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第1話 芸能人生終わるつもりが人生終わったっぽい
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「ニュース速報です。モデルで俳優の一ノ瀬優さんが死亡しました。一ノ瀬さんは、本日14時から、都内某所で、一連の騒動に関する記者会見を開いていましたが、そこに突然乱入した女により、刃物のようなもので刺されたということです。一ノ瀬さんは、すぐに病院に運ばれましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。繰り返しお伝えします。モデルで俳優の一ノ瀬優さんが死亡しました――――」
一瞬の出来事だった。
僕、一ノ瀬優の人生は、39歳で幕を閉じた。
16歳でモデルとしてデビューして以来、これまで順調に芸能生活を送っていた僕だが、とある女性と男女の関係になり、関係を拗らせ、それをネタとして週刊誌に売られた。
まぁ、よくある話である。
その女性とは、付き合っていたわけではなく、身体だけの関係だったが、相手はそう思ってはいなかったらしい。
僕に付き合う気がないとわかると、女性は一日に何百回も電話やメールをしてくるようになり、最終的に、僕との関係を週刊誌に売ると脅すようになり、そして本当に実行した。
僕はケジメをつけるため、記者会見をすることを決め、同時に、芸能界からの引退も発表するつもりでいた。
そう、僕の23年の芸能人生は今日幕を閉じるはずだった。
正直に言おう。僕はとてもモテた。
自分で自分のことをカッコいいと思ったことはないけれど、不思議なことに、女性たちの方から僕に近寄ってくるのだ。
こんなことを言うと、いろんな人の恨みを買いそうだけれど、事実だから許してほしい。
モテはするが、一人の女性に本気になったことはなかった。
相手も、一時の寂しさや鬱憤を僕ではらしているだけだったので、トラブルになったことはなかった。
今回もそれまでと同じだと思って関係を結んだけれど、誤りだったようだ。
相手は本気だったのだ。
芸能人生の幕を閉じるはずが、人生の幕まで閉じてしまうとは……。まあでも、僕にはお似合いの最期だったかな。
不思議と、自分を刺した女性を恨む気持ちは湧かなかった。
むしろ、本気の女性に対して、酷い接し方をしてしまったと、申し訳なく思った。
母さん、聡、最期まで迷惑かけてごめんな。
芸能の仕事を始めて以来、ずっと会っていない母と弟の人生を、再び壊してしまうかもしれないことだけが、唯一の心残りだった。
相変わらずテレビのアナウンサーが興奮気味に自分の死亡を伝えている。
ここは搬送先の病院か?
ふと見下ろすと、ベッドに横たわった自分の姿が目に映った。
周りには事務所の関係者と医療関係者がおり、母と弟の姿はない。当たり前か。ほんと突然だったもんなぁ。最後に会いたかったな……。
薄れゆく意識の中、そんなことを思った。
***
次に目を覚ますと、牛久大仏くらいはありそうな巨人が、こっちを見下ろしていた。
「うわぁっ!」
驚いて、思わず悲鳴を上げると、ギロリと睨まれてしまった。怖すぎ……。
「一ノ瀬優だな。貴様は地球上の日本国で12月4日に死亡した。これから裁判を行う。立て」
「へ……裁判?」
「そうだ、裁判だ。早く立て」
もの凄い迫力だ。
その巨体に見合った地鳴りのように響く声に命じられ、僕は立ち上がった。首が痛い~~。
巨人の目を見て話そうとすると、かなり頑張って上を見上げなければならない。
「あの、話の腰を折って申し訳ないのですが、ここはどこでしょうか」
言われるがままに立ち上がったものの、状況がのみ込めず、恐る恐る巨人に尋ねてみた。
「ここは冥界の門である」
「メイカイノモン……?」
怖そうな見た目ではあるが、巨人は尋ねたことに答えてくれた。しかし、意味がわからない。
「そうだ。ここで貴様を裁判にかけ、天国と地獄、どちらに送るかを決定する」
「天国と地獄ですか」
聞きなれた単語を聞き、うなずく。
天国と地獄っていうことは、そうか、ここって冥界の入り口で、この怖そうな巨人は、いわゆる、閻魔様ってことかな……?)
