『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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3章

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■第23話『魔物と、まあるい手のひら』

 *

 「ピノ、大丈夫だった……?」

 翌朝、リィナは焼きあがったピノころクッキーを冷ましながら、
 昨日の一件を思い返していた。

 ピノはいつものようにカウンターの上でまるくなっていたけれど、
 その寝息は、ほんの少しだけ浅く、どこか不安げにも聞こえた。

(昨日、言われたこと――気にしてるよね)

 ピノは魔物だ。
 でも、リィナにとってはそれ以前に、最初に手を伸ばした“相棒”で、大切な家族のような存在。

 “魔物だから”じゃない。“ピノだから”。

「ピノ、今日は無理しなくていいからね。お店、静かにやってくから」

 ピノは目を開けずに、ひとつだけ鳴いた。

「……ぴ」

 *

 その日、お店は穏やかに営業していた。

 子どもたちがクッキーを買っていき、
 「ピノちゃん、いないの~?」とさがす子にリィナは「お昼寝中なの」と笑って答えた。

 そんな静かな午後――ピノは、屋根裏の天窓から、空をじっと見上げていた。

 まぶたの奥に、かすかな記憶がよみがえる。

 ――「あれは危ない魔物だ。追い出せ」

 ――「羽根が白いってことは、かえって凶兆だ」

 人間に傷つけられたあの日。
 リィナに拾われて、初めて“守られた”あの日。

 あのときの手は、小さくて、あたたかくて、まあるかった。

 (……あれが、“ひと”だったから、信じてみようって思えたんだ)

 *

 その夜。ピノは、珍しくリィナの膝に乗って眠っていた。

 レオが来ていたにもかかわらず、そちらには一切近づかない。
 “縄張り”のアピールは、じわじわと強化中。

「……昨日のこと、気にしてるのかなって思って」

「……ああ。ピノさんは、強いようで繊細ですから」

「でもね、私、ああいう風に言われても……やっぱりピノは“だいじ”なの。
 この子がいたから、私はちゃんと“好きな味”を作れてるから」

 リィナはピノの背を撫でる。
 レオはそれを見ながら、少しだけ目を伏せた。

「……あなたのそういうところに、たくさんの人が助けられるんですよ」

「助けてるなんて思ってないよ。ただ、当たり前のことだし……」

 その言葉に、レオの胸に少しだけ刺さるものがあった。

 “当たり前”というそのまるさが、
 どれほど、魔物にも人にも――そして自分にも、救いなのか。

 *

 その日の夜。王都近く、別の街の暗がりにて。

「――見つけた。“白獅子のレオネル”が、名もなき少女の店に通っていると?」

「はい。しかも、その少女には“異質な魔物”が寄り添っています」

「……興味深い。放っておくには、惜しい話だな」

 誰かが、動き出す。

 “まあるい日常”に、少しずつ、風が吹き始めていた。
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