『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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2章

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■第19話『その味は、守られるもの』

 *

 「“月のハーブゼリー”、とても評判が良いです。
  さすがは、ピノ屋さんの新作ですね」

 厨房の執事が伝えてくれた言葉に、リィナは心の底からほっとした。

 王都向けにアレンジしたゼリーは、淡い緑に透明な金の飾り。
 見た目も味も、気品ある仕上がりにできたと自分でも思う。

(ここまで来れたんだ……わたし)

 けれど、その日の午後――
 厨房にいた見習いの使用人が、こっそりリィナのレシピノートに手を伸ばしているのを、
 ピノが鋭く察知した。

「ぴっ!!」

「ひっ!?」

 ピノが飛びかかるように机に登り、レシピノートを翼で押さえ込んだ。

「な、なんの騒ぎです?」

 あわてて現れた別の使用人が問う。

「……すみません! 私はただ、あのレシピを……奥方に渡せば私の立場も……!」

 必死なその言葉に、リィナは息を呑んだ。

「わたしの……レシピを?」

 ノートを握りしめながら、手が少し震えた。

 (私の、“大切な味”が……知らない誰かの手に、勝手に渡る?)

「そのノートは、彼女の心そのものです。
 ……盗もうとするのは、彼女の信念を傷つけるのと同じですよ」

 ――その声は、背後から静かに届いた。

 振り向けば、レオが立っていた。
 さっきまでどこにいたのかもわからないほど、音もなく。

「レオ、さん……?」

「私はこの方の“護衛”として同行していると申し上げましたよね。
 たとえあなたが厨房の使用人であっても――脅威であるなら、排除します」

 言葉は穏やか。
 でも、レオの瞳にはほんのわずかも“情け”がなかった。

 (これが、騎士としての……)

「……お引き取りを。奥方には、私から正式に経緯を報告します」

「は……はい……!」

 震える使用人が逃げるように出て行ったあと。
 レオはそっとリィナの前にしゃがみ込み、ノートに触れる。

「大丈夫です。……もう、誰にも奪わせません」

「……ありがとう。わたし、なんか、すごく……怖かった」

 レオは、優しく微笑んだ。

「あなたの“味”は、あなたのものです。
 ……そして私は、その味を守れることを、誇りに思っています」

 静かで、どこか甘い空気。

 まるで、レオの声に包まれるだけで、心の震えがすっと消えていくようだった。

「レオさん……」

「……“味”だけじゃなく、あなた自身も、ですよ」

 ささやくような声でそう言うと、レオはそっと立ち上がった。

 残されたリィナの胸には、甘くて静かな余韻が残ったまま――。
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