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おさとうよんさじ
2.
しおりを挟む囁きの合間なのか、それとも口づける隙間なのか、どちらとも言えないくらいの近さで口遊んで、ちゅう、と吸い付いてくる。
遊ぶようなキスに酔っている。
お風呂から上がってかなりの時間が経っているはずなのに、のぼせてしまいそうな気持ちがしていた。
「お仕事、おつかれさまでした」
やわい唇の触れ合いが一向に止まりそうにないから、つぶやきながら、もう一度すぐ近くに寄せられた口元に手を当てた。
遼雅さんは私の動作に瞳をやわらかく笑わせて、寄せられた手をやんわりと握りしめてしまった。
「りょう、」
「帰ってきたら……」
遼雅さんに指先を捕らえられた左手には、帰ってきて一番に嵌めなおしたシルバーリングがかがやいている。
あまく微笑んだ人が確認するように見つめて、王子様のように指輪へ口づけてくれる。
「帰ってきたら、かわいい奥さんが待ってくれていたから、もう元気になりました」
「それは、うそです」
「あはは。信じて」
指通りを確認するように髪を梳かれる。ようやく帰りの挨拶に満足できたらしい人が「俺も着替えてきます」とつぶやいたのを聞いて頷いた。
「ごはんにしますか? お風呂もすぐに入れますよ」
「……いい匂いがする。もう食べましたか?」
「いえ、もうすこしかなと思って、待っていました」
私の答えで、寝室へ行きかけていた足が止まった。ふ、と笑った人が「じゃあ、一緒に食べようか」と提案して、もう一度顔を寄せてくる。
「きす、しすぎです」
「2人だけだから、許してください」
「もう」
いつも遼雅さんのペースだ。胸がくるくるして仕方がない。
困った声をあげたら、遼雅さんはまた、どこまでもあまったるい瞳で私を見つめて「かわいい奥さんに愛想尽かされたくないから、ちゃんと着替えてきます」とおちゃらけて笑っていた。
すこしも怒れないから、やっぱり遼雅さんは危険なのだ。
寝室に吸い込まれていく様を見つめて、リビングのテーブルの上に置いていた携帯を手に取った。
メッセージと着信が一件。どちらも遼雅さんのものだ。一目で心配させてしまったことがわかる。
申し訳ないことをしてしまった。あれだけ忙しい専務の負担になるようなことだけは避けようと思っているのだけれど。
起こってしまったことは仕方がない。気持ちを切り替えるように足を踏み出して、キッチンへと逆戻りした。
週の始まりは、なるべく遼雅さんの好きなもの中心の献立にしようと思い込んでいる。
嫌いな食べ物がない遼雅さんは、何を出してもべた褒めしてくれるから、本当は何が一番なのかはよくわかっていない。
ただ、祖母から届けられた野菜を使ったスープについては「やさしい味がするね」と顔をほころばせていたから、何となく遼雅さんの好きなもののような気がしていた。
ダイニングテーブルに献立を配置して、ちょうど寝室から戻ってきた遼雅さんを振り返った。
いつもと同じくやさしく笑ってくれている。
ラフなルームウェアは、遼雅さんの弟さんからのいただきものだ。
弟さんはアパレル会社で代表をしているから、選んでくれる洋服のセンスも素晴らしいと思う。
毎回のデートのたびにモデルのように私服を着こなす遼雅さんに恐れおののいていたけれど、実は弟さんのブランドを勝手に買わされていると聞いたとき、すこし笑ってしまったことを覚えている。
遼雅さんは、いつも私が着ているものとペアになったルームウェアをチョイスするようにしてくれている。
とくに言及したことはないけれど、それもまさか、今までの恋愛遍歴で刷り込まれた行動なのだろうか。
「おいしそう。……うん? どうかした?」
「いえ、食べましょうか」
聞くのが恐ろしくなって、やめておいた。
3
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