【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり

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6 求める心

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─ラズ視点─

ミレイアが目を覚まし、自分の名前を呼んでくれたことに胸の奥が震えるほど安堵した。

長く閉ざされていた扉が、ようやく軋みながらも開いたような感覚。

彼女の瞳が再び光を宿したこと、それだけで世界が少し色を取り戻したように思えた。

「……お帰り、ミレイア。」

そう言った自分の声が、ひどく優しく響いたことにも気づいていた。

ミレイアは弱々しく微笑み、枯れた声で「ラズ……」と名を呼んだ。


その一言が、胸にしみた。


自分はずっと、彼女のそばにいると誓っていたのだ。

あの日、婚約の儀で取るはずだったの手を振り解き、目の前の彼女の手を取ったではないか。


それなのに──
ミレイアの手を握るたびに、心がどこか空を切っているような感覚が拭えなかった。

「ラズ・・・?」

ミレイアの声に我に返る。
その澄んだ青い瞳は、疑うことを知らない光でこちらを見ていた。

笑わなければならないと思った。
優しく、穏やかに、何の疑念も見せずに。

「……大丈夫だ。もう何も心配いらない。
ずっとそばにいるよ」



そう言いながら、脳裏にふと浮かんだのは──


灰緑の瞳の物静かな彼女。

風に揺れる栗色の髪。
ひどく寂しげな背中。

それでも、こちらを見たときの瞳には、
確かな灯が宿っていた。

(どうして、今、思い出す……?)


ミレイアのそばにいるべき自分が、
なぜリリエルを想起しているのか。
理解できなかった。
だが心の奥で、何かが軋む音がした。


~~~~~~~~~


リリエルとの婚約の話が出たのは
自分が十四のときだった。

当時、幼なじみとして互いに無理なく受け入れられる関係にあった。
静かな彼女は、まるで森の奥に咲く小さな白花のようで、そばにいると不思議と心が落ち着いた。

「ラズ様、無理をなさらず……」

そう言って、剣の稽古帰りの泥だらけの自分を叱りもせず、そっと布を差し出してくれる。
その優しさが、当たり前になっていた。


けれど、ある日。
ミレイアが十三になった頃だったか──

王都の学園に入学したというミレイアをたまたま目にする機会があった。

学園の制服を身にまとい、友人達と談笑しながら廊下を歩く姿は、幼い頃とはまるで違っていた。

もともと顔立ちは整っていた。
表情がくるくる変わり、明るく笑い、話すミレイアに、リリエルにはない強い光が、彼女の周囲を包んでいた。


「……新入生のミレイア嬢だよ。お前の婚約者の妹だろう?抜群に可愛いよな。」

隣に居た友人が呟く。

ラズは、リリエルの背中を必死に追っかける小さな姿にしか記憶が無かった。

「小さい時も可愛かったか?」

友人は興味津々に話を続ける。

「姉は学園に通ってないんだろう?
家庭教師で勉強してるんだって?」


ミレイアに見惚れてしまい
友人との会話をどう終わらせたか
記憶になかった。

それから、学園では自然とミレイアを追うようになっていた。


そんなある日、学園の食堂でミレイアと
再会した。

「ラズ?」

薔薇のような大輪の笑みを浮かべて、
淑女らしからぬ歩調でミレイアはラズの元に現れた。手には昼食に注文したパスタセットをのせたトレーを持っている。

1人昼食を摂っていたラズの隣の席にミレイアは腰掛けた。

「席が無くて困っていたの。一緒に良いかしら?」

良いと返事をする前に座り、屈託なく笑うミレイアに思わず笑ってしまった。

「良いも何も。もう座っているだろう?」
「ふふっ」

ミレイアも笑い出す。


これをきっかけに、時間が合えば学園で
一緒に昼食を摂るようになった。
お互いに友人を交える時もあれば、2人の時もあった。


月に一度はリリエルとお茶会があった。
リリエルと会えば、静かな笑顔に癒され、心は静まる。

だが、ミレイアを見ると、鼓動が速くなる。その「違い」を、当時の自分は明確に言葉にできなかった。


やがてリリエルとの婚約の話が本格的になり、お互いの将来の事を考え始めると堅苦しく思うようになった。
心の距離が少しずつ開き始めたころ──

「ミレイアと会う機会が増えたのも、ただの偶然だった」と思おうとしていた。

だが、本当は──
心が向かう先を、どこかで知っていたのだ。

リリエルに向けていた“安心”が、
ミレイアに向ける“ときめき”にすり替わっていたことを。

気づかないふりをしたまま。





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