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おまけ 38
しおりを挟む「…………承知いたしました」
いつもと変わらぬ返事に肩透かしを食らった気になって苦笑が零れそうになったけど、翻る背に見える尾が揺れたような気がした。
それが今は母の精一杯の答えなのだろうと理解して、銀色の柄を握る手に力を込めると、ぞわぞわとした嫌な予感が背筋を撫でるのを感じながら駆け出す。
体に纏わりつような風が、腐臭を孕んで今にも息が詰まりそうだ。
一回、
二回、
ひらりと軽やかにさえ見える優雅さで翻る大剣が光り、ざぁ と瘴気が霧散する音が聞こえたが、それでもなお母の動きは止まらずに地面を蹴り出して更に身の丈を越える大剣を振り被る。
俺が母に追いつくまでに、すでに小競り合いの気配はあった。
そう、あった。
「 ────っ!」
剣を振り下ろすと砂袋を切ったかのようなザリ と嫌な感触がして、イトミミズと表現された黒い一見頼りなさそうな触手が霧散する。
「母上……何体切りましたか⁉︎」
嫌な予感にぶる と体が震えた。
「何体……そうですね、十数匹は 」
そう言いながらも振り下ろす大剣に切り裂かれて、また一体瘴気が塵へと戻って消えていく。
嫌な予感に思わずはるひのいる屋敷の方を振り返ると、俺の目でもわずかにしか確認できないほど闇の中に微かな建物の輪郭だけが見えて……
暗い中に溶けるようなその姿にざわりと胸が騒ぐ。
はるひはここを周囲を小高い丘や森に囲まれたどかな場所だと思っていたようだったが、視界に入ることのないその周囲はぐるりと高い壁で囲われているし常に兵士の見回りがされていて、退位したとは言え元国王が隠遁するために万全の警備が敷かれている場所だ。
そして母は外の兵士達には連絡を送ったし、交戦中だろうとも言っていた。
つまりここに居るのは外の兵士達の討ち漏らした分で……
「 っ! 母上っ!」
瘴気の塊を切り捨てながら小さな子供になった気分で母を呼ぶと、小さくこくりと首を縦に振るのが見える。
「この数は異常ですっ!」
元来、瘴気も魔物も十を超える数で群れたりはしない。だから外の兵士がもし討ち漏らしたのだとしてもこの数はおかしかった。
もし、たまたま、偶然、二つのグループが同時にここに迷い込んだとして と、滑稽で馬鹿馬鹿しいことを思った瞬間、
「 ────っ‼︎」
こちらを向いた母は叫んだ言葉に息を詰まらせながら、真っ白になった視界から逃げるように体を伏せた。
とっさにこちらに伸ばされた手が俺の頭を押さえ、めちゃくちゃに耳を押さえられる感覚がした一刹那の後、それが音なのだと理解するのに時間が必要な程に体を震わせる轟音が地面を揺るがし、けれど微かな音の余韻さえ残さないままにあっと言う間に消え去ってしまう。
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