龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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聖夜の夢

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母がアレクサンドラを見つめてくる。
何処かへ手を引かれて歩き出す。
母を見上げつつ、前へと進む。

「アレクサンドラ」

母の声に足を止める。
母が誰かに手を振り、その誰かは剣を片手に来る。
この人は誰だろうか。

赤い、まるでルビーのような瞳の男。
大柄で、好奇心旺盛な、それでも優しそうに見て、母を落としそうに見る。
力強いルビーの瞳は母の頷きに応えるようにアレクを持ち上げる。

「アレクサンドラ」

男の口から出る名前に何故かしっくりきてしまう。
母を見れば彼女は男のそばに寄りかかる。
「私の勇者様なの。アレクサンドラ」
(私の勇者様)
母の最期の言葉が浮かんでくる。
あぁ。母は、母はちゃんと空で安らかに。
父と寄り添えていたのだと涙が浮かぶ。

「アレクは贅沢な瞳だな。俺と母さんの瞳もちか」
「いいとこどりなの」
精霊に言われた言葉を伝えれば、彼は満面の笑顔。

「そうだな。アレクサンドラ。剣を振ってはいるか」
「運動神経はないみたいよ。手から剣が抜けちゃうの。剣を持つのが嫌みたい」
剣が抜けちゃうのと告げる。
アレクサンドラが剣を握ったのは亡くなったあとのはずだが何故知っているのかと驚く。
剣を握るのが嫌なのかはアレクサンドラにも分からないが。
いや。見守ってくれていたのだと心が温かくなる。

「でも精霊に聞いた通り目や口は母さん譲りで、耳や鼻、皮膚の色とか、髪の色は俺譲りだな」
嬉しそうに笑う父に精霊が見えるのかと父を観察する。
赤い瞳を示すと父は続ける。
「精霊が見える血筋でな。それでなくとも人族は精霊が見える特殊な奴は勇者か聖女に担ぎ上げられるからなぁ」
母が辛そうに父に寄り添う。
「アレクサンドラに戦いのセンスがなくてよかったのが俺にとっては奇跡だな」
手を伸ばして赤い瞳に触れる。

綺麗で輝かんばかりの瞳。
髪色や肌は少し薄いような気がする。

「おとうさん」

口にすれば父の瞳に涙が浮かぶ。

「あぁ。アレクサンドラ。生まれてきてくれてありがとう」
「アレク。私と私の勇者の子供に生まれてきてくれてありがとう」
「おかあさん。おとうさん。アレクサンドラは生まれてきてうれしいですか?」
二人が顔を見合わせてから微笑むとアレクサンドラを見る。

「次に会うときは年老いた姿だぞ」

視界が滲む。
太陽のような父の笑顔にアレクサンドラは微笑み返す。



ボロボロとこぼれる涙に、いつの間にか帰ってきていたサンムーンが慌てて涙を拭ってくる。

アレクサンドラは幸せであると空にいる父母に見せるようにサンムーンに寄り添う。









約十数年前。
人族の王城にある地下牢。
明日密かに処刑されると言われた赤目の勇者は精霊から子が生まれたと聞く。
どんな子だと彼らからの話を聞いて、しかし自分への奇跡はそこで止まる。
一目見たかったと、抱きしめたかったと彼女と語った夢が崩れ落ちていく。
逃がしたはずの仲間とその家族を人質にされては逃げ出すこともできない。
それまでの拷問のせいでその気力も今は失っている。

「アレクサンドラ。アレクサンドラ。やっぱいい名前だ」

その昔、精霊と共に古の国を切り開いたという精霊王の名を息子に。
愛を伝えれない愚かな父のかわりに精霊の加護と愛を。
彼女が歌った音程を思い出して、音痴を牢獄内で披露する。

精霊のうちの一人がぱちぱちと手を鳴らしてくる。
上級には届かない力のない
精霊だが、幼い頃からいた馴染みのある精霊。

「なぁ。一つ頼まれてくれないか?」

自分が死んだらアレクサンドラと妻を見守ってほしいとその精霊に願う。

その精霊は任されたと頷き、そそて彼の妻へ死んだことを伝えに向かう。
最期まで誇り高き優しい勇者であった。と。

精霊は先日お願いされた勇者と勇者の妻の願いを守るためにいる。
二人にそっくりな彼を、命が続く限り側にいて見守り続けるだろう。
彼が生きているのは彼女にとってほんの一時。

アレクサンドラの幸せそうな歌声に耳を傾けながら、二人の願いたからを守り続ける。

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感想 12

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みんなの感想(12件)

penpen
2025.12.20 penpen

お熱Σ(゚Д゚)
皆大慌て((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

2025.12.22 林 業

使用人とサンムーンたちがあっちこっちの国や街やらから人用の薬をかき集めたそうです。

解除
名島
2025.12.12 名島

(この感想は非公開で構いません)

2ページ

✕旦那様当地合わせ中
◯旦那様と打ち合わせ中

ではないかと思います

2025.12.22 林 業

ありがとうございます。
早速直してきます。

解除
penpen
2023.03.31 penpen

Σ(´゚д゚`)更新感謝(人▽〃)

2023.03.31 林 業

こちらこそありがとうございます。

解除

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