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威
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しおりを挟む誰が犯人か分からず、疑心暗鬼の中唯一の救いだった威がもっとも酷い裏切りの犯人だった。
きしり…と、胸の軋むような音が耳の奥に響き渡る。
一番、塞いでしまいたかった黒い物が音を立てて流れ出てくるようで、葉人は威の言葉を遮るために声を上げた。
「うるさいっうるさいっ!!」
「ごめん」
「っ…うる……」
「ごめん。でも、好きなんだ」
血の気を失って冷たかった威の掌が急に熱を持ったような気がした。
「それでも、…葉の事を愛してる」
自身の想いを御しきれなかったどうしようもない憤りと後悔と、閉じ込めても溢れ出した切ない程の愛しさを込めた威の囁きが耳を打つ。
「か…勝手…だ………」
「ああ」
再びの簡潔な答えに、葉人は馬鹿にされたような、横殴りに殴られたような気分になって黙り込んだ。
ぐっと噛み締めた唇から、微かな鉄の味を拾う。
「勝手だ。勝手でも、それでも…」
例えそれが本末転倒な結果になったとしても、葉人に触れたかった…と、葉人の唇に指先で触れながら呟く。
「ごめん…」
そんな言葉で済ませられるはずがないだろうと言う言葉は葉人の喉の奥から出る事はなく、代わりに悲鳴に近い嗚咽が迸った。
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