【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの

文字の大きさ
26 / 49

お願い

しおりを挟む
「ど、どうするって」

 もう、ライルの師匠であることを隠せないのかもしれない。

「武闘会後、ライルの行動を調べてもらった。毎朝、君と修行をしているそうだね」

 うわっ。さすが、権力者。修行中、他の人の気配なんて感じなかったんですけど。影の者とかがいるんですかね。

「はい。ライルさんから頼まれて身体強化を教えています」
「目的は? 誰に頼まれた」
「目的はライルさんが武闘会でジョージさんに勝つこと。頼んできたのはライルさんです」

 王太子の微笑みが深くなって怖い。

「最初から変だと思っていたんだ。入学式に遅刻しそうになって、私にぶつかるなんて」

 それは変ですよね。たぶん、それがゲームの強制力で。
 なんて言い訳もできず、ヴィオラは困った。

「グラント領では何が起きているんだ? 急に豊かになったかと思うと、娘は私に近づく」

 私は近づきたくなかったのに、あなたが生徒会に誘ったんですが。

「第二王子派というわけでもないようだが。グラント領を支援しているのはどこだ。まさか、他国ではあるまいな」

 急に豊かになったから自力ではないと思われている。強いて言うなら、支援したのは前世のヴィオラ。まさか、こんなふうに疑われるとは思わなかった。

「ふむ。少なくとも、君は何も知らないようだな」

 えーっと、色々喋って、私の反応を確認していたということでしょうか。
 ヴィオラが固まっているうちにジョージ王太子は話を進めていく。

「グラント伯の企みか」

 ヴィオラはハッとなった。

「父は関係ありません」

 断罪フラグ? 悪役令嬢を逃れようとしたら、父親が悪役になるの?

「じゃあ、誰なんだい」
「誰もいません」

 どうすればいい。ヴィオラは必死で考える。

「私の行動を全て監視してください。私がこの国を裏切るような者ではないこと、父も母も私もどこの派閥にも所属していない中立派であることがわかるでしょう」

 王太子が目を細める。

「そうだね。とりあえず、君を尋問しても無駄そうだ。その代わり、一つお願いがあるんだけど」

 このタイミングでのお願い、怖さしかない。

「大丈夫。簡単なことだよ。さ、戻ろうか」

 そう言うと、王太子はすっと、ヴィオラから離れた。
 何を頼まれるのかわからず、その後の打ち上げはもう、ヴィオラにとって苦痛でしかなかった。

 次の日の朝。

「ライル、ごめんなさい」

 山の中の修行場所でヴィオラは土下座する勢いでライルに謝っていた。

「今日から一緒に修行させてもらう。よろしく」

 そのヴィオラの後ろから、にこやかにジョージ王太子が現れる。カジュアルな格好でもキラキラ感が抜けていない。
 ライルは顔をしかめた。

「ヴィオラさん、気にしないでください。断ることはできないのはわかっています」

 ライルは武闘会以降、なぜか、ヴィオラのことを師匠と呼ばなくなった。勝たせることができなかったせいだろうか。おまけにジョージ王太子が修行に参加したいとお願いを断れずに連れてきて。ライルが王太子に勝とうとしているのに、これじゃあ台無しだ。

「修行時間はヴィオラもライルも私のことを呼び捨てにしてよ」

 にこにこしている王太子をライルは冷たい目で見た。

「ヴィオラさんのことを呼び捨てにしないでください」
「お互い、呼び捨てが一番、よくない?」

 ライルがヴィオラの様子を伺うので、ヴィオラはうなずいた。

「ライル、お互いに呼び捨てにしましょう」
「ヴィ、ヴィオラ」

 ライルは呼び捨てに抵抗があるらしいが、仕方ない。
 ういえば、『聖女は愛に囚われる』のラストはヒロインとヒロインの選んだ攻略対象者が世界を救うために旅立つシーンだった。
 世界を救うということはラスボスと戦うということのはず。つまり、攻略対象者が強くなっていれば、ヒロインのアリアナは楽になる。
 うんうん。じゃあ、頑張ろう。と、ヴィオラは気持ちを切り替えた。

「じゃあ、ライル。ジョージに身体強化の基本を教えてあげて。間違った点があれば、私が修正するから」
「俺がですか?」
「私の一番弟子だもの。それに人に教えると、いいかげんなところがあれば、気づくことができるから」
「わかりました」

 ライルがキリッと顔を引き締める。男らしいライルとキラキラのジョージ。どう見ても、ゲームのスチルだ。

「それでは、俺の言うことをよく聞いてくださいね。ジョージ」
「ああ、ライル」

 何だか、火花が散っているような気もするけど、二人とも頑張れ~。
 ヴィオラは開き直って気楽になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~

福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

乙女ゲームのヒロインに生まれ変わりました!なのになぜか悪役令嬢に好かれているんです

榎夜
恋愛
櫻井るな は高校の通学途中、事故によって亡くなってしまった ......と思ったら転生して大好きな乙女ゲームのヒロインに!? それなのに、攻略者達は私のことを全く好きになってくれないんです! それどころか、イベント回収も全く出来ないなんて...! ー全47話ー

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...