「いかにも。我は冥界の王、閻魔大王である」
「え、心の声聞こえました…!?」
「ふん」
あ、鼻で笑われてしまった。でも、うわ~本当に閻魔様か! なんかちょっと感動~! 空想の中だけの存在だと思っていた人……? が目の前にいるんだもん。興奮しちゃうよね!
死んだばかりにもかかわらず、はしゃぐ俺を無視して、閻魔様が質問をしてきた。
「貴様は生前、天国に行くのにふさわしい行いをしたか?」
「いいえ、僕は地獄に行くべき人間です」
尋ねられ、そこは即答した。
「なんだと? 理由を述べよ」
あれ、なんかびっくりしてる?
「はい。僕はたくさんの人を傷つけてしまいました。だから、僕に天国に行く資格はなく、地獄に落ちるべきだと思うんです」
「まさか自分から地獄に行きたいと言い出す人間がいるとは……」
え、そうなんだ!? まぁ、それもそうか。地獄って、なんかぐつぐつのお湯の中に漬けられたり、たくさんの針で刺されたりするんだっけ?
「よく知っているではないか。他にもある。死んでは再生を永遠と繰り返す地獄や、舌を抜く、鉄板で焼く、押しつぶすなんていう地獄も――」
「あ、地獄の説明はもういいです。ワカリマシタ」
これ以上詳細を聞くと、地獄に行く決心が揺らいでしまいそうで、閻魔様の話をさえぎってしまった。
「ふむ……」
ふと、閻魔様が沈黙する。もしかして怒らせてしまっただろうかとオロオロしていると、閻魔様は、意外な提案をしてきた。
「天国、地獄以外にも選択肢はある」
「え、そうなんですか?」
「うむ。貴様は生前、たくさんの人を傷つけたと申したな。その中で、一番償いをしたいと思っている相手は誰だ? 償いをすることができれば、生前の罪を帳消しにしてやろう」
閻魔様に問われ、考えるまでもなく頭に浮かんだのは、父の顔だった。
父は、僕が小5のときに、車に轢かれそうになった自分を庇って亡くなっていた。
信号のない横断歩道だった。
車を運転していた人は、飲酒運転で、制限速度を30キロもオーバーしていた。
それでも、父が死んだのは、僕のせいだった。
僕が、父の言葉を無視して、道路に飛び出さなければ。
僕が、我慢していれば。
僕が、生まれなければ――
「父に会いたいか?」
「え?」
「一番償いたいのは、父親なのだろう? その父に会えるかもしれないと言ったら、会いたいか?」
「それはもちろん――」
会いたい、と言いかけたが、会ったとして、父は自分を許すだろうか。
そんな考えが浮かび、即答できずにいると、閻魔様は僕の心を読んだのか、こんなことを言ったのだった。
「貴様の父親は、異世界に転生した。貴様も同じ世界に転生すれば、会えるかもしれん。ただし、父親の前世の記憶はリセットされているため、貴様のことは覚えていない」
「はぁ」
あまりに突拍子もない説明に、思考が追い付いていかない。間の抜けた返事をする僕を尻目に、閻魔様はさらに説明を続けた。
「貴様を父親と同じ世界に転生させることはできるが、必ず父親と会える保証はできない。ただ、父親の近くに転生させることはできるだろう」
「は、はぁ?」
「なに、難しく考えることはない。貴様は、前世の記憶を持った状態で生まれ変わる。生きていればそのうち、前世の父親に会えるかもしれない。そして、その父親に償いをすることができれば、貴様の前世の罪は消える。それができなければ、死後、再びここへ戻り、地獄に行く。ただそれだけのことだ。どうだ?」
「どうだと言われましても……」
「やはり、今すぐ地獄に行くか?」
「え? うーん……」
「地獄は痛いぞ?」
「あー……」
「地獄は苦しいぞ?」
「わ、わかりましたー! 転生したいと思います」
閻魔様から直に説明されると、よりリアルに地獄を想像できてしまい、僕は怖気づいた。
転生して、父親ともし会えたとして、どう償えばいいんだろうという答えはまだわからなかったが、地獄に比べれば絶対に100%、いや、マジ1000%、転生する方がマシというものだ。
結果、父に償えなかったとしても、地獄に行く心の準備をする時間ができる。
