『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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3章

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■第25話『守るための名、隠された剣』

 *

 「リィナさん。先日の申し出について……もう一度、正式にご相談させていただきたく」

 再び現れたのは、王都北部のシロガネ商会から来た使者だった。
 前回よりも、さらに丁寧な口調と豪華な手土産。
 けれど、その背後にある“意図”は、リィナにも薄々感じ取れていた。

「支援というのは……具体的にどういう……?」

「レシピの独占契約と、ピノ屋ブランドの王都展開です。すべてはこちらで整えます。
 あなたは味だけに集中すればいい。それがあなたの幸せでは?」

「……味だけに?」

「店や人、魔物――余計なものを背負う必要はないのです」

 その言葉に、リィナは小さく肩をすくめた。
 その隣で、ピノが低く「ぴっ……」と鳴く。

 それは、いつものかわいい音色ではなかった。

 (この人たち――“ピノごと切り離そう”としてる……)

「……お断りします。私は、ピノがいて、この場所で、お菓子を作ってたいだけなんです」

「……残念です。ですが、こちらとしても立場というものがありましてね。
 “味”だけが価値を持つわけではありません。
 ……王都に知られる前に、囲い込む方が、いろいろと都合がいいのですよ」

 その一言で、空気がぴしりと凍りついた。

 リィナの背後から、椅子を引く音が響く。
 静かに立ち上がった男の影が、一歩、前へ出る。

「――その言葉、今すぐ取り下げていただけませんか」

 静かすぎるその声に、シロガネの使者が目を向ける。

「……これはこれは、旅の騎士殿でしたか。お立場を越えての発言では?」

「いえ。越えてなどいませんよ。私は“彼女の護衛”としてここにいます。
 そしてそれ以上に、“王国直属の勇者騎士団所属”、レオネル・クラウスとして――彼女を守る権利を持っている」

 空気が、一瞬で変わる。

「ゆ、勇者騎士団……? まさか、“白獅子のレオネル”……?」

 名が口にされた瞬間、使者の表情が青ざめる。

「……冗談を。なぜそんな方が、こんな町の菓子屋に――」

「理由は必要ですか? 私は、“この店とその味が大事だと思った”
 ……それだけで動く権限が、もうあるんですよ」

 レオの笑みは、いつもと変わらず穏やか。
 でも、そこに漂う気迫は――勇者の隣にいた男だけが持つ“本物”だった。

「……わ、わかりました。失礼いたしました。弊社の提案はすべて白紙に――」

 使者は言葉を詰まらせながら逃げるように店を後にした。

 *

 静けさが戻ったあと。
 リィナは、ぽかんとレオの顔を見つめていた。

「……今、なんて……言った?」

「うっかり、“素”が出ただけですよ」

「勇者の、仲間って……」

「……はい。少し前までは、そう呼ばれてました」

「……えっっ……!? えええ!? なんでそんな人がうちにいるの!?」

「“味”に惹かれて、ですね」

「ぴーーーーっ!!」←いつもの照れ+やきもちMAX

「……ピノ、静かに……いや、もうちょっとだけ怒ってもいいけど」

 *

 その夜、リィナはノートにこう書いた。

《まもられた日。ピノも、レオさんも、だいじ》

 そして、その下に小さく――

《自分でも、まもれるようになりたい》
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