もう演じなくて結構です

梨丸

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16 だからどうした

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 「何かいうことは無いのか。
 「なんのことかな」

 マルクは手をひらひらとさせた。


 
 「その人の名前は……マルク様です。何度か口説かれたので覚えています」

 セリーヌは口をぱくぱく動かした。
 何か言おうとしたのに声が出ないかのように。
 ルーカスは呆然としていた。

 マルクさんが魔毒を混入させるはずがないわ。

 セリーヌは知っていた。
 マルクがとても優しい人だということを。
 

 
 ルーカスはマントを翻し歩き始めた。
 その顔は驚くほどの無表情。
  
 「(ルーカス様……)」

 ルーカスはセリーヌにマルクのことを話す時、心底楽しそうに話をしていた。
 マルクはルーカスの大切な騎士団の仲間であり、友人なのだ。
 セリーヌとルーカスが互いに想い合うように。


 マルクはまだ地下工房にいた。

 「アードルフさんは仕事があるって~」とのびのびとした口調で言う。
 しかし、ルーカスのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか黙り込んだ。
 静寂が場を支配する。

 数秒経ったのち、ルーカスはつかつかと音をたてマルクの目の前に立った。

 「何かいうことは無いのか。
 「なんのことかな」

 マルクはへらっとした笑みを浮かべる。
 いつものように。

 「お前……!」

 ルーカスは静かに、しかし強く怒っていた。
 こんなに感情を露わにしたルーカスをセリーヌは見たことがなかった。

 ルーカスがマルクの胸ぐらを掴む。

 「ライ麦に毒を仕込んだのはお前か……?」

 ルーカスが苦しげに尋ねた。
 マルクが犯人であって欲しくない、そんな意識の表れだったのかもしれない。
 そんなルーカスに対し、マルクはさほど緊張感もなくこう答えた。

 「そうだよ」
 
 だからどうした、とでも言いたげな顔だ。
 セリーヌは絶句した。

 どうしてマルクさんがそんなことを。


 ガタン、と大きな音がしてセリーヌは我に帰った。

 セリーヌが見たのはルーカスがマルクを殴った瞬間だった。
 マルクの口の端から血が流れる。

 「痛いなあ。になんてことするんだよ」
 
 そう言いながらも笑うマルク。
 その笑顔がセリーヌにはとても歪なもののように見えた。
 




 
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