『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第16話『王都へ、ひとつの決意』

 *

 翌朝、リィナはテーブルに置かれた招待状を前に、深く息を吸い込んだ。

「……行こう。ピノ、行ってみようと思う」

「ぴ……?」

「逃げたい気持ちはある。でも、私、ちょっとだけ気になってるんだ。
 “貴族にも、この味は伝わるのかな”って」

 ピノはしばし考えるようにまばたきし、それから静かに肩に飛び乗った。

「ぴっ」

 それは、賛成の合図だった。

 *

 準備をしていると、すでに手配された馬車が通りの入り口に停まっていた。
 立派すぎる装飾に気圧されながらも、リィナは一歩、外の世界に足を踏み出す。

 そして、そこには――すでに待っていた。

「お迎えにあがりました、リィナ様」

 白と紺の旅装に、やわらかな笑みを浮かべたレオ。
 けれどその服の裾には、王国紋章の刺繍が、控えめに光っていた。

 (あれ……この紋、どこかで……)

 そう思ったが、リィナはすぐに「お洒落な騎士の服なんだろうな」と思い直してしまう。

「レオさんも一緒なんですね」

「はい。“顔が広いだけの騎士”ですが、一応、王都にも少しばかり知り合いがいるので」

「心強いです……!」

 リィナは、少しも疑うことなくその言葉を受け入れた。

 その後ろで、馬車の扉を開けていた執事のレイファが、
 そっとレオの姿を見て、小さく目を見開いた。

(……この方が、“あの方”だったとは……!)

 レイファの背筋が思わず伸びる。
 それに気づいたレオは、微笑みを浮かべたまま、小さく片眉を上げてみせるだけ。

「ピノ屋さん、王都デビューか。……賑やかになるな」

 小さなつぶやきが、馬車の車輪とともに街を離れていく。

 *

 馬車の中、リィナは緊張で手を膝の上に置いたまま硬直していた。

 「貴族の屋敷に招かれる」
 それは前世どころか、今世でも縁のなかった世界。

 ピノは膝の上で丸くなり、時々ちらっとレオを見ている。
 まるで「この人、信用していいの?」と訊いているように。

「大丈夫ですよ、ピノさん。私はただの旅好きな騎士です」

「ぴぴぃ」

 思いっきり不信の羽ばたきが返ってきた。

 *

 王都の門をくぐると、そこはリィナの知らない“広すぎる世界”だった。

 高い石壁、揃えられた衛兵の制服、整った舗装道――
 その中でも、通りを歩く一部の人たちが、レオの姿に気づいた瞬間、
 明らかに緊張を走らせる。

 (あの騎士……まさか……)

 (あれが“あの人”だなんて……!)

 貴族、商人、衛兵――それぞれが、その紋章の意味に気づきながらも、
 リィナの無邪気な表情を見て、“口にしてはいけない”ことを察する。

 そして誰もが、「レオが護衛として同行している」その事実に、
 この少女が“ただ者ではない”可能性を感じ始めていた。

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