もう演じなくて結構です

梨丸

文字の大きさ
17 / 27

17 婚約しようよ

しおりを挟む
 ルーカスがもう一度マルクを殴ろうと拳を固めた。
 それをセリーヌが手で制す。

 「もうやめてください。婚約破棄しますよ」

 「婚約破棄」というワードに反応したのか動きを止める。
  
 「どうして魔毒を混入させたのですか?」

 セリーヌが表情を崩さないように努めて問う。
 その問いにマルクは答えず、ふっと笑った。

 「さあ、どうしてだと思う?」

 マルクが茶化すように問いかける。
 ルーカスの顔が再び険しくなっていく。

 マルクはそんなルーカスを一瞥してからセリーヌを真っ直ぐと見つめてこう言った。


 「ねえ、婚約しようよ」
 「何言って……」
 「幸せにする」


 セリーヌが拒否する間も与えずに喋る。

 「俺とセリーヌちゃん、お似合いだと思うんだあ。ほら、二人とも美男美女だし。それにさ……」
 「セリーヌは俺の婚約者だ」
 「横槍入れないでくれる?ルーカス」

 マルクがイラついたようにルーカスを冷ややかな目で見る。
 そしてセリーヌを優しげな目で見る。

 「ねえ、セリーヌちゃ……」
 「ごめんなさい」
 
 それは穏やかな、しかし強い拒否だった。

 「あのさ、今すぐ決めなくていいと思うんだ。……堅物男じゃなくて、俺にしない?絶対大切にするよ?」

 マルクは笑っていたが、その半分泣きそうな顔をしていた。
 セリーヌは胸がキュッとなった。
 今までの自分と重ねてしまったからだ。

 しかし、それだからこそセリーヌは言っておきたいことがあった。

 「私はルーカス様のことをお慕いしております。マルクさんと婚約するつもりは、ございません」

 セリーヌの強い意志を感じ取ったルーカスは顔が真っ赤になり、マルクの瞳が大きく揺れた。

 「……そっかあ」
 
 マルクは小さくそう呟き、ルーカスに向かって敬礼し、叫んだ。


 「王都騎士団副隊長、マルク・アーネスト!ライ麦を魔毒で侵したのは自分です!そして、セリーヌ様に偽の手紙を寄越したのも自分です!どのような処罰でも受ける所存です!」


 ルーカスは一瞬、ほんの一瞬動揺を見せたが、はっきりとこう言った。

 「王都騎士団副隊長、マルク・アーネスト。魔毒の不法所持、不法使用によって確保する」

 
 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切りの街 ~すれ違う心~

緑谷めい
恋愛
 エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?

ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。 だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。 自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。 やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。

処理中です...