【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

文字の大きさ
15 / 39

第13話 信頼されてないっぽい

しおりを挟む
「と、とにかく、僕は正真正銘の男性です! 力づくでどうこうされることはあり得ませんので、心配はいらいらないです! ハインツさんも、あんまり僕をからかうのはやめてください! いいですね?」
「ええ、ウィルがそう言うのなら」

 お礼をしたいというのは社交辞令で、もう来ることはないと思っていた僕の予想を裏切り、ハインツさんは毎日宿屋にやってきた。
 ハインツさんが訪ねて来るようになってから五日目、宿屋の店主に取り立てを受けているところを見られてしまった。
 すると、ハインツさんは、歌のお礼に、宿代を全額支払うと言い出したのだ。
 もちろん断ったが、あまりにも強く迫られ、引き下がる気配がないものだから、結局僕の方が折れて、あるお願いをしたのだ。
 それが『デート』だ。
 といっても、ハインツさんが勝手にそう言っているだけで、内容はデートでもなんでもない。
 僕は、ハインツさんに、魔法の使い方を教えてほしいと頼んだのだった。
 ルドが店主の取り立てをなんとかかわしているときに、こっそりハインツさんに、魔法を使えるか尋ねたところ、風と闇の上級魔法を使えると教えてくれた。
 剣の腕もいまいちで、いつもルドに護ってもらってばかりいたので、何か一つでも自分にできることを見つけ、僕もルドを助けられるようになりたいと思っていた。
 それに、今後、ルドと別れて父を捜す旅に出たとしても、自分で道中に出没する魔物を倒せなければ、話にならない。何かしら、戦闘系のスキルを身につける必要があった。
 ルドは魔法が得意ではないと言っていたので、もし、ハインツさんが魔法を使えるなら、教えてもらいたいと考えたのだ。
 このことは、ルドには内緒にしている。ハインツさんを毛嫌いしてる節があるので、きっと反対されると思ったからだ。

「それでウィル、本当に私とパーティを組んで、冒険者登録してよろしいんですか?」
「え! 本当に登録するんですか?」
「ええ、私はそのつもりでしたけれど。ウィルは嫌ですか?」
「嫌、というか、これ以上ハインツさんに迷惑をかけるわけにはいかないです」
「ウィル、私は本当にあなたの歌に感動したんです。そのお礼が、デートをするだけではまだまだ足りません。それに、ウィルとパーティを組めば、いつでもあなたの歌を聴ける機会があるでしょう? 私にとって、それはとてつもないご褒美なのです。あなたの歌を聴けるなら、いっしょに冒険者になるくらい、どうってことはありません」
「そんなに褒めてもらえると、何か照れます」
「あなたはもっと自分に自信を持ってください! そうだ! 冒険者はやめて、一緒に旅芸人として歌を披露しながら世界中を巡るのはどうです? 私はハープの演奏ができます! ウィルが歌い、私がそれに合わせて演奏すれば、たくさんお金を稼ぐことができると思いますよ?」
「え、で、でも――」
 僕が旅芸人になったら、ルドはどうするんだろう? きっと一緒に来ないよね……。
「大丈夫! 心配いりません! 私は世界中を旅した経験がありますし、上級の攻撃魔法も使えるので、ウィルを守ることができます。きっと楽しいですよ? あなたと二人、世界中を旅して――」
 どこか興奮した様子のハインツさんは、いつの間にか僕の両手を掴んでうっとりとしている。

「その汚い手を放せっ!!」
「ルドっ!?」 
 どうやってハインツさんを落ち着かせようかと考えあぐねていると、突然、彼の手が叩き払われた。
「――――相変わらず失礼な人ですね」
「失礼? いきなり人の手を握りしめるような奴には言われたくない言葉だな」
「ちょっと! 二人とも喧嘩はやめてよ」
 いつもこうだ。ルドとハインツさんが顔を合わせると、険悪なムードになる。
「聞きましたよ? ウィルがせっかく冒険者になってお金を稼ごうと提案したのに、一方的に反対したんですって?」
「貴様には関係ない。俺とウィルの問題だ」
「私の申し出を断ったのはあなたですよ? それなのに、宿代を払えず、ウィルにいらぬ心労をかけるなど、男の風上にも置けませんね」
「なんだと――――」
「おや、図星をつかれたからって逆ギレですか? それとも他に宿代を払える目途がついたとでも? ああ、もちろん、私の申し出を断ったのですから、もう目途がついているんですよね?」
「き、貴様ぁ――――」
「やめてっていってるでしょ!?」
 そういって、ルドに思いっきり抱き着く。
「なっ――――!」
 抱きつくと、ルドがフリーズした。
「相変わらず役得で羨まけしからん奴ですね。鼻の下伸びてますよ? キモい顔しないでもらえます?」
「――!?」
「ルド、やめて!!」
「――――っ!」
 ルドの背中に巻き付けた腕に思いっきり力を込めると、再び硬直する。僕がこうやって抱き着くと、なぜか固まってしまうのだ。
 ルドは口が達者じゃないから、いつもハインツさんに口論では勝てず、最終的に手を出そうとしてしまう。そして僕は、それを必死に止める役なのだ。
 この変な習性を利用して、彼がハインツさんに手を出しそうになるたびに、抱きつくことで、何とかその場を収めてきた。
 そして、ハインツさんも、普段はあんなに優しいのに、ルドに対してだけは、すごく意地悪なことを言う。

「ここは冒険者ギルドです! 喧嘩はよそでやってください!!」
 僕たちがもめているところに、受付のお姉さんがやってきて、ギルドを追い出されてしまった。仕方ない。うるさくした僕たちが悪い。

***

 あのままギルド前で話を続けるわけにもいかず、一度、近くの広場に移動したが、相変わらず、ルドとハインツさんは、僕を挟んで睨み合っている。
 仕方ない。このまま、再びルドの説得を試みる。
「ルド、さっきは酷いこと言ってごめん。でも、このままだと宿代が払えなくて追い出されちゃう。僕頑張るから、だから、一緒に冒険者登録して――」
「もう金は用意できた」
「えっ……」
「用意できたって、どうやって?」
「それは……、ウィルは何も心配しなくていい」
「そういうことが聞きたいんじゃなくて!」
 ああ、いつもそうだ。ルドは、知らないところで、全てを片づけてしまう。
 僕はただ、二人の問題なのだから、一緒に解決したいだけなのに。
「さきほど、掲示されている依頼達成リストを見たときに、ルドルフさんの名前がありました。一人で冒険者登録して、依頼をクリアして報酬を得たんですね?」
 僕がルドに問いかけた答えは、ハインツさんが教えてくれた。
 一人で依頼をーーそうか、そこまでルドは、僕を信頼してくれていないんだ。
「ごめん、ちょっと一人になりたい」
「ウィル――」
「大丈夫。夜までには戻るから」
 このままでは、ルドに八つ当たりしてしまいそうで、僕はその場を離れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの
BL
社畜として働き詰め、過労死した結城智也。次に目覚めたのは、獣人だらけの辺境村だった。 藁葺き屋根、素朴な食事、狼獣人のイケメンに介抱されて、気づけば賢者としてのチート能力まで付与済み!? 「静かに暮らしたいだけなんですけど!?」 ……そんな願いも虚しく、井戸掘り、畑改良、魔法インフラ整備に巻き込まれていく。 スローライフ(のはず)なのに、なぜか労働が止まらない。 それでも、優しい獣人たちとの日々に、心が少しずつほどけていく……。 チート×獣耳×ほの甘BL。 転生先、意外と住み心地いいかもしれない。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...