月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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クラスでの変化

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翌日、遅刻ギリギリで登校した僕はテストにあまり集中出来なかった。
それでも、幸いテストで躓く事もなく、昨日勉強した事を無駄にせずに済んでホッとする。
手応え的に、いつもの点数よりも良いかもしれない。 
テストが終わると、みんな安心したのかクラスに活気が戻ってくる。
そんな浮かれた空気は僕の周りまで伝染していた。
普段は話すことのないクラスメイトから珍しく話しかけられる。
「そういえば篁この前、隣のクラスの姫柊と歩いていたけどお前たちこっそり付き合っているの?」
「いや、姫柊さんとはこの前、偶然話す機会があってそれ以来話すようになっただけだよ」
「なんだよ、付き合ってないのか、俺はてっきり始業式の日に仲良さそうにしていたから夏休み中に付き合い始めたと思ったんだけど」
そう言った彼は、離れた場所に座る別のクラスメイトに向けて「篁は姫柊と付き合ってないってよ、良かったな」と声を掛けて親指を立てた。
声を掛けられたクラスメイトは、顔を真っ赤にしてこちらに向かって弁明しているけど、その態度で既に色々手遅れだった。
周りでこちらを興味無いふりをして聞き耳をたてていたクラスメイトがクスッと笑って今度こそ本当に雑談に戻る。
自分は傷付かない他人の恋愛を離れた位置から見るのは誰にとっても娯楽が溢れた今の時代でも得難い娯楽なのだろう。
その証拠に男女問わず、恋愛のゴシップは友人など関係なく、コミュニティの間ですぐに広まる。
人の関わりが少ない僕の所まで話が回ってくる程だ。
何しろ自分は傷付かずに恋愛ドラマより近い場所からその様子を見る事が出来る。
学校という変わり映えしない箱の中では日常に対する劇薬のような効果を持つ。
いつもは傍観者の僕も今回に関しては当事者側になるので先程のやり取りで想定外の暴露をされて居心地悪そうに周りの声を気にしている男子に視線を向けた。
先程から僕のさっきの返事に納得していないのか居心地悪そうにしながらもチラチラとこちらを見ている。
僕の視線に気付いてさらに居心地悪そうにさせてしまってその様子を少々気の毒に思いながら、この事態を引き起こした彼の方を見る。
彼は弁明をしているクラスメイトに軽く謝りながらこちらにも謝ってくる。
そのまま誤魔化すように話題が今日のテストになる。
僕としても彼女との事を下手に掘り下げられたくないので好都合だ。
「そういえば、篁はテストどうだった?」
「多分そこそこは出来ているとは思う」
「なら、せっかくだし一緒に確認しないか?」
「それは構わないけど」
僕が了承すると彼はさっきのクラスメイトを呼んで来てしまった。
彼からすれば先程の失敗を挽回してアシストするつもりなのか、僕の内心の焦りには当然だけど気付かない。
彼からしたら、僕に対しても先程の微妙な空気を払拭して交流をしようという好意なのかもしれないけど、彼女に好意を寄せる相手といきなり急接近するのは僕には難易度が高い。
気持ち的には何処に地雷が埋まっているのかわからないので会話をするのも一苦労だ。
とりあえず、彼女に関する話題だけは全力で回避しようと決めて僕は問題用紙を手に答え合わせに参加した。

そんな僕の不安とは裏腹にスムーズに問題用紙を見ながら答えをお互いに確認していく。
自分の点数次第で補習や追加の課題が出されるのであまり雑談はせず真面目に答え合わせをしていく。
時折答えが食い違ってスマホで調べたり不安になりながら他人と採点するのは楽しかった。
放課後になり、部活のあるクラスメイトと別れ、教室を出て彼女と合流する。
グラウンドの前を通ると、先程別れたクラスメイトが手を挙げて声を掛けてくる。
僕も彼に倣って控えめに手を挙げて応えていると、隣で見ていた彼女は意外そうな顔をして控えめに驚いている。
そんな彼女に「今日のテストの後に話しかけられて色々あって一緒にテストの確認とかしていたんだよ」
「へぇ、友達も出来たみたいで良かったね」
そう言って喜んでくれる彼女に、仲良くなった最初のきっかけは彼の名誉の為に黙っておいた。
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