2 / 6
2
しおりを挟む発情期が終わり1ヶ月がたった頃、アイリーン家当主に呼ばれ、リオは現在父の前に立っていた。
広い部屋には2人しかおらず、侍従や従者もいない。性別の話をされるのだと、リオは手に汗を握る。
「本日呼んだのは、マシューのことで知らせることがあったからだ」
病気がちで床に伏せることが多い、リオの兄マシュー。2年前に伯爵家の令嬢と婚約して1年前に結婚をしている。
リオは何を言われるか、分からない訳では無い。恐らく妻が妊娠しているのだろう。嫡男であるマシューは体が弱い。リオは嫡男に万が一のことがあった時のスペアであり、世継ぎが生まれればスペアの必要性はなくなるのだ。
リオの予想はおおよそ当たっていて、マシューの妻はもう妊娠8ヶ月ほどだ言う。妊娠どころかもうすぐ産まれてきそうなくらいの月日が経っていることに驚く。
中の子供は双子で、どちらもアルファだということが分かっているらしい。「あと2月もすればアルファの双子が産まれる」笑顔でそう言う父親に、意外にも何も思うことは無かった。
「元気な孫が産まれてくるまで、お前をアイリーン家の一員とする」
「はい」
それはつまり、マシューの子が産まれればリオはアイリーン家の一員ではないと言うことだ。親に面と向かって破門を言われるのは、どこか辛いものがあった。
「その後はくれぐれも、オメガのお前がアイリーンを名乗るなよ」
「承知致しました」
息苦しい部屋から出て、自室を目指す。
この家がオメガを良しとしない家で、よかったんだ。
貴族の家に生まれたオメガは、存在を隠されるか、他家との交流で使われるか妾になるか、大半はこのどれかに当てはまる。
有能なアルファでさえ駒として使う社会だ。オメガで交流を図ろうとする世界には目も当てられないだろう。うちの家にオメガはいない、と存在を隠される方がよっぽどマシだ。
そうは思ってみるものの不安は計り知れないほど大きくのしかかってくる。
家庭教師を呼んで、人並み以上に勉強はさせてもらった。だがその知識は全て、上の立場に立つものの教えだ。兄マシューのスペアとしての学びのみ。これからリオが足を踏み入れるのは平民なのだ。
(知らない。ものの価値も、働く場所も、1人生きる方法も。僕は、なんにも知らない)
落ち着く自分の部屋へと入ると、リオは服が折れることも気にせずベッドへ身を投げた。
夢見心地のような意識のはっきりしていない状態で、リオは何故か、ベッドの縁に座りボーッとベッドを眺めている。こんもりと小さく盛り上がった布団からは、すすり泣きが聞こえた。
ベッドに、いつも1人泣いていた幼いリオがいる。寂しくて、悲しくて、僕の何がいけないんだ、と嘆いていた。幼子の頃から、いや産まれることが分かってから、両親にはもう嫌われていた。面倒を見てくれていた乳母は仕事を辞め、兄はリオを見ないふり。
大きなベッドに身を丸めた小さなリオは、今度はわんわん喚きながら泣く。誰かに見つけて欲しくて、見て欲しくて、大きな声を出していたように思う。
リオはそっと、布団の上から小さな頭を撫でた。
いつの間にかうたた寝をしてしまっていたのか、リオは薄らと瞼を上げる。胎児のように身を丸ませ、瞳からは微かに涙を流している。一瞬だけ夢で見た、過去の自分のまんまだ。
(小さな僕には、スライが来るんだ)
従者として彼が近くに来てからは、寂しい思いをしなくなった。いつも近くにいて、いつも見てくれる。大きな友達が出来たような、唯一の味方ができたような、そんな気分だった。
(今の僕には……)
悲壮感溢れる心情に蓋をして、気持ちを切り替えるように両手で頬を軽く叩く。
(秘密漏洩防止のため、お金は貰えるんだ。何を気にすることがある。僕は平気だ)
問題はリオの従者スライの方だ。リオの発情期を治めるためだけに雇われた従者、リオがアイリーン家にいなくなれば、必然と役目は無くなる。リオに仕えていたままでは、路頭に迷わせてしまうかもしれない。
リオをオメガだと気づいたものは徹底的に口止めをし、屋敷から追い出していた父をひしひしと思い出す。父なら長年秘密を守ったスライをも、追い出しそうだ。
世継ぎが産まれるまでに、リオはスライを兄の従者にと意気込んだ。
……そうは思ったものの、簡単にことは運ばない。
リオと兄に接点はなく、会話をすることも屋敷内で顔を合わせることすら珍しい。オメガとアルファの子どもがいる家庭は、何処も隔離して育てるのが一般的だ。オメガのフェロモンは血の繋がりがあれどアルファであれば誰だって当てられる。近親相姦を危険視しての対策をしているがゆえ、兄に近づくこと自体が難しかった。
兄がどんな性格で、リオに対しどんな感情を持っているか分からない。怒られたことも、罵られたことも無い。兄の前ではただただ透明な空気のようになるだけだ。
今の事情を知って、耳を傾けてくれるかも分からないがリオはペンを握る。これまで自分からは一切関わろうとしてこなかったが、兄に向けて手紙を書くことにした。
33
あなたにおすすめの小説
Ωでもタチがしたい!
