ローザリンデの第二の人生

梨丸

文字の大きさ
4 / 11
一章:さようなら、私の愛したひと

彼にとっての女神様

しおりを挟む
枯れかけたネモフィラを撫でながら魔力を注いでいくと、変色した花に色が戻ってきた。

クロツィア邸はリーゼグリュン王国の東端の辺境に建っている。ここ一帯の性質上、草木は一瞬にして枯れてしまうのだ。クロツィア家は結界を張ってその性質を中和させたものの、やはりというべきか植物はちゃんと世話をしていても1週間ほどでしおれてしまう。なんでこんなに不便なところに住居を建てたんだ……という思いがないでもないが、それには触れないでおこう。

初めてこの庭を見たときは本当に驚いた。せっかく広大な土地があるというのに草木は一本も生えていなかったここは、庭と言っていいのかと悩むほど。そこで毎月一度来て食料を売っていく行商人に声をかけ、白樺の苗などを買い取って【ローザリンデ・ワールド】(私が今命名した)を作り上げたのだ。ちょうどいいことに魔力は有り余っていたし、枯れた草木を再生させるなんて朝飯前のことだった。

結婚当初からラインハルト様は私のすることに興味を持っていなかったので庭を改造しても何も言われなかった。あの時の私は彼に綺麗な花を見せたい、という今では考えられない純粋すぎる気持ちで庭を作っていたのだが彼がそれに気づくはずもなく。

花壇全部の花に魔力を注ぎ込んだのを確認した後、不意に上を見る。
私の目に映ったのはラインハルト様の後ろ姿。小さくため息をついて手元に視線を戻す。書斎がある2階の真下にあるここに花壇を設置したのは、彼の姿を少しでも見ていられるから。彼は私と顔を合わせることさえ嫌ったから、彼をゆっくりと見ることができるのはこの場所だけだった。

……花壇の場所変えようかな。

本気でそう考えた時、私を呼ぶ明るい声が耳に届いた。

「奥様、お客様ですよ!」

「ああ、トム。ありがとう」

トムは私に懐いてくれている使用人の一人だ。彼のふわふわとした柔らかな栗色の髪と垂れた目は幼さを感じさせる。姉弟きょうだいでこの家に仕えていて、両親の代わりに自分を養ってくれていた姉には感謝しかないと言っていた。

「とても美しい人でしたよ!あんな人初めて見ました!まるで女神様みたいで……」

「素直だね」

「え、いや、その……えへへ」

茶化すと彼は照れくさそうに笑った。流石お年頃の男の子。初々しい。

応接間に入るとトムの言う──フィニルタお兄様が革椅子から勢いよく立ち上がった。

「ロザリー!」

確かに、中性的な顔立ちのお兄様は女に見える……のかもしれない。
女の人だったら紹介してあげたのにな、なんて考えながら椅子に腰掛ける。

「お兄様、わざわざ来てくれてありがとうございます」

「僕の愛する妹のためだ。兄が一肌脱がなくてどうする。で、話したいことって?」

お兄様がテーブルの上で手を組み、怪しい笑みを浮かべる。
私も最上級の笑みを返した。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

貴方が私を嫌う理由

柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。 その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。 カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。 ――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。 幼馴染であり、次期公爵であるクリス。 二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。 長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。 実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。 もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。 クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。 だからリリーは、耐えた。 未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。 しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。 クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。 リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。 ――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。 ――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。 真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

あなた方の愛が「真実の愛」だと、証明してください

こじまき
恋愛
【全3話】公爵令嬢ツェツィーリアは、婚約者である公爵令息レオポルドから「真実の愛を見つけたから婚約破棄してほしい」と言われてしまう。「そう言われては、私は身を引くしかありませんわね。ただし最低限の礼儀として、あなた方の愛が本当に真実の愛だと証明していただけますか?」

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

処理中です...