「自分から地獄に行くって言ったのに、なんかスミマセン……」
「なに、気にするな。では、転生させるぞ。3、2――」
「えー! もう!? まだ聞きたいことが――」
「1、0」
「うわぁ~~~~!」
こうして俺は、地獄行きを免れ、やや問答無用気味に異世界転生を果たしたのだった。
一瞬の出来事だった。
僕、一ノ瀬優の人生は、39歳で幕を閉じた。
16歳でモデルとしてデビューして以来、これまで順調に芸能生活を送っていた僕だが、とある女性と男女の関係になり、関係を拗らせ、それをネタとして週刊誌に売られた。
まぁ、よくある話である。
その女性とは、付き合っていたわけではなく、身体だけの関係だったが、相手はそう思ってはいなかったらしい。
僕に付き合う気がないとわかると、女性は一日に何百回も電話やメールをしてくるようになり、最終的に、僕との関係を週刊誌に売ると脅すようになり、そして本当に実行した。
僕はケジメをつけるため、記者会見をすることを決め、同時に、芸能界からの引退も発表するつもりでいた。
そう、僕の23年の芸能人生は今日幕を閉じるはずだった。
正直に言おう。僕はとてもモテた。
自分で自分のことをカッコいいと思ったことはないけれど、不思議なことに、女性たちの方から僕に近寄ってくるのだ。
こんなことを言うと、いろんな人の恨みを買いそうだけれど、事実だから許してほしい。
モテはするが、一人の女性に本気になったことはなかった。
相手も、一時の寂しさや鬱憤を僕ではらしているだけだったので、トラブルになったことはなかった。
今回もそれまでと同じだと思って関係を結んだけれど、誤りだったようだ。
相手は本気だったのだ。
芸能人生の幕を閉じるはずが、人生の幕まで閉じてしまうとは……。まあでも、僕にはお似合いの最期だったかな。
不思議と、自分を刺した女性を恨む気持ちは湧かなかった。
むしろ、本気の女性に対して、酷い接し方をしてしまったと、申し訳なく思った。
母さん、聡、最期まで迷惑かけてごめんな。
芸能の仕事を始めて以来、ずっと会っていない母と弟の人生を、再び壊してしまうかもしれないことだけが、唯一の心残りだった。
相変わらずテレビのアナウンサーが興奮気味に自分の死亡を伝えている。
ここは搬送先の病院か?
ふと見下ろすと、ベッドに横たわった自分の姿が目に映った。
周りには事務所の関係者と医療関係者がおり、母と弟の姿はない。当たり前か。ほんと突然だったもんなぁ。最後に会いたかったな……。
薄れゆく意識の中、そんなことを思った。
***
次に目を覚ますと、牛久大仏くらいはありそうな巨人が、こっちを見下ろしていた。
「うわぁっ!」
驚いて、思わず悲鳴を上げると、ギロリと睨まれてしまった。怖すぎ……。
「一ノ瀬優だな。貴様は地球上の日本国で12月4日に死亡した。これから裁判を行う。立て」
「へ……裁判?」
「そうだ、裁判だ。早く立て」
もの凄い迫力だ。
その巨体に見合った地鳴りのように響く声に命じられ、僕は立ち上がった。首が痛い~~。
巨人の目を見て話そうとすると、かなり頑張って上を見上げなければならない。
「あの、話の腰を折って申し訳ないのですが、ここはどこでしょうか」
言われるがままに立ち上がったものの、状況がのみ込めず、恐る恐る巨人に尋ねてみた。
「ここは冥界の門である」
「メイカイノモン……?」
怖そうな見た目ではあるが、巨人は尋ねたことに答えてくれた。しかし、意味がわからない。
「そうだ。ここで貴様を裁判にかけ、天国と地獄、どちらに送るかを決定する」
「天国と地獄ですか」
聞きなれた単語を聞き、うなずく。
天国と地獄っていうことは、そうか、ここって冥界の入り口で、この怖そうな巨人は、いわゆる、閻魔様ってことかな……?)
「いかにも。我は冥界の王、閻魔大王である」
「え、心の声聞こえました…!?」
「ふん」
あ、鼻で笑われてしまった。でも、うわ~本当に閻魔様か! なんかちょっと感動~! 空想の中だけの存在だと思っていた人……? が目の前にいるんだもん。興奮しちゃうよね!
