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おまけ 34
しおりを挟む黒い、キラキラとした瞳は俺の目とは違い小さな光を弾くようで美しい。
いつまでも覗き込んでいたくなるような深い叡智の泉のようで、俺を心配してくれていると言うのにそれをそっちのけにしてうっとりと見入ってしまった。
「ちょ クラド様っ あまり見つめられると照れくさいです」
ヒロを連れて日光浴をするために外に出ることもあると言うのに、はるひの肌はいつまでも白いままで、恥ずかしがってこうして赤くなると耳どころか項の方までピンク色が広がって……
甘い匂いがしてくるのだから、誘っていると勘違いしても仕方がないだろう。
「いい匂いがするものだから 」
思わずすんすんと鼻を鳴らしてしまうと、はるひが少し警戒したような表情を作った。
これだけいい匂いをさせておきながらお預けを食らうこちらの気持ちも慮って欲しいものだが、向こうの世界ではこう言うものなのだろうか?
そうだとしたら向こうの雄達には頭が下がる思いだった。
いつもは素直に朝までぐっすり眠って起きないヒロがぐずぐずと泣くでもない、怒るでもないようにぐずり続けて眠ってくれたのは深夜に近い時間帯で、いつもの部屋じゃないからか?なんてはるひと苦笑しながら床に就いたのほんの少し前のことだった。
慣れない場所と慣れない相手に緊張していたのか、はるひも横になってすぐに落ちるように眠ってしまい、今は腕の中で健やかな寝息を立てている。
────意識したのではなく、自然とピクリと耳が動いた。
明かりを落としてある部屋は暗いとは言え俺にとってはなんら支障はない。
「…………」
はるひを起こさないことにだけ気を付けてそろりと寝床を抜け出し、ベッド脇に立てかけてある長剣を手に取った。
「 …………母上」
詰めていた息をゆっくりと吐き出しながらそう呼ぶと、部屋の扉が僅かだけ開く。一条の光も差し込まないところを見ると、廊下も明かりが落とされているようだ。
微かに開いた隙間から俺と同じ時折銀に光る瞳が覗き、促すようにゆっくり一度瞬いた。
母は、言葉を発してはいない。
けれど、耳が微かな音を拾って忙しなく動いているのを感じる。
「 何が 」
できる限り音を立てないように部屋から滑り出て母に向き合おうとした時、母の衣装が深い紫のドレスではなく動きやすさを重視した兵士用の制服で、後ろに得物である大剣を置いてあると言うのに気が付いた。
ドレスのボリュームがなくなってしまうと、少女と言ってもいいようなほっそりとした体が兵士の制服を着ているのがちぐはぐに見えて、何が起こっているのか尋ねる前にそちらに目が行ってしまった。俺の視線に気付いたのか何か言いたそうな素振りを見せたが、すぐに頭を下げて「お休みのところを申し訳ございません」といつもの口調で告げる。
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