『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第17話『はじまりの味、貴族の邸宅にて』

 *

 馬車が止まった先は、花の香りに包まれた、優雅な白い館だった。

「……すごい、これがお屋敷……」

 緊張と驚きに目を丸くしながら、リィナはピノをそっと胸に抱える。
 木の門、丁寧に磨かれた敷石、手入れされた庭。
 そこに立つだけで「私が来ていいのかな」と思ってしまうほど。

「大丈夫ですよ。あなたの“味”が、ここへ呼んだんですから」

 レオが、変わらぬ穏やかな笑みで横に立っていた。
 でも屋敷の使用人たちは、その姿に一様に背筋を伸ばしている。

 (な、なんか……レオさん、すごい見られてる……)

 リィナは気づいていない。
 その理由が、“この場に普通いるはずのない人”だからだということに。

 *

 「リィナ・アーデン様ですね。ようこそお越しくださいました」

 迎えてくれたのは、薄紫のドレスを纏った伯爵夫人――フィリエーヌ・アルメリア。
 優雅で、気品がありながらも、どこか人の良さを感じさせる女性だった。

「先日いただいた“プリン”、本当に素晴らしいものでした。
 ぜひ、この味を友人たちにも紹介したくて。ご足労いただき、感謝いたしますわ」

「あ……ありがとうございます……!」

 背筋を伸ばすのがやっと。
 けれど、リィナは必死に笑顔を作って頭を下げた。

 ピノは、夫人の足元でちょこんと座ると、静かに一礼のように羽を動かす。

「まあ、あなたが“ピノ”さんね? 噂の看板魔物さん」

 フィリエーヌ夫人は、屈託なく笑った。

(……優しい人でよかった)

 緊張が、ほんの少しだけ和らぐ。

 *

 用意された小さな厨房に案内され、リィナは持参した材料と道具を並べた。

 この屋敷で初めて作る、“はじまりのプリン”。

(丁寧に、いつも通りに……)

 ゼリーも二種類。ピノの定番と、王都風にアレンジしたハーブ入り。
 飾りつけは、しろくま通りで子どもたちに人気だった、リボンとタグ。

「完成です。……お口に合うと、いいのですが」

 お皿に盛られたスイーツを前に、貴婦人たちが静かにスプーンを運ぶ。

 しばしの沈黙ののち――ふわっと、空気がやわらいだ。

「……なんて優しい味でしょう」

「口の中でとけて……でも、ちゃんと甘い。思わず笑っちゃいそうな味」

「これが、“あの店の”……!」

 ざわつきが広がる中、フィリエーヌ夫人は、静かにうなずいた。

「あなたの味には、嘘がないのね。……素晴らしいわ、リィナさん」

 その言葉に、リィナの目がうるんだ。

「ありがとうございます……私、ただ“喜んでもらいたくて”作ってるだけで……」

 周囲の貴族たちが思わず目を見合わせる。
 そんな“まっすぐな言葉”が、かえって心を打つことを、誰も予想していなかったのだ。

 *

 その奥で――レオは静かに立っていた。

 その存在に気づいている貴族の一人が、声をひそめて隣に囁く。

「……あれは、“白獅子のレオネル”では?」

「噂通りのご本人か……まさか、こんな場所に」

「なぜあんな少女を、護衛する?」

「……守る価値があるということだろう。“この国の未来に”」

 リィナの知らぬところで、彼女の周囲の空気は確実に、変わりはじめていた。
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