義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!

もーりんもも

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13 トリアノン領の魔物討伐①(王子視点)

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「聖女様って、すっごく怖いんだってな」

 ……またか。
 最近、王宮内でも彼女のよくない噂を耳にするようになった。

「ああ、俺の同期があの塔で護衛の任についているんだが、文句ばかりで、気に入らないと、すぐに怒鳴り散らすらしい」
「聖女様って、もっと優しい淑女なのかと思ってたよ」

 ……本当なのか?

 聖女として王宮に来たときには、彼女は淑女そのもので、僕は夢にまで見た聖女様に会えた感動で、泣きそうになったというのに。
 多分、今日会えばはっきり分かるはずだ。


 ……にしても、どうして僕が隠れなきゃいけない?
 王宮の廊下だぞ。
 騎士たちが歩きながら話しているだけじゃないか。

 ……はあ。我ながら情けない。
 騎士たちが通り過ぎたのを確認してから廊下に出ると、ちょうど反対側から父上たち一行がやってくるのが見えた。
 正騎士長のテオも一緒だ。彼も行くのか?

「エイデン王子。お早く! 王様の後から広間にお入りになるおつもりですか?」

 扉の前で、口うるさい家庭教師が僕を手招きしている。

 もちろん、そんなことは許されない。
 僕は早足に、それでも堂々とした態度で広間に入った。




 広間には、聖女様の他に、東方に領地を持つ貴族たちがいた。
 皆が集められた目的を説明するのは宰相の役目だ。

「それでは、東方のトリアノン領での魔物討伐に出立するにあたり、王様よりお言葉を頂戴いたします」
「うむ。トリアノン領での魔物出現による被害報告は痛ましい限りだ。だが、時を同じくして聖女様が現れた」

「おお」とか「ああ」など、感慨深げな声が貴族たちから上がる。

「これは天啓に違いない。必ずや聖女様が魔物を一掃してくれようぞ。エイデン」

 ……え? 急になんなのです?

「は、はい。父上」
「お前も聖女様に同行するのだ。聖女様のお力を、お側でしかと見てくるがよい」
「……今なんと?」
「何度も言わせるでない。お前も討伐隊の一員として、トリアノン領に赴くのだ」
「ち、父上! そ、そ、そんな!」

 なぜそんな恐ろしいことを、この僕に?

「ええいっ! みっともない! それでも次期国王か! 討伐完了のあかつきには、お前が国民にそのことを触れてまわるのだ」
「しょ、承知いたしました」

 ちらっと聖女様を見ると、まるで父上を呪い殺している最中のような、恐ろしい形相をしている。

「それであのー。父上。騎士団からはどの隊が?」

 ……頼む。テオも来てくれ。

「テオが推薦した者たちだ。此度は騎士団が活躍する場はないだろうから、道中の補佐として三名ほど同行させる」

 え? たったの三名?!
 僕も思わず声をあげそうになったが、それよりも先に聖女様の声が響き渡った。

「三名ですって! 王様はいったい何をお考えなのです? 私一人を働かせるおつもりですか?」

 ……ひ、ひい! 父上に向かってなんと無礼な真似を。

「聖女様は、ご自身のお力を理解されておらぬようだな」
「む! では、無事に討伐が完了したら、報酬はどのくらいいただけるのですか?」
「報酬?」

 ……報酬? 聖女様が「報酬」を口にするとは。

「聖なる力は、この国を守ために天から授かったもののはず。聖女はひたすらに、国の安寧を祈る者だと聞いておったが」

 うわあ。聖女様のあの顔。あんなに目を吊り上げて、口を尖らせるなんて――。
 ……お、恐ろしい。

「ふむ。言うつもりはなかったが、報酬というのなら既に渡しておる。そなたの母君にな。私の知っているシュヴェルニ男爵は、借金を作るような男ではなかった。遺産も相当残していたと聞くが、どのように散財すればあれだけの借金を作れるのか――」

 え? 借金? シュヴェルニ男爵家に借金があったのか……。
 でも確かに父上の仰る通り、彼は地味で質素なイメージだったのに。
 ……いや違うな。質素なイメージはアデリーンだ。会うたびに同じドレスを着ていたからな。
 あれ? ならば、どうして借金ができるのだ?

「とにかく、そなたの家の借金は、既に肩代わりして清算しておる。これで文句はないな」

 ……うわあ。
 聖女様が母君を、敵を見るような目で睨みつけている。

「皆の者! これより、聖女様一行が、東方、トリアノン領に向けて、魔物討伐に出立される。国民に大々的に知らせるのだ!」




 国王の命により大々的に知らされた結果、城を出た途端、国民たちが待ち構えていた。
 皆、期待に胸を膨らませている。
 顔を紅潮させ、興奮して口々に叫んでいる。

「聖女様! 聖女様! なにとぞ魔物を打ち倒してください!」
「聖女様! どうか私たちをお守りください!」
「聖女様万歳! ロワール万歳!」

 聖女様と僕を載せた馬車は、国民の人垣をかき分けて進み、王都の外へでた。
 三名の騎士は馬に乗り、馬車の前を行く。

 馬車の中で聖女様と二人っきりだなんて、ちょっと気まずいんだけど。
 それに、ああ、やっぱり怖い。

 向かいに座っている聖女様は、ふんぞりかえって窓の外を見ている。
 イライラしているのか、指先で、組んだ足の太ももをずっと叩いている。

「ちょっと! なに、ジロジロ見てんの!」
「す、すみません!」

 聖女様は、僕の代わりにドアを拳でドンと叩いた。
 目が合っただけで、そんなに怒るなんて。

 トリアノン領に到着するのは、明日の午後だ。
 ……長い。長すぎる。
 このままじゃ、着く前に僕が打ち倒される――気がする。
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