【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

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第17話 行方不明っぽい

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 ルドと仲直りして三ヵ月程が経った。資金も順調に貯まっている。
 今は、ルド、ハインツさんと3人パーティで冒険者登録し、依頼を受ける日々だ。
 それに、ルドには剣を、ハインツさんには魔法を習うことも続けていた。
 成長するスピードは遅いけど、少しずつ上達しているのは分かった。
 リヒトリーベにいた頃は、ルドの剣に押し負けて、倒れてしまうことも多かったけれど、今はほとんどなくなった。それに、100回に1回くらいは、ルドの体勢を崩すこともできるようになっていた。
 魔法は、攻撃系の魔法をなかなか扱えるようにならなかったけど、試しに回復系の魔法を練習すると、僅かな期間で、初級回復魔法を使えるようになった。
 この世界には、火、水、氷、雷、風、光、闇属性の魔法があり、得意な属性は個人差が大きく、また、回復魔法は、この七属性とは全く別の魔法で、扱える人は珍しいらしい。
 攻撃系で役には立てなくても、回復役として、少しは貢献できるようになってきたのが嬉しい。
 冒険者としての依頼の他に、週に1~2回、酒場で歌を歌うようになった。
 リヒトリーベの王子だとわからないよう、女性の格好をすることを条件に、ルドが許してくれたのだ。
 未だに女性の格好で歌うのはちょっと恥ずかしいけれど、歌うこと自体は楽しいし、何より、僕の歌を聴いた人たちが喜ぶ顔を見れるので、やめられなくなってしまった。
 ただ、歌った後は、必ず、体調を崩すということが、最近分かってきた。だから、あまり頻繁には歌えない。
 それでも、不思議なことに、体調を崩しても、ルドに手を握ってもらって眠ると、次の日にはすっかり回復しているのだった。
 体調が悪くなるのも、ルドのおかげで回復するのも、理由はわかっていない。
 それ以外は、いたって健康だったので、もしかすると、精神的なことが原因なのかも。

 旅の資金を貯めながら、どうやって前世の父を捜すかということも考えていた。
 前世の記憶があることや、転生した目的などは、もちろん、ルドたちには言っていない。
 だから、こればかりは、協力してもらうことはできず、一人でやるしかなかった。
 ただ、転生する際に、『父の転生先の近くに転生させる』と言われていたので、きっと、身近にいる人がそうなのだろうと予測してた。
 すでに亡くなってしまった、こちらの世界の父、ディアーク王、クーデターで王座についた兄のルシャード殿下――今は陛下か、そして、ルド、ハインツさん……。
 もしかしたら、性別が変わっている可能性も否定できない。そうなると、僕の出産で亡くなった母の王妃殿下や、乳母のゲルダさんということも考えられる。
 転生した父には前世の記憶がないということだから、僕が確信できる何かを見つけるか、もしくは、可能性のある人全員に罪を償うか――。
 しかし、罪を償うと言っても、父上、母上にはもう、そうすることはできない。
 兄上に近づくことも、今は難しいだろう。ゲルダさんは、クーデターが起きた後の生死すら不明だ。
 そう考えると、まずは、身近にいるルドとハインツさんから、試してみるべきだろうか。
 だけど、『罪を償う』とは一体――

 日用品の買い出しに来ていた僕は、考えることに夢中になるあまり、道に倒れている人に気づかなかった。
「ウィル、危ない」
 少し後ろを歩いていたルドが、いきなり僕を抱き上げた。
「うわぁっ!」
 ルドの手が脇の下を掴んでいて、くすぐったい。まるで、無理やり抱き上げられた猫のような状態になっている。
「あ、ありがとう」
 ルドに下ろしてもらい、改めて、足元を見ると、ルドと同じような緑色の髪をした傷だらけの少女が、倒れていた。
「大変だ! 君、大丈夫?」
 慌てて声をかけるが、反応がない。
 そうだ、僕の回復魔法でなんとかできるかもしれない。
 ピクリとも動かない少女に、回復魔法を発動する。肌についた傷は多少消えたようだが、まだ意識が戻らない。
「ウィル、落ち着くんだ。まだ息はある。診療所に運ぼう」
「う、うん」
 どうやら生きているようだ。でも、こんなに小さな女の子が、傷だらけで倒れているなんて、ただ事ではない。
 ルドが、少女をそっと抱き上げると、僕たちは急いで近くの診療所へ向かった。

