【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

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第2話 転生したらハードモード決定っぽい

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「おぎゃー! おぎゃー!」
 うぅ、煩い……。
 赤ちゃんの泣き声がエンドレスリピートしている。
 あまりの煩さに、強烈な眠気から覚醒する。
 あれ? もしかしてこれって僕の泣き声……?
 どうやら自分の発する泣き声で目覚めたらしい。
 うん、前世の記憶はあるし、閻魔様との会話もしっかり覚えている。どうやら夢や幻覚の類ではなかったらしい。
 とりあえず煩いから泣き止むか……。
 自分の声がデカすぎて若干引きながら、泣くことを止める。
 冷静に辺りを見回してみるが、なんだかすっっっっごくゴージャスなお部屋にいるみたい。
 高そうな絵や花瓶が飾ってあって、そういえば、自分をくるんでいる毛布の肌触りも、最高に素晴らしい。お金持ちの家に転生したのだろうか。
 それにしても、誰もいない。赤ちゃんがあんなに泣いているのに、誰一人あやしに来ないとか何事だ。

 ――ぐぅ
 あ、僕のお腹の音だ。そういえばお腹すいたなぁ……。よし――
「おぎゃー! おぎゃー! おぎゃーーーー!」
 ミルクを飲ませに誰かが来てくれることを期待し、思いっきり大声で泣いてみる。
 そうして5分ほど粘ったところで、やっと誰かが部屋に入ってきた。
 前世でいうところの、メイドのような服装をした女性だった。
 僕を抱き上げると、何か話しかけてきたが、言葉が理解できない。
 外見は欧米人のような見た目をしているが、話しているのは英語ではなく、フランス語やイタリア語、ドイツ語、スペイン語など、どの言語でもないような響きだった。
 おぉ……本当に異世界に転生したんだな。
 改めて、転生したことを実感する。

 今は生まれたばかりのようだし、言葉を理解できなくても、焦りはしなかった。成長するにつれて、自然に覚えるものだと思ったからだ。
 部屋にやってきたメイドのような女性が、白い液体の入った瓶を、無表情で僕の口元に差し込んできた。
「ばぶぅ……」
 どうやらミルクのようだが、何とも言えない味だった。それでもお腹がすいていたので、ごくごくと全部飲み干した。
「げふぅ……」
 トントンしてもらわなくても、自分でゲップできるもんね!
 満面のドヤ顔をして見せるが、相変わらず、メイドさんは無表情である。
 めっちゃ無表情で見てくるんだけど……。もしかしたら、僕はすごくかわいくない赤ちゃんなのかな……。
 ちょっとだけ不安になった。忌み嫌われる外見で転生したとなると、初っ端からハードモードだ。

 自分の姿を確認したくなり、周囲を見回すと、壁に掛けてある鏡を発見した。
 メイドさんの腕の中でもがいてみる。
「ばぶぅっ!ばぶぅっ!」
 鏡のある方へ手をのばし、ジタバタすると、メイドさんは鏡の方へ移動してくれた。
 すかさず、鏡を覗き込む。
 あれ、これ、前世の僕の小さい頃にそっくり。
 初めて見たメイドさんが、欧米人のような見た目をしていたため、てっきり自分も同じような外見なのかと思っていたが、違っていた。
 前世と変わらず、黒い髪に黒い瞳をしており、顔立ちもほぼ同じように見えた。少しがっかりしたが、容姿については、特にこだわりはない。
 まぁ、いっか。もしかしたら、メイドさんが外国人なだけで、僕の見た目がスタンダードって可能性もあるしね。
 それよりも、早く他の人間に会って、この世界をもっと知りたいと思った。
 しかし、所詮赤ん坊である。満腹になったことも相まって、好奇心よりも眠気が勝り、そのまま眠ってしまったのだった。

***

 どのくらい眠っていただろうか。誰かの話声で目が覚めた。
 部屋の様子から見るに、どうやら夜になったらしい。繊細な刺繍を施されたカーテンは閉められ、宝石が散りばめられたシャンデリアの明かりがついている。
 それにしても煌びやかな部屋だなぁ。赤ちゃん一人の部屋がこんなにキラキラしてるって、どんだけお金持ちの家なんだろう。
 そんなことを考えていると、話し声が大きくなった。若い男性と年配の女性の声だった。
 声を荒げているのは男性の方で、女性はそれをなだめているような感じだ。喧嘩かな?
 目で確かめたくて、寝かされているベッドから起き上がろうとしたが、生まれたての赤ちゃんの筋力だ。起き上がれるはずはない。
「ばぶっ! ばぶぅー!」
 自分では、『ヨイショ』っていう掛け声のつもりだったのだが、意味のない赤ちゃん言葉になってしまった。
 しかし、自分の声に気づいた男女が、こちらに近づいてきてくれたようだ。寝ている自分を覗き込んだ2人の顔を見ることができた。
 男の方は、やはり、若そうな見た目をしており、年の感じは20代前半くらいのように見えた。エメラルドグリーンの髪と瞳だ。
 それに、前世の、ハリウッドスターと言われても、納得できるような、整った容姿だった。
 宝石のように綺麗な瞳で、じっと僕を見つめている。これがグッドルッキングガイというやつか……知らんけど。
 女性の方は、白髪の老女だった。顔に刻まれた皺が、厳しい表情に見せているのか、僕を見る目が険しい。そんなに睨まなくても……ぐすん。
 2人は、やはり、最初に見たメイドさんのように、欧米人のような顔立ちだった。
 では、自分は、いったい誰の子供なのだろうか。今まで見た3人の誰にも似ていない。
 僕の顔を数秒見つめた後、老女は男に何かを伝え、部屋を出て行ってしまった。

 その後も、男は僕のことを見つめ続けていた。何を考えているかは全く読めない表情である。
「ばぶぅ?」
 あまりにも見つめてくるので、ちょっと笑いかけてみた。
 男の左眉がピクリと動いたが、やはり、表情は変わらない。僕ってそんなに可愛くない赤ちゃんなのかな?
 やはり、結構ショックである。赤ちゃんをみると、普通は、自然と笑顔になってしまうものだと思っていた。
 その後も、男は、僕を見つめていたが、誰かが呼びに来たようで、部屋を去っていった。
 うん、ハードモード決定かな。
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