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威
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しおりを挟む「――――っふざけんなっっ!!」
威の顔面近くに振り上げられた拳が弱々しく震え、力なく胸の上へと落とされた。
「なんで…あんなことする前に……っぅ、言って…くれたら……」
「…お前を、無くせって言うのか?」
青ざめた顔が葉人を覗き込み、そこにある眼だけが爛々とした鋭い光を放つ。
先程までの罪悪感に押しつぶされそうな表情はどこにもなく、抵抗も出来ないままに喰われる草食獣の心持で、葉人はびくりと身を引いた。
「幾ら仲が良くたって、loveとlikeは別だろ……伝えて………一番近くにいるって位置を無くすぐらいなら…」
一度想いを遂げて、それを形見に気持ちに蓋をする方が良かった。
「あの日、教室に入る葉を見た」
葉人と約束してたのに…と文句を言う威と亜矢子が口喧嘩をして、結局あの日は共に帰る事は無かった。
急いで学校に引き返した威が見たのは、教室に入ろうとする葉人。
夕日に鮮やかに照らされて、儚げなうっとりとした表情が劣情を誘う。
逢魔ヶ刻
闇の濃くなり始めたその空間に飲まれたと、言えなくもなかったあの瞬間、まさに…魔が差した。
あのDVDのイメージが重なって…
他の奴らに触れられるのがどうしても許せなかった。
それならば…
「他の奴の物になるくらいなら…いっそ…」
俺の物だと印を刻んで、独り昏い愉悦に浸りたかった。
「そ…んな…、身勝手、っ…あるかよ…」
「…………」
たすりと、弱い拳が振り下ろされて威の胸を叩く。
訳も分からないまま襲われ、心を壊され、…そして襲われ…
負の連鎖の様に続いた出来事に葉人の瞳から涙が溢れて行く。
たす、たす…と繰り返し下ろされる拳を、威はそっと掴んだ。
「ごめん」
「うるさいっ」
あの碌々眠れなかった日々を…
痛みと恐怖に怯えて過ごした時間を…
威は葉人に何が起こったか知っていながら「大丈夫か?」と聞いていたのかと思うと、胸の奥の傷に塩をすり込まれているような気にさえなってくる。
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