら、準備万端で行きたい。
「犯人側も仲間割れしているのかもしれない。結婚の中止を望んでいるルーカスと、身代金を要求しているルーカスの共犯者」
その事実に お父様が渋い顔になる。
「困ったことになったな……」
ルーカスだけ調査すれば クリスの居場所の特定ができると 思っていたのに。共犯者がいるなら割り出すのも2倍の時間がかかる。 しかも、その相手が誰かも知らない。そんな 何の手がかりも無い所から探すのは、砂漠で針を探すようなものだ。八方ふさがりで どうしようもない。
こんなところで、手間取っていたくないのに。きゅっと唇をひき結ぶ。
「幸いなのは、ルーカスがクリスに対して恋心があることね。嫌われたくないから 乱暴なことは されないでしょう」
お母様の言葉に、ほっとして胸に手を当てる。
手首を縛られたり、猿くつわをされたりしているかもしれないけれど、それ以上のことは されないだろう。
( 犯人に、反抗するようなことをしなければいいけど……)
クリスは "女の子" とか "可愛い" とかの言葉に過剰反応するから心配だ 。
そう言われると、男だと証明するために胸をはだける。
そうなったら人違いだとバレて、逆上したルーカスが " 騙したな" と言って酷いことをするかもしれない。
(あぁ 神様。私たちが助けに行くまでクリスを お守りください)
手を組むと祈る。
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ルーカスは手際よく木箱を重ねて簡易のテーブルを作ると、レースのテーブルクロスをかぶせて椅子を置く。
その上にスクランブルエッグに、ベーコン。温め直したスコーン。2種類のジャム。淹れたての紅茶。
そして仕上げに、薔薇の花を挿した 花瓶。
テーブルを手で示しながら横に避ける。
「さあどうぞ、召し上がってください」
「うわぁ~」
そわそわと後ろから見ていたロアンヌ
様が、合わせた手を口に当てて感嘆の声をあげる。
(努力が報われた)
目がキラキラしている。こういうのが好きなんだ。と、しっかりと心にメモる。
椅子を引いて、促すと素直に席に着いた。
ロアンヌ様が片手にスコーンを持ってパクパクと、スクランブルエッグを口に運ぶ。よほど、お腹が空いていたんだな。そんな食欲旺盛なロアンヌ様を見てルーカスは目を細める。
(スコーンを離さないところを見ると、好物なんだろう)
" スコーンも好き" とメモに追加する。
「デザートも用意してるんですよ」
そう言うと、さらに嬉しそうな顔になる 。
おかわりのお茶を飲み干したロアンヌ
様に感想を尋ねる。
「いかがでしたか? お口に合いましたか? 」
「すごく美味しかった」
と、笑いかけられてルーカスは、そばかすの散った頬を染める。
好きな女性に 笑顔を向けられることが、こんなに嬉しいなんて……。
初めて知る喜びに震える。
(もっと、もっと、尽くしてあげたい)
「よっ、良かったです」
コクコクと頷くロアンヌ様の口元にクリームがついていた。
子供みたいだとクスリと笑ってハンカチで拭うと、ロアンヌ様が恥ずかしそうに目を伏せた。
( 可愛い……)
17年生きてきて、こんなに幸せなことはなかった。
(次の食事も頑張ろう)
拳を作って頷く。
*****
ロアンヌは、ため息をそっとつく。
共犯者が誰かも、クリスが何処に居るかも分からない。これでは、手の打ちようが無い。
ディーンも弟分が居なくて元気がない。アンが私を励ますように手を握る。小さく頷き返す。
重苦しい沈黙だけが広がる。
それを打ち破るように、レグールが
話を始める。
「金を要求したことを考えれば、ルーカスの友達ではなく金で雇った者だと考えて間違いないでしょう」
友人ならルーカスのことを応援する。わざわざルーカスを怒らせるようなことはしないだろう。
同意するように皆が頷く。
「いずれにしろルーカスと接触したことは間違いありません。ですから、相手が誰か分かるのかは、時間の問題です」
「使用人という可能性はないの?」
お母様の疑問にディーンが
首を振って否定する。
「もし僕が使用人の立場で頼まれたら、断ります」
「でも、令息だから断れないんしゃないの?」
幼いときから、接しているから情のようなものはあると思う。
主の成功が一番の喜びだ。だからこそ、主のことを一番に考える。
「誘拐するのが男なら手を貸しますが、女なら止めたはずです。いかなる理由があるにせよ 騎士道に背きます」
(騎士道……)
令息たちは小さい頃から、その精神を叩き込まれる。初対面の女性を拐うんだから、どんな言い訳を言っても
誘拐は誘拐。
恋人同士なら駆け落ちになるけど。
またも沈黙が流れる。
時計の音だけが部屋に積もっていく。
闇雲に探して時間の無駄だ。警備隊が戻ってくるまで待つしかない。
そんな諦めムードが、みんなの中を漂っていた。
ところが、レグールが片手を挙げて皆
を自分に向かせる。
「今は、一分一秒でも時間が惜しい状態です。警備隊長を待っていては、時間がかかりすぎます。そこである作戦を思いつきました。聞いて下さい」
皆が、その作戦が気にかかる。
教えて欲しいと、レグールを見つめると、自信満々で私達を見回す。
