【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

文字の大きさ
1 / 39

第1話 芸能人生終わるつもりが人生終わったっぽい

しおりを挟む
「ニュース速報です。モデルで俳優の一ノ瀬優さんが死亡しました。一ノ瀬さんは、本日14時から、都内某所で、一連の騒動に関する記者会見を開いていましたが、そこに突然乱入した女により、刃物のようなもので刺されたということです。一ノ瀬さんは、すぐに病院に運ばれましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。繰り返しお伝えします。モデルで俳優の一ノ瀬優さんが死亡しました――――」

 一瞬の出来事だった。
 僕、一ノ瀬優いちのせゆうの人生は、39歳で幕を閉じた。
 16歳でモデルとしてデビューして以来、これまで順調に芸能生活を送っていた僕だが、とある女性と男女の関係になり、関係を拗らせ、それをネタとして週刊誌に売られた。
 まぁ、よくある話である。

 その女性とは、付き合っていたわけではなく、身体だけの関係だったが、相手はそう思ってはいなかったらしい。
 僕に付き合う気がないとわかると、女性は一日に何百回も電話やメールをしてくるようになり、最終的に、僕との関係を週刊誌に売ると脅すようになり、そして本当に実行した。
 僕はケジメをつけるため、記者会見をすることを決め、同時に、芸能界からの引退も発表するつもりでいた。
 そう、僕の23年の芸能人生は今日幕を閉じるはずだった。

 正直に言おう。僕はとてもモテた。
 自分で自分のことをカッコいいと思ったことはないけれど、不思議なことに、女性たちの方から僕に近寄ってくるのだ。
 こんなことを言うと、いろんな人の恨みを買いそうだけれど、事実だから許してほしい。
 モテはするが、一人の女性に本気になったことはなかった。
 相手も、一時の寂しさや鬱憤を僕ではらしているだけだったので、トラブルになったことはなかった。
 今回もそれまでと同じだと思って関係を結んだけれど、誤りだったようだ。
相手は本気だったのだ。
 芸能人生の幕を閉じるはずが、人生の幕まで閉じてしまうとは……。まあでも、僕にはお似合いの最期だったかな。
 不思議と、自分を刺した女性を恨む気持ちは湧かなかった。
 むしろ、本気の女性に対して、酷い接し方をしてしまったと、申し訳なく思った。
 母さん、聡、最期まで迷惑かけてごめんな。
 芸能の仕事を始めて以来、ずっと会っていない母と弟の人生を、再び壊してしまうかもしれないことだけが、唯一の心残りだった。

 相変わらずテレビのアナウンサーが興奮気味に自分の死亡を伝えている。
 ここは搬送先の病院か?
 ふと見下ろすと、ベッドに横たわった自分の姿が目に映った。
 周りには事務所の関係者と医療関係者がおり、母と弟の姿はない。当たり前か。ほんと突然だったもんなぁ。最後に会いたかったな……。
 薄れゆく意識の中、そんなことを思った。

***

 次に目を覚ますと、牛久大仏くらいはありそうな巨人が、こっちを見下ろしていた。
「うわぁっ!」
 驚いて、思わず悲鳴を上げると、ギロリと睨まれてしまった。怖すぎ……。
「一ノ瀬優だな。貴様は地球上の日本国で12月4日に死亡した。これから裁判を行う。立て」
「へ……裁判?」
「そうだ、裁判だ。早く立て」
 もの凄い迫力だ。
 その巨体に見合った地鳴りのように響く声に命じられ、僕は立ち上がった。首が痛い~~。
 巨人の目を見て話そうとすると、かなり頑張って上を見上げなければならない。
「あの、話の腰を折って申し訳ないのですが、ここはどこでしょうか」
 言われるがままに立ち上がったものの、状況がのみ込めず、恐る恐る巨人に尋ねてみた。
「ここは冥界の門である」
「メイカイノモン……?」
 怖そうな見た目ではあるが、巨人は尋ねたことに答えてくれた。しかし、意味がわからない。
「そうだ。ここで貴様を裁判にかけ、天国と地獄、どちらに送るかを決定する」
「天国と地獄ですか」
 聞きなれた単語を聞き、うなずく。
 天国と地獄っていうことは、そうか、ここって冥界の入り口で、この怖そうな巨人は、いわゆる、閻魔様ってことかな……?)
「いかにも。我は冥界の王、閻魔大王である」
「え、心の声聞こえました…!?」
「ふん」
 あ、鼻で笑われてしまった。でも、うわ~本当に閻魔様か! なんかちょっと感動~! 空想の中だけの存在だと思っていた人……? が目の前にいるんだもん。興奮しちゃうよね!
 死んだばかりにもかかわらず、はしゃぐ俺を無視して、閻魔様が質問をしてきた。
「貴様は生前、天国に行くのにふさわしい行いをしたか?」
「いいえ、僕は地獄に行くべき人間です」
 尋ねられ、そこは即答した。
「なんだと? 理由を述べよ」
 あれ、なんかびっくりしてる?
「はい。僕はたくさんの人を傷つけてしまいました。だから、僕に天国に行く資格はなく、地獄に落ちるべきだと思うんです」
「まさか自分から地獄に行きたいと言い出す人間がいるとは……」
 え、そうなんだ!? まぁ、それもそうか。地獄って、なんかぐつぐつのお湯の中に漬けられたり、たくさんの針で刺されたりするんだっけ?
「よく知っているではないか。他にもある。死んでは再生を永遠と繰り返す地獄や、舌を抜く、鉄板で焼く、押しつぶすなんていう地獄も――」
「あ、地獄の説明はもういいです。ワカリマシタ」
 これ以上詳細を聞くと、地獄に行く決心が揺らいでしまいそうで、閻魔様の話をさえぎってしまった。
「ふむ……」
 ふと、閻魔様が沈黙する。もしかして怒らせてしまっただろうかとオロオロしていると、閻魔様は、意外な提案をしてきた。
「天国、地獄以外にも選択肢はある」
「え、そうなんですか?」
「うむ。貴様は生前、たくさんの人を傷つけたと申したな。その中で、一番償いをしたいと思っている相手は誰だ? 償いをすることができれば、生前の罪を帳消しにしてやろう」
 閻魔様に問われ、考えるまでもなく頭に浮かんだのは、父の顔だった。

