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おさとうきゅうさじ
2.
しおりを挟むすっかりご飯を食べ終わってしまった遼雅さんが、まじまじとこちらを見つめながら微笑んでいる。
穴が開いてしまいそうなくらいに見つめられるから恥ずかしいのに、やめてほしいと口に出すことはしないようにしていた。
「……そんなに、変な顔で食べていますか」
「うん?」
「遼雅さん、いつもずっと見ているから」
「うん、俺の奥さんはかわいいなあって思って見つめていました」
「かわ……」
壮亮との評価の落差でどうしても信じられないのだけれど、遼雅さんの目はどこからどう見ても本当のことを言っているとしか思えないから、頬が熱くなってきてしまう。
「毎日眺めていて、飽きませんか?」
「まさか」
「……それなら、いいんですけど」
「ずっと腕の中に隠しておいて、見つめていたいくらい」
嘘か本当かわからないようなトーンで言われるから、また喉元に声が詰まってしまった。
いつもお弁当を食べ終わったら、遼雅さんはただひたすら私の顔を見ながら、とろけてしまいそうな笑顔を見せてくれている。
普段ならとっくに抗議しているところなのだけれど、遼雅さんにお昼休みくらいはしっかり身体を休めてほしいと考えて、あえて役員室に居座ることを決めた。
急いで食べ終わって、箸を置く。手を合わせてごちそうさまでしたと言えば目の前のソファに座っていた人が、同じように声をあげてくれた。
遼雅さんはいつも私が食べ終わるまでずっと待ってくれている。そういうところにも胸がぽかぽかしてしまうのだ。
「今日もありがとう。たっぷり充電できました」
「お粗末様です」
お弁当箱を片付けて大きなランチバッグに入れる。
いつも私が持っていくと言っているのに「重いだろうし、誰かに奪われたら困るから、俺が厳重に注意して運びます」と茶化されてしまって、結局遼雅さんに持って行ってもらうことになってしまった。
以来、社内では「橘遼雅が愛妻弁当を持参しはじめた。しかもめちゃくちゃなボリューム」との噂が広まりつつあると聞いて、頭を抱えたくなってしまった。
当の本人は全く気にすることなく、私がしまったランチバッグをさらりと受け取って、自分の横に置いている。
「お弁当箱の警護は任せて」
「もう。誰も盗みません」
「そう? 俺は柚葉さんのお弁当を楽しみに頑張ってる男だから、信じがたいな」
あまい笑みに逃げ出したくなって、呼吸を整えている。お昼の一時間は、隠れたくなってしまうくらいのやさしさと戦っているのだ。
「遼雅さん」
「はい、なんでしょう? お姫様」
「……ぎゅうって、しませんか」
たまらなく恥ずかしい。
職場で何を言っているんだろうと思うけれど、遼雅さんに休んでもらう方法がほかに思いつかないから、しかたがない。そう思い込ませて、ただ遼雅さんに触れていたいだけなのかもしれない。
そうだったら、どうか遼雅さんにはばれませんように。一人心の中で願ってみている。
「良い提案だ。俺もそうしたい」
うつくしい微笑みのまま、遼雅さんが手を広げてくれている。まぶしすぎる光景に目が眩んで、おずおずと席を立ちあがった。
「おいで」
「は、い」
小首をかしげて、待ってくれている。
遼雅さんの隣にぽすりと座り込んで手を伸ばせば、あっという間に体の中に引き込まれてしまった。
遼雅さんの匂いがする。
同じボディソープを使って、同じ洗剤で衣服を洗っているのに、どうして遼雅さんの匂いは私と違うのだろう。
「柚葉さん、最近すこし、身体があたたかくなってきた?」
「ん、そう、かもしれないです」
遼雅さんの熱がいなくなってくれない。ずっと心の真ん中を占領していて、見つめられるだけであつくなってしまう。
「俺のせい?」
「うん、そ、うです」
「かわいい」
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