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フェネクス
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しおりを挟む辞書を棚から取り上げる。
ずっしりとしたそれに、自分の探し物があるだろうかと一抹の不安を覚えながら開く。
「ふ……ふ…」
つい呟きが出る。
けれど目的の単語を見つける事が出来ずにぱたんと辞書を閉じた。
隣の辞書を手に取り、再び『ふ』の項目を探す。
「ふぁ~~あ…」
昼下がりの図書館は親子連れも多く、静かなとは言え騒がしい。けれど司郎の欠伸はそれよりも大きかった。
「先輩っ」
およそ図書館に居なさそうな姿の司郎は口をぱくんと閉じ、バツが悪そうに顔をしかめて肩を竦める。
眠そうな司郎は酷く機嫌が悪そうに見え、そのせいか何もせずに椅子を占領していても誰も何も言ってはこない。
「退屈なら、外に出ててもいいですよ?」
「デートなのにか?」
「っ!!ちょ…っどうしてそんな話になってるんですか!?」
「お前が誘ったんだろ?」
「違いますっ」
思わず大きな声で言い返していた事に気付き、慌てて口を押える。
「……もう少しで済みますから…」
そう言って再び辞書に目を落とした。
フェネクス
その単語を思い出す度に苦い物が胸に広がる。
結局その正体が分からず、けれど突き止めたい葉人はかすかな望みをかけてその名前を調べる事にした…が、学校の図書室ではあの時の記憶が生々しすぎて近寄りがたく…
仕方なくこうして公立図書館へと足を延ばしたのだ。
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