親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi

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 扉の向こうに飛び出した瞬間、光がぱっと弾けた。
 視界が落ち着くと、今度は耳にガヤガヤとした喧騒が流れ込んでくる。

 目の前に広がっていたのは、中世ヨーロッパを思わせる街並みだった。
 石畳の道、木と石で作られた建物、遠くに見える尖塔。
 そして――人間だけじゃない。獣人、エルフ、ドワーフのような種族まで、当たり前に行き交っている。

 「わぁ……すごい……!」

 思わず声が漏れた、その時。

 「お嬢ちゃん、天使かい?」

 背後から声をかけられ、私はびくっと肩を跳ねさせた。
 振り向くと、年配の男がにやにやと笑いながら立っている。

 「それも……まだまだ未熟なんだねぇ」

 次の瞬間、男の手が私の手首を掴んだ。
 ぬるりとした感触に、背筋がぞわっと粟立つ。

 「……っ」

 近い。距離が近すぎる。
 私は反射的に半歩下がろうとしたが、掴まれて動けない。

 「はい、えっと……」

 言葉がうまく出ない。
 胸の奥に、不信感が膨らんでいく。

 ――嫌だ。離して。

 その時だった。

 「はいはいー。ちょっとごめんねー」

 明るい声が降ってきた。
 見上げると、上空からひらりと“天使の男性”が舞い降りてくる。

 「うちの天使が紛れたみたいでさ」

 軽い口調なのに、空気が変わった。
 男の天使は笑っているのに――目だけが笑っていない。

 「その手、離してくれない? じゃないと……審判にかけるよ。……いい?」

 冗談みたいに言う。
 でも、声の温度が低い。

 金髪の癖毛に、赤い瞳。
 視線だけで、背中が冷える。

 「……くそっ」

 おじさんは舌打ちして、ようやく私の手を離した。

 私は掴まれていた手首を押さえ、息を吐く。
 ……助かった。

 「大丈夫? 怖かったよね」

 天使の男性が、今度は優しい声で言った。

 そして周囲を見回し、小さく眉をひそめる。

 「……ここ、人が多いからさ。初心者狙いも紛れてる。君、こっち」

 そう言って私は、路地裏へと連れて行かれた。

 人目のない場所に入った途端、胸の鼓動が少し落ち着く。
 だけど――安心しきるのも怖い。

 「えっと。君、名前は? あと……飛べるよね?」

 彼はこてん、と首を傾げた。

 「私はココです。飛べるかは……分かんなくて」

 正直に言うと、彼は目を見開いた。

 「ココちゃんね。……飛べるか分かんないの?」

 そして、急に少し怒ったような声になる。

 「……あんな場所に一人でいたのに。保護者は?」

 「いません。ひとりです」

 この世界では。
 現実の親からの干渉も、ここには届かない――はずだ。

 彼は深くため息をついた。

 「……はぁ。分かった。じゃあ一回、君の身元を確認しよう。安全な場所まで移動する」

 「……安全な場所?」

 「うん。俺の拠点。初心者が襲われないようにしてる」

 そう言って、彼は私の背中の羽を見た。

 「羽、動く?」

 「はい。動きます」

 私はぴこぴこと羽を動かして見せる。

 「よし。じゃあ、ジャンプしてみて。ふわっと。浮くよ」

 言われた通りに軽く跳ぶ。
 次の瞬間、足が地面から離れた。

 「……浮きました」

 でも安定しない。
 高く飛べず、体がふらついてしまう。

 「うん、まだ慣れてないね。未熟天使ってやつか」

 彼は苦笑して、手を差し出した。

 「今回は俺と手を繋いで帰ろう。そのうち、ちゃんと飛べるようになるから」

 迷ったけれど、私はそっと手を握った。
 迷惑をかけたくない。でも、今は頼るしかない。

 「じゃ、行くよ。せーの」

 ふわりと身体が持ち上がる。

 最初は怖くて肩に力が入っていたのに、街の屋根を越えたあたりで景色が変わった。
 空が近い。風が冷たい。遠くまで見える。

 「わぁ……きれい……!」

 感動して、私はふと気づく。

 「……そういえば、名前聞いてなかった」

 「俺?」

 彼は楽しそうに笑った。

 「ウリエル。よろしくね!」

 「ココです。……よろしくお願いします!」

 私は必死に羽を動かしながら、彼の背中を追いかける。

 ――ウリエル。

 どこかで聞いたことがある名前だ。
 それが何を意味するのかは、まだ分からないまま。
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