もう演じなくて結構です

梨丸

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22 味方なんていない

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 ルーカス・レーフクヴィストは正しさの下に生きていた。

 ──彼をそうさせたのは他でもない彼の義理の弟、ラウドーリだった。


 ルーカスは両親のことが大好きだった。
 両親もルーカスを愛していた。
 しかし、その何気ない幸せは壊されることとなる。

 きっかけはルーカスの母、アビゲイルの死だった。
 アビゲイルはもともと持病を患っていたのもあって、ルーカスが七歳の頃に亡くなってしまった。
 彼女を深く愛していた公爵はアビゲイルの死後、一気に無気力となった。

 ルーカスとの会話もほとんどなくなり、以前のような笑顔を見せることも無くなった。
 
 仕事だと、毎日家を空ける日々。
 


 久しぶりに父親が帰ってくると聞いたルーカスは玄関の前で柱にもたれかかり、帰りを待つ。

 空の橙と紫が混じり合った頃。
 ルーカスの瞳にぼんやりとした人影が映った。

 「父様だ……!」

 ルーカスは父のもとに駆け出した。



 「この子はラウドーリというんだ。仲良くしてやってくれ」

 ニコニコと笑う父様と、その横の
 母様が死んだ時から、父様のこんな笑顔見たことなかった。

 女の方は公爵と共にニコニコ笑っており、男の子もまた綺麗な笑みを浮かべていた。

 「よろしくね、

 この時から女の人はルーカスの母になったし、男の子は弟になった。

 新しい母は優しくなんでも教えてくれたし、義理の弟の方もルーカスを兄として慕ってくれた。
 

 ルーカスが新しい母と弟に戸惑いながらも慣れてきた頃、いきなりラウドーリがルーカスに牙を剥いた。

 「兄さん、やめてよ」

 ルーカスがラウドーリと庭で遊んでいると、いきなりラウドーリが泣き出した。
 何が起こったのか理解できないまま、ルーカスがラウドーリの方へ手を伸ばすとラウドーリはその手を払い、乳母の方へと駆け寄った。
 そしてルーカスを指差しながら乳母に何かを囁く。
 乳母は驚いた顔を見せてから顔をしかめた。


 その日の夜、ルーカスは公爵からひどい叱責を受けた。
 ルーカスがラウドーリに暴言を吐き暴力を振るった、と。

 ルーカスは身に覚えのない事をいきなり言われ、戸惑うばかりだった。


 それからもラウドーリはルーカスに罪を着せた。
 最初の頃は弁明しようと奮闘していたルーカスだったが、それも意味がないと分かると自分の意見を言わないようになっていた。

 目つきが悪く無愛想な兄と、物腰柔らかな何事にも秀でている義理弟おとうと
 みんなが信じるのは後者の方だった。
 そんな事実がルーカスに追い打ちをかけ、彼はせめて正しさだけは失わないようにと雁字搦がんじがらめになっていった。


 そんなルーカスの唯一の心の支えはクマのぬいぐるみの「マール」だった。
 アビゲイルが病気にふせる前に街へ行き買って貰ったそれは彼の一番の宝物だった。

 誰も信じてくれなくても、両親の関心が全てラウドーリに向いていたとしても、マールを眺めるだけで寂しさは埋まった。


 ルーカスがいつものようにマールを眺めようと引き出しを開けると、そこには何も
 他の引き出し、ベッドの下、あらゆる所を探し回った。

 しかし、見つからない。

 ルーカスは焦燥感が募り、ラウドーリの部屋を訪ねた。

 「どうしたの?兄さん」

 息を切らしているルーカスを嘲笑うかのような声色。
 ルーカスがぬいぐるみを見なかったかと尋ねると、ラウドーリは口角を吊り上げてこういった。

 「要らないでしょ」

 ルーカスがラウドーリに掴みかかる。
 
 「お前……!」
 「てかさあ、いい加減に気づいたら?」

 ラウドーリがルーカスの耳元で囁いた。


 「あんたの味方なんていないんだよ」


 廊下で短い悲鳴が上がった。
 ルーカスが使用人たちによって取りおさえられる。



 ルーカスは少し、ほんの少し期待していた。
 父が自分のことを信じてくれはしないだろうか、と。
 自分は人を貶めず正しく生きていたはずだ、とも思っていた。

 しかし彼が父親から聞いた言葉は冷たい一言だった。


 「貴族学院に入り次第、家を出なさい」
 





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