 父は、僕が小5のときに、車に轢かれそうになった自分を庇って亡くなっていた。
 信号のない横断歩道だった。
 車を運転していた人は、飲酒運転で、制限速度を30キロもオーバーしていた。
 それでも、父が死んだのは、僕のせいだった。
僕が、父の言葉を無視して、道路に飛び出さなければ。
 僕が、我慢していれば。
 僕が、生まれなければ――

「父に会いたいか?」
「え?」
「一番償いたいのは、父親なのだろう? その父に会えるかもしれないと言ったら、会いたいか?」
「それはもちろん――」
 会いたい、と言いかけたが、会ったとして、父は自分を許すだろうか。
 そんな考えが浮かび、即答できずにいると、閻魔様は僕の心を読んだのか、こんなことを言ったのだった。
「貴様の父親は、異世界に転生した。貴様も同じ世界に転生すれば、会えるかもしれん。ただし、父親の前世の記憶はリセットされているため、貴様のことは覚えていない」
「はぁ」
 あまりに突拍子もない説明に、思考が追い付いていかない。間の抜けた返事をする僕を尻目に、閻魔様はさらに説明を続けた。
「貴様を父親と同じ世界に転生させることはできるが、必ず父親と会える保証はできない。ただ、父親の近くに転生させることはできるだろう」
「は、はぁ?」
「なに、難しく考えることはない。貴様は、前世の記憶を持った状態で生まれ変わる。生きていればそのうち、前世の父親に会えるかもしれない。そして、その父親に償いをすることができれば、貴様の前世の罪は消える。それができなければ、死後、再びここへ戻り、地獄に行く。ただそれだけのことだ。どうだ?」
「どうだと言われましても……」
「やはり、今すぐ地獄に行くか?」
「え? うーん……」
「地獄は痛いぞ?」
「あー……」
「地獄は苦しいぞ?」
「わ、わかりましたー! 転生したいと思います」
 閻魔様から直に説明されると、よりリアルに地獄を想像できてしまい、僕は怖気づいた。
 転生して、父親ともし会えたとして、どう償えばいいんだろうという答えはまだわからなかったが、地獄に比べれば絶対に100%、いや、マジ1000%、転生する方がマシというものだ。
 結果、父に償えなかったとしても、地獄に行く心の準備をする時間ができる。
「自分から地獄に行くって言ったのに、なんかスミマセン……」
「なに、気にするな。では、転生させるぞ。3、2――」
「えー! もう!? まだ聞きたいことが――」
「1、0」
「うわぁ~~~~!」
 こうして俺は、地獄行きを免れ、やや問答無用気味に異世界転生を果たしたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの
BL
社畜として働き詰め、過労死した結城智也。次に目覚めたのは、獣人だらけの辺境村だった。 藁葺き屋根、素朴な食事、狼獣人のイケメンに介抱されて、気づけば賢者としてのチート能力まで付与済み!? 「静かに暮らしたいだけなんですけど!?」 ……そんな願いも虚しく、井戸掘り、畑改良、魔法インフラ整備に巻き込まれていく。 スローライフ(のはず)なのに、なぜか労働が止まらない。 それでも、優しい獣人たちとの日々に、心が少しずつほどけていく……。 チート×獣耳×ほの甘BL。 転生先、意外と住み心地いいかもしれない。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...