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8 父の思い
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ミレイアが意識を取り戻し、目覚ましい回復を見せていた頃、
「……修道院など、絶対に許さん」
父、キンバリーの怒声が、重く部屋に響いた。
セイラン家の書斎。
いつもは静謐なこの場所が、今夜ばかりは荒れていた。
机の上の書類が乱れ、キンバリーの額には青筋が立っている。
リリエルは、深く頭を下げたまま、顔を上げなかった。
「リリエルが何を思っているかなど、分かっているつもりだ。だが、それとこれとは話が違う」
「……お父様」
「お前は家の長女だ。ラズ殿と婚姻し、いずれセイラン家を継ぐ者だ。
そんなお前が、修道院に入るなど……周囲の目も、信用も、すべて失うことになるのだぞ!」
言葉の端々ににじむのは、怒りよりも焦りと不安。
この父は、無骨だが決して娘を押さえつける人ではなかった。
だからこそ、今の彼の動揺が痛いほど伝わってくる。
リリエルは静かに顔を上げた。
「……私は、ラズ様の隣に立つ資格を、失ったと思っています」
キンバリーの目が見開かれる。
「……どういう意味だ?」
「ラズ様のお心には、私は居ません」
「何が言いたい?」
「ラズ様は・・・」
リリエルは一呼吸し続ける
「私は……ミレイアが輝く姿を、ずっと見てきました。
彼女が光であるなら、私は影です。
隣に並んでしまえば、きっとその光を濁してしまう」
「バカを言うな!」
父が思わず机を叩いた音に、背後で見守っていた母が小さく息を呑む。
「お前は私たちの娘だ。お前には、お前の美しさと価値がある。
それを“光”だ“影”だと、勝手に決めつけて……それがどれほど親不孝か、分かっているのか!」
リリエルの胸に、ずしりと重たいものがのしかかった。
「……親不孝をしている自覚は、あります。
本当に申し訳ありません。」
「ラズ殿の心にはミレイアがいる、と言いたいのだな?」
キンバリーは瞳を閉じ、ミレイアが意識不明だった日々の事を思い出した。
(・・・ミレイアの下に毎日、訪れていた。決して2人きりでは無かったが、ラズ殿は私達夫婦と一緒に回復を共に願ってくれていた)
娘が生死を彷徨う事態に、家は正常さを失っていた。当時は何とも思わなかったが
今にしてみれば、姉の婚約者が姉を差しておいて、妹の下に付き添うのもおかしな話だったと、思う。
キンバリーは顔を顰める。
そんな父を見つめながらリリエルは続ける。
「ラズ様はミレイアを求めています。
ミレイアもラズ様を好きだと思うのです。
私は・・・──わたしは、2人の幸せを祈りたいのです」
言葉を失ったように父が黙った。
リリエルは続ける。
「これは逃げではありません。
静かな場所で、自分の心と向き合いながら、祈りの中で暮らしたい。
それが、私の望む生き方です」
父の拳が震えていた。
何かを言いかけて、また飲み込んだ。
長い沈黙のあと、かすれた声が落ちる。
「……ラズは……お前のことを、何も言ってはおらんのか?」
リリエルはゆっくりと首を振った。
「……彼は、ミレイアへの気持ちを自覚し、
私との婚約関係を悩んでいます。
一度、私の口から婚約解消したいとお伝えしたことがあります。」
涙を見せることはなかった。
けれど、その言葉には、削られた心がにじんでいた。
「・・・っ、なんて勝手なことを。ラズ殿は何と言ったのだ。」
「まだ結論は出せないと。」
キンバリーは、深く椅子に沈んだ。
その肩が、静かに揺れている。
深いため息がもれる。
「……娘を、幸せにしたかっただけなんだ……」
その言葉に、リリエルの目に涙が滲んだ。
近づいて、父の大きな手にそっと自分の手を重ねる。
「お父様……私を思ってくださり、ありがとうございます。
わたしは、あなたとお母様の娘で、本当に幸せです」
父は、瞳を揺らしながらリリエルを見つめ、引き結んでいた口元を再び開け、リリエルに向けて一言、告げた。
「……修道院など、絶対に許さん」
父、キンバリーの怒声が、重く部屋に響いた。
セイラン家の書斎。
いつもは静謐なこの場所が、今夜ばかりは荒れていた。
机の上の書類が乱れ、キンバリーの額には青筋が立っている。
リリエルは、深く頭を下げたまま、顔を上げなかった。
「リリエルが何を思っているかなど、分かっているつもりだ。だが、それとこれとは話が違う」
「……お父様」
「お前は家の長女だ。ラズ殿と婚姻し、いずれセイラン家を継ぐ者だ。
そんなお前が、修道院に入るなど……周囲の目も、信用も、すべて失うことになるのだぞ!」
言葉の端々ににじむのは、怒りよりも焦りと不安。
この父は、無骨だが決して娘を押さえつける人ではなかった。
だからこそ、今の彼の動揺が痛いほど伝わってくる。
リリエルは静かに顔を上げた。
「……私は、ラズ様の隣に立つ資格