『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

文字の大きさ
21 / 146
2章

13

しおりを挟む
■第20話『おかえり、ピノ屋さん』

 *

 「この度は、本当にありがとうございました」

 帰り支度を終えたリィナが、フィリエーヌ夫人の前で丁寧にお辞儀をした。

「こちらこそ。あなたの味が、王都に新しい風を運んでくれたわ」

 夫人は相変わらず優雅に、しかし誠意をもって言葉を返してくれる。

「あなたが望むのなら、王都でのお店の支援も――」

「いえ。……私は、しろくま通りで、小さく暮らしていきたいです。
 でも、また呼んでいただけたら……喜んで来ます!」

 その答えに、夫人は微笑み、静かにうなずいた。

「それでこそ、ピノ屋さんね」

 そのやりとりを見ていたピノは、リィナの足元でちょこんと座り、くるりと一礼。

 「ぴぴっ」

 まるで「もうここで仕事は終わったから、帰るよ」と言っているような態度だった。

 *

 馬車に揺られて、帰路。

 リィナは、そっと窓の外を眺めながら言った。

「……緊張したけど、いい経験になった。
 ピノがいてくれて、レオさんが守ってくれたから、がんばれたと思います」

「そうですか。なら、がんばったご褒美に、次は少しだけど観光とか……」

「えっ? レオさんと?」

「もちろん。護衛ついでです」

「……えへへ、それ楽しそうです」

 隣の席でそう言われて、レオはそっと目を細めた。

 そのとき――

 「ぴぴぴっ!!」

 ピノが突然、リィナの膝によじ登ってきて、思いっきり彼女の頬にほっぺたを押しつけた。

「わ、ちょ……ピ、ピノ!? くすぐったいってばぁ……!」

 リィナの顔に全力でぺたぺたと体を押しつけるピノ。
 その様子は、どう見ても「レオには触らせない」宣言。

「……ふふ、妬いてるんですか?」

「ぴぴぴっ!!」

「やきもち、可愛すぎか……」

 レオが苦笑しながらぽつりとつぶやく。

 (けど、なんで俺まで……)

 なぜかピノは、レオの視線がリィナに向くだけで、ぴたっと睨んでくる。

 (……これは、だいぶ根深いやつかもしれない)

 リィナはというと、ピノを抱きしめながら、

「ごめんね、ピノ。レオさんにも感謝してるだけだよ?」

「ぴ……ぴ?」

「ほら、“レオさん”にはありがとうってしないと失礼でしょ?」

 その“ありがと”に、レオがほんの少しだけ赤面して、そっぽを向いた。

「……それは、嬉しいですが。……あまり、照れるので」

「……?」

 リィナは首を傾げたが、ピノだけは、じぃーっとレオの横顔を見ていた。

 *

 しろくま通りが見えてくると、胸の奥がじんわりと温かくなった。

「ただいま、ピノ。……おかえり、“私のお店”」

 「ぴっ!」

 リィナの手には、王都で交わされた新しい味のアイデアノート。

 そして、彼女の横には――まだ“名も明かさぬ騎士”が、静かに立っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...