「今回の誘拐事件で、我々が有利な点が一つあります」
そう言って私たちに向かって指を一本立てる。
「それはなんだ」
「ここの『金額は追って知らせる』の部分です」
脅迫上手に撮ると指を差す。
そう言われてもピンとこない。
分かる? と、他の人の反応をても、私と同じように困った顔をしている。
「ルーカスは婚約式が中止になったら、クリスを送り届けるはずです。しかし、身代金が欲しい共犯者は、その前に金の受け渡しを終わらせたいと考えているはずです」
「なるほど……」
レグールの説明に、 やっと言いたいことが 分かった。
ディーンが膝を打ち付けて、小刻みに頷く。
「共犯者はルーカスに、ばれないように金額を知らせて、金を回収しないと
イケないということですね」
その後アンが 引き取る。
「もし、ルーカスにそのことがバレたら、殺されるか、全部の責任を背負わされて突き出されかもしれない。そんな危険を冒す輩は、ならず者です」
女性を助ける高尚な目的としたルーカスにとって、女性を利用として金を稼ごうとする卑劣な行為を許すはずが無い。
「犯人側から連絡が来るので、その時がクリスの居場所を知るチャンスです。連絡しに来た犯人の後を追って場所を見つけるつもりです」
レグールが、何がそう言って全員を見渡すと、お父様が異議を唱えた。
「それは構わないが、うまくいくのか?」
「勝算は十分あります。共犯者は、ルーカスに知られてはまずいですから、
長く留守にはできません。慌ててアジトに戻るはずです。だから、他の事に気が回らないでしょう」
「 ……… 」
共犯者も その場の思いつきで、身代金をもらおうと考えたに違いない。
でなかったら、 最初から 額を記入したはずだ。
そう考えると、2回共犯者の後をつけられる。身代金の金額を知らせるときと、受け取りに来たとき。途中で見失っても捜索範囲が絞られる。
これは試す価値があると思う。
「信じて頂けましたか?」
「良い案だと思う。犯人も、まさか、自分の後をついて来るとは考えまい。しかし、慎重に行動してくれ」
お父様が立ち上がって握手を求める。
レグールが嬉しそうに、その手を取る。
「期待に応えれるよう頑張ります」
「ああ、期待している」
「私も うまくいくことを願っているわ」
お母様もそう言って賛成する
お父様がレグールの事を認めてくれた事が 自分の事の様に嬉しい。
「私にも協力させてください」
ロアンヌはレグールのもとへ行くと、自分も手伝うこと真っ直ぐに瞳を見詰める。すると、レグールが苦笑いしながら肩を竦めた。
「どうせ、反対しても行くんだろう」
諦めたような口調に自分も苦笑いする。
「ごめんなさい」
レグールにとって、クリスは赤の他人だけど、私にとって大切な人だ。
どんなに酷い事をされても見捨てられない。その事を理解してくれているからの言葉に、感謝の気持ち で一杯になる。
「いいよ。知ってるから。でも、無茶はしないように」
「はい」
レグールが、私を引き寄せると額にキスした。嬉しさに額を押さえる。
そこへ、執事が冷静な声で割って入って来た。
「レグール様に任せしますが、ディーンを連れて行って下さい。腕は立つのでお邪魔にはならないと思います」
そう言ってディーンの背中を押す。
前に出されたディーンが、ペコリと頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「分かった」
レグールが、受け入れると頷く。
そこへ、アンも加わる。
「タイムリミットは午後2時です。それを過ぎたら婚約式は中止にします」
厳しい顔で、" 分かってますね" と、
私とレグールを交互に睨みつける。
頷いて返事をするとアンが、私の手を撫でる。
「本当なら行かせたくないんですよ」
「分かってわるわ」
レグール同様、私を引き止められないと知っている。
アンはこの日を楽しみにしていた。
私を二回 お風呂に入れて、完璧な私を参列者にお披露目するはずだった。
それを全部諦めたことが悔しいのだろう。
出来れば中止にしたくないが、クリスの命にはかえられない。
" ごめんね" とアンの手を掴む。
すると、アンが急にレグールに向き直って指を振り回しながら迫る。
仰け反るようにして、アンから逃れようとする。
「ロアンヌ様に、かすり傷の一つでもつけようものなら、タダじゃ起きません。いいですね!」
「わっ、分かった。約束する」
脅かすように念を押されて、レグールがたじろぐ姿が可笑しくて笑いを噛み殺す。
「残り、6時間」
お父様の言葉に全員が部屋に有る時計を見る。
時刻は7時を過ぎた所だ。
「それじゃあ、全力でクリスを救出しよう」
「「「「了解!」」」」
一致団結した瞬間だ。正直、6時間で解決するとは思えないが、無理だと最初から諦めたくない。
ここはレグールの予想通りに、なる
事を願うしかない。
「私たちは何をすればいいんですか?」
「何か特別に用意するものはありますか?」
ディーンと並んでレグールの指示を待つ。同行するなら、準備万端で行きたい。
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