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おまけ 37
しおりを挟む風に乗って伝わってくるのは小競り合いと、それから薙ぎ払われてバキバキと体が崩れ去って行く瘴気や魔物達の上げる断末魔の悲鳴だ。
神の力がまだらに宿った武器とは言え、母に掛かればそんなことは大きな問題ではないらしい。月のない空に輝く星の光を弾くために辛うじて母の振る大剣の軌跡を確認することができるが、それがなければ夜の闇の中、気付いたら死んでいた なんてことになりそうだった。
暗い闇に溶け込むような母の姿を見て、思わず言葉が漏れる。
「……漆黒を纏う絶望とは言い得て妙だ。なるほど 」
感心のままに出ようとする言葉を途中で飲み込み、これ以上後れを取っては と剣戟煌めくそちらへと駆け出す。
走る度に舞い上がる青臭い草の臭いと、近づく度に強くなる腐臭に俺の嗅覚は今にも麻痺してしまい、何も感じることができなくなるのではとひやりとさせる。
「どうしてこちらに?」
駆け寄る俺に気づいた瘴気がこちらに向かおうとした瞬間、母が何かをしたらしい……さっと霧散して消えて行った。
「俺も騎士の端くれですので」
「今はそのような身分ではございません、私がお守りいたします、お帰り下さい」
「それを言うなら 」
俺がちらりと横顔を盗み見たのに気づいたらしく、母は珍しく顔を軽くしかめて見せる。
「 母上もそうでしょう」
騎士業は引退して今は陛下とミロク付の侍女だ。
俺は護衛騎士は辞したが未だ騎士ではあるし、もし大公の地位を貰うことができたとしても騎士であることを引退する気はないが、母はそうもいかないせいか返す言葉を考えあぐねているようだった。
自分がここに居たままで俺を下がらせるための大義名分を考えているようだけれど、その目は落ち着かずに森の方を睨みつけている。
「数が多いです、諦めてください」
「 承知いたしました。閣下の手を煩わせますこと、まことにも……」
「母上」と呼びかけて言葉を遮ると、剣を森の方に向けて油断しないまま言葉を続けた。
「俺が、母上と共に戦ってみたいのです」
そう言うと、黒くピンと立った耳がピクリとこちらに向く。
「偉業を成した母上と、肩を並べて戦いたいと思うのです」
銀に光を反射する瞳は警戒のためにこちらを見なかったが、耳をじっとそば立てている気配は感じる。
「一人の騎士として、母上の子として」
オレが騎士になった時、いや……物心ついた時にはすでに母は騎士業を引退してしまっていて、現役時代の母をこの目で見ることは叶わなかった。
ただ、誉れ高い剣聖であり、幾度もの遠征の死線をくぐり抜けてミロクを守り通し、どのような苦境も全てその大剣で切り開いたと聞く。
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