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おさとうきゅうさじ
3.
しおりを挟むぐりぐりと頭に頬を寄せられて、小さく笑ってしまった。遼雅さんが私をほめるタイミングは、どんなに側にいてもよくわからない。
一瞬のさまざまなタイミングで言われるようになってしまったから、ただ胸を掴まれ続けているしかない。
「定期的に俺の熱をあげないと、また冷たくなるのかな」
「う、ん……? たぶん、そう、だと思いますけど」
こんなにもずっと抱きしめてくれた人がいたことがないから、よくわからない。推測して答えれば、遼雅さんが上機嫌に「そうかあ」とつぶやく音が聞こえた。
「じゃあ、たくさん触れたら、そのぶんあつくなるのかな」
「た、ぶん?」
遼雅さんの中はずっとあつい。
今も抱きしめられているだけでぽかぽかして、微睡んでしまいそうだ。実際にすこし前には遼雅さんの腕の中で眠ってしまっていたから、気を付けなければいけないと思う。
「遼雅さん」
「うん?」
「眠くなっちゃいそうです」
「あはは、眠っていいよ。抱きしめているから」
「ううん、今日は、遼雅さんの番です」
「うん?」
私は体温が低いから、全然眠たくなってはくれないだろうと思う。いろいろ考えて、姉にも相談した。姉は軽快に笑いながら一つの方法を教えてくれたから、今日はそれを実践しようと勇んできたのだ。
「遼雅さん、すこしお休みになりませんか」
「柚葉さんがいるのに、もったいないなあ」
「ひざまくら? します」
「……膝枕?」
抱きしめていた腕をやんわりと離した遼雅さんが、真正面から見つめてくる。
私の提案におどろいてしまったみたいだ。
目がぱちぱちと瞬いているのがかわいらしくて、小さく笑ってしまった。
「いやですか?」
「なんか、俺、すごいあまやかされてる」
「もっとあまやかされていいと思います」
「……まいったな」
「困らせましたか? 姉に聞いて、眠ってもらうにはこの方法が良いって教えてもらったんですけど……」
「そっか。お姉さんに聞いてくれたの?」
「あ、う……、そう、です。すこしでも、休んでほしくて」
休んでほしいと思っていることを告げるつもりはなかったはずなのに、ぽろりと口から零れ落ちてしまっていた。
気まずくなって視線をそらそうとしたら、遼雅さんのあたたかい指先に阻まれる。
「りょう、」
きゅっと眉を寄せた綺麗な男性が、私を覗き込んでいる。ひまわりの瞳はあつい。あつくるしくて、どろどろに溶けてしまいそうなくらいだと思う。
「ああ、もう。本当にかわいすぎる」
「ええ? いや、だめなら、忘れてください」
「こんなに魅力的な誘いを受けて、断る男はいないよ」
「みりょくてき?」
「俺のために考えてくれたの?」
「ええ、と。なにか、できたらっていうのは、いつも考えています、よ?」
遼雅さんがそうしてくれているように、私も遼雅さんのために何かができればと思っている。当然のことを告白しているのに、遼雅さんの瞳が、どこまでもあまく揺れてしまった。
「ああー……」
「遼雅さん?」
ふっと顔を伏せて、私の肩に額を押し付けてしまった。
ぐりぐりと擦りつけるように触れながら、片手が私の頭の裏を撫でる。名前を呼べば、大きく息を吐いた遼雅さんが、まっすぐに顔をあげた。
すこしも逸らさせない、あつい瞳だ。
「キスしていい? たくさん」
「え? あ、……っ」
答える暇もなく、あつい唇に塞がれる。
後頭部に回っていた指先に引き寄せられて、拒絶する隙を奪われてしまった。
熱を流しこむようなキスで、どろどろになる。
この調子になったら、遼雅さんはお休みなんてとてもできない。
焦って、遼雅さんの胸に手を置いたら、ぐっと掴まれて、遼雅さんの首の裏に回された。
まるで求めているみたいに身体を操られて、口づけられる合間にどうにか声をあげようと必死になった。
とろけてしまいそうだ。どうにかしなければ。
ただそれだけを思って、途切れそうな理性を保っている。
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