コッシー
BL
涼風冬華(すずかぜ とうか)『Ω』は、恋人である七つ年上の桜田春人(さくらだ はるひと)『α』を抱くために、男らしく振舞おうと頑張るが、デートの途中で発情期が始まってしまい…。
可愛い系部下のΩ×エリート上司のαの話
恋は終わると愛になる ~富豪オレ様アルファは素直無欲なオメガに惹かれ、恋をし、愛を知る~
大波小波
BL
神森 哲哉(かみもり てつや)は、整った顔立ちと筋肉質の体格に恵まれたアルファ青年だ。
富豪の家に生まれたが、事故で両親をいっぺんに亡くしてしまう。
遺産目当てに群がってきた親類たちに嫌気がさした哲哉は、人間不信に陥った。
ある日、哲哉は人身売買の闇サイトから、18歳のオメガ少年・白石 玲衣(しらいし れい)を買う。
玲衣は、小柄な体に細い手足。幼さの残る可憐な面立ちに、白い肌を持つ美しい少年だ。
だが彼は、ギャンブルで作った借金返済のため、実の父に売りに出された不幸な子でもあった。
描画のモデルにし、気が向けばベッドを共にする。
そんな新しい玩具のつもりで玲衣を買った、哲哉。
しかし彼は美的センスに優れており、これまでの少年たちとは違う魅力を発揮する。
この小さな少年に対して、哲哉は好意を抱き始めた。
玲衣もまた、自分を大切に扱ってくれる哲哉に、心を開いていく。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
オメガに説く幸福論
葉咲透織
BL
長寿ゆえに子孫問題を後回しにしていたエルフの国へ、オメガの国の第二王子・リッカは弟王子他数名を連れて行く。褐色のエルフである王弟・エドアールに惹かれつつも、彼との結婚を訳あってリッカは望めず……。
ダークエルフの王族×訳アリ平凡オメガ王子の嫁入りBL。
※ブログにもアップしています
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?
いちみやりょう
BL
死神 × 不憫なオメガ
僕を大切にしてくれる青砥と、ずっと一緒に居られると思ってた。
誰も感じない僕のオメガのフェロモンを青砥だけはいい匂いと言ってくれた。
だけど。
「千景、ごめん。ごめんね」
「青砥……どうしたの?」
青砥は困った顔で笑って、もう一度僕に“ごめん”と謝った。
「俺、和樹と付き合うことにした。だから、ごめん」
「そんな……。もう僕のことは好きじゃないってこと?」
「……ごめん」
「……そっか。分かった。幸せにね」
「ありがとう、千景」
分かったと言うしか僕にはできなかった。
※主人公は辛い目に遭いますし、病気で死んでしまいますが、最終的に死神に愛されます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
狼騎士と初恋王子
柚杏
BL
Ωのクレエは、狼の獣人であり国の誇り高き騎士レストに暇さえあれば勝負を挑んでいた。
しかし、一度も勝った試しはない。
そのレストから、見合い話が出ていると聞かされたクレエは思わず父の元を訪れる。
クレエはレストが守る国の第二王子で、父はその国の王だった。
αの王族の中で、何故か一人だけΩとして産まれたクレエはその存在を隠されて暮らしていた。
王子と知らずに扱うレストと、その強さに憧れを抱くクレエ。
素直になれないクレエに、第一王子である兄がそっと助言をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる