『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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3章

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■第24話『まもりたいもの、まあるいこころ』

 *

 「……ぴ」

 久しぶりに、ピノが自らカウンターに飛び乗ってきた。

 お昼時。クッキーの焼き上がりを待つ時間、
 甘く香ばしい匂いに誘われてふわっと姿を見せるそのタイミングに、
 リィナはほっと笑顔をこぼした。

「おはよう、ピノ。やっと元気になった?」

「ぴ」

 そっぽを向きながらも、しっぽをぴこぴこと振っている。
 それは――“気にしてないふりをしつつ、見ててほしい”サイン。

「ふふ、ピノのクッキー、今日も人気だよ」

「ぴぴっ!」

 机の上でころんと転がって、アピールポーズ。
 リィナはスケッチブックを開いて、新しいクッキー案を書きはじめた。

(次は……ピノのうしろ姿バージョンとか?)

 *

 午後、いつもより少し格式のある服装の男性が店を訪れた。

 「こちら、王都の北側で茶館を営んでいる“シロガネ商会”の者です。
 今後、何かお力添えできることがあればと思いまして……」

 名刺を差し出しながら、礼儀正しく話しかけてくる。
 リィナは少し緊張しながらも、お茶とピノころクッキーを出した。

「味も見た目も、素晴らしい。あえて申し上げるなら――“護衛”までついているとは、恐れ入ります」

 「……え?」

 商人の目は、一瞬だけカウンターの奥――レオに向いた。
 リィナにはわからない意味を含んだ、深い視線。

「貴族でもない、でも騎士でもなさそうな“存在感”。これは……どうにも見過ごせませんね」

 レオはその視線を受けても、笑顔ひとつ崩さなかった。

「ただの旅の騎士です。少し、顔が広いだけですよ」

「……なるほど。では、今後もお見かけすることがありましたら、よろしくお願いいたします」

 商人はそれだけを言い残し、静かに店を後にした。

 リィナは、不思議そうにレオを見つめる。

「……なんか今の人、レオさんのこと見てた気がする」

「よくあることですよ。珍しい顔なんでしょう、きっと」

「うーん……でも、ピノがまた睨んでたから、たぶん当たってると思う」

「ぴっ!」

 ぴたっとレオをにらみ返すピノ。

 (……やっぱりこの魔物、只者じゃない)

 *

 その日の夜。レシピノートにクッキーの新案を書きながら、
 リィナはそっと手を止めて、独り言のように言った。

「……わたしね、今すごく幸せなんだ」

 ピノが机の上でまばたきする。

「毎日、お菓子を作って。誰かが食べて笑ってくれて。
 ピノがいて、レオさんもいて。……それって、たぶんすごく大事なことなんだって、今さら思ったの」

 “まもりたいもの”は、大きな正義じゃなくていい。
 この小さな場所、この味、この笑顔。
 それを守れたら、きっと十分。

 ピノがそっとリィナの腕に頭を預ける。
 まるで、「わかってる」と言っているように。

 そしてカウンターの向こうで、レオが静かに微笑んでいた。

(……俺も、きっとその中に、いていいんですよね)
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