死んだばかりにもかかわらず、はしゃぐ俺を無視して、閻魔様が質問をしてきた。
「貴様は生前、天国に行くのにふさわしい行いをしたか?」
「いいえ、僕は地獄に行くべき人間です」
尋ねられ、そこは即答した。
「なんだと? 理由を述べよ」
あれ、なんかびっくりしてる?
「はい。僕はたくさんの人を傷つけてしまいました。だから、僕に天国に行く資格はなく、地獄に落ちるべきだと思うんです」
「まさか自分から地獄に行きたいと言い出す人間がいるとは……」
え、そうなんだ!? まぁ、それもそうか。地獄って、なんかぐつぐつのお湯の中に漬けられたり、たくさんの針で刺されたりするんだっけ?
「よく知っているではないか。他にもある。死んでは再生を永遠と繰り返す地獄や、舌を抜く、鉄板で焼く、押しつぶすなんていう地獄も――」
「あ、地獄の説明はもういいです。ワカリマシタ」
これ以上詳細を聞くと、地獄に行く決心が揺らいでしまいそうで、閻魔様の話をさえぎってしまった。
「ふむ……」
ふと、閻魔様が沈黙する。もしかして怒らせてしまっただろうかとオロオロしていると、閻魔様は、意外な提案をしてきた。
「天国、地獄以外にも選択肢はある」
「え、そうなんですか?」
「うむ。貴様は生前、たくさんの人を傷つけたと申したな。その中で、一番償いをしたいと思っている相手は誰だ? 償いをすることができれば、生前の罪を帳消しにしてやろう」
閻魔様に問われ、考えるまでもなく頭に浮かんだのは、父の顔だった。
父は、僕が小5のときに、車に轢かれそうになった自分を庇って亡くなっていた。
信号のない横断歩道だった。
車を運転していた人は、飲酒運転で、制限速度を30キロもオーバーしていた。
それでも、父が死んだのは、僕のせいだった。
僕が、父の言葉を無視して、道路に飛び出さなければ。
僕が、我慢していれば。
僕が、生まれなければ――
「父に会いたいか?」
「え?」
「一番償いたいのは、父親なのだろう? その父に会えるかもしれないと言ったら、会いたいか?」
「それはもちろん――」
会いたい、と言いかけたが、会ったとして、父は自分を許すだろうか。
そんな考えが浮かび、即答できずにいると、閻魔様は僕の心を読んだのか、こんなことを言ったのだった。
「貴様の父親は、異世界に転生した。貴様も同じ世界に転生すれば、会えるかもしれん。ただし、父親の前世の記憶はリセットされているため、貴様のことは覚えていない」
「はぁ」
あまりに突拍子もない説明に、思考が追い付いていかない。間の抜けた返事をする僕を尻目に、閻魔様はさらに説明を続けた。
「貴様を父親と同じ世界に転生させることはできるが、必ず父親と会える保証はできない。ただ、父親の近くに転生させることはできるだろう」
「は、はぁ?」
「なに、難しく考えることはない。貴様は、前世の記憶を持った状態で生まれ変わる。生きていればそのうち、前世の父親に会えるかもしれない。そして、その父親に償いをすることができれば、貴様の前世の罪は消える。それができなければ、死後、再びここへ戻り、地獄に行く。ただそれだけのことだ。どうだ?」
「どうだと言われましても……」
「やはり、今すぐ地獄に行くか?」
「え? うーん……」
「地獄は痛いぞ?」
「あー……」
「地獄は苦しいぞ?」
「わ、わかりましたー! 転生したいと思います」
閻魔様から直に説明されると、よりリアルに地獄を想像できてしまい、僕は怖気づいた。
転生して、父親ともし会えたとして、どう償えばいいんだろうという答えはまだわからなかったが、地獄に比べれば絶対に100%、いや、マジ1000%、転生する方がマシというものだ。
結果、父に償えなかったとしても、地獄に行く心の準備をする時間ができる。
「自分から地獄に行くって言ったのに、なんかスミマセン……」
「なに、気にするな。では、転生させるぞ。3、2――」
「えー! もう!? まだ聞きたいことが――」
「1、0」
「うわぁ~~~~!」
こうして俺は、地獄行きを免れ、やや問答無用気味に異世界転生を果たしたのだった。
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