***

「ウィル、少し落ち着くんだ」
 倒れている少女を診療所に運んだ後、診療に必要な代金を支払い、僕たちは宿に戻ってきていた。
 医者によると、身体の傷は、ほとんど癒えているらしい。他に異常がなければ、やがて意識を取り戻すだろうとのことだった。
 だけど、もし、内臓や見えないところに原因があったら? 僕の回復魔法では治しきれていないかもしれない。
 そう思うと、少女のことが気がかりで、落ち着くことなどできなかった。
「ウィル、こっちを見るんだ」
 いつの間にか、ルドが僕の目の前に座っていた。僕の手を掴み、指を開くようにする。
「そんなに強く手を握りしめていると、傷になる」
 ルドにそういわれ、自分の手を見ると、強く握り過ぎて、赤くなっていた。
「ウィルはできることをしたんだ。あとは、医者の言う通り、目を覚ますのを待つしかない」
「うん、わかってるけど――」
 心配なものはどうしようもない。僕にできることはもうないと頭ではわかっているけれど、あんなに小さな子が傷つくなんて、絶対にあってはいけないと思う。
「ルド、明日も診療所に様子を見に行ってもいいかな? もし目を覚まして、親とはぐれたような事情があるなら、助けてあげたいんだ」
「ああ、勿論だ。だから、今日はもうウィルも休め」
「うん。わかった……」
 ルドに促され、自分のベッドに入る。しかし、なかなか眠ることができなかった。
 僕は、前世の弟のことを思い出していた。
 一歳下の弟は、身体が弱く、幼い頃は、殆ど寝ているか、病院に入院していた。
 そのせいで、母が弟にかかりきりになり、寂しい思いもしたが、同時に、他の子と同じように、外で元気に遊べない弟のことを、可哀想に思っていた。それに、二人きりの兄弟だったから、兄として、弟を大切にしたかった。
 道で倒れていた少女が、幼い頃の弟の姿に重なって見えて、何とかしたいという気持ちが昂ってしまっていた。

***

 翌朝、軽く朝食を済ませると、ルドと一緒に、昨日少女を預けた診療所にやって来た。
 しかし、どこを探しても、少女の姿はない。
「どうして……」
 まさか、助からなかったのか!?
「ウィル、大丈夫だ」
 動揺している僕を落ち着かせるように、ルドが肩を抱き寄せ、背中を撫でてくれる。
 体調や気分が悪いとき、ルドに触ってもらうと、なぜか落ち着くんだ。

「おや、君たちは昨日の――」
 そこへ、昨日少女を診察した医師がやって来た。
「先生! 昨日の女の子はどうしたんですか!?」
 先生の姿を見つけるや否や、詰め寄った。
「そ、それが、今朝病院にきたら、姿を消していて――」
「どういうことですか!?」
 姿を消していた……? あんなに傷ついて、意識もなかなか戻らなかったのに、一体どこへ行くというんだ? まさか、誘拐されたとか!?
「昨日の夜、私が退勤するときは、確かにベッドで眠っていました。夜勤の者が見回りにきたときも、その姿はあったそうです」
「だが、今朝になって、姿がきえていた、と?」
 ルドも、訝しんでいるようだ。眉間に皺が寄っている。
「ええ。自分で出て行ったのならまだしも、何者かに攫われた可能性も、否定はできません」
「この診療所は、そんなに簡単に部外者が侵入できるんですか?」
 つい、責めるような口調になってしまう。
「いえ、そんなことはありません。夜はちゃんと戸締りもしていますし、夜勤の者が何度も確認します」
「じゃあ、自分で姿を消したと……?」
「それはまだわかりません。とにかく、先ほど、警察の方には報告しました」
「そうですか……。僕たちも捜してみます」
 とにかく、少女を見つけて、無事であることを確認したかった。
 しかし、一日中、町中を捜索しても、見つけることはできなかった。
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