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朝
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しおりを挟む「俺は、お前の事が好きだと言った」
「うん…でも、一番に優先してくれないから」
「……」
ゆらりと揺れた瞳が答えだったのか、司郎はそうか…と呟いて立ち上がった。
威に復讐したいと願った自分が司郎を頼りにした理由を知った気がして、きゅっと胸が苦しくなる。
司郎はきっと、内に入った人間は何を置いても守る人間なのだろう。
本来頼るべき威に裏切られて、本能のように縋れる相手を嗅ぎ分けた。
けれど…
司郎には、例え恋愛対象でなくとも土下座してでも守りたい相手がいる。
先程、威がしたように…
大事にしたい相手がすでにいる。
その事に胸が痛むのは、身勝手だ…と葉人は胸中で自嘲した。
「両想いとヨコレンボじゃ、分が悪いな」
にやりと皮肉るような笑いはいつもの軽口を叩くそれだ。
「せんぱ…」
「タケルに飽きたらいつでも来い」
頭を撫でた手がするりと頬を包み、優しく頬に触れた。
「ちょ!先輩っ!!」
ふぃっと近寄ってくる顔に葉人が動けずにいると、威が慌てて間に入ってくる。
「うっせ。減るもんじゃなし、触らせろよ」
威に押し退けられながらも伸ばした指先で唇をするりと撫で、意味ありげにぱちんとウインクを投げて寄越す。
むっとして距離を取ろうとする威にケラケラと笑い、邪魔だと言わんばかりに手を振った。
「ほら、行けよ。睡眠の邪魔だ」
「授業出て下さいよ」
「余計なお世話だ」
金網にもたれた司郎は煙草を咥えてからもう一度、しっしっと手を振る。
「先輩」
ごめんなさい…と、出かけた言葉を飲み込む。
「――――ありがとうございました」
頭を下げてそう言うと、煙草を吐き出す息に紛れて「おぅ」と小さな返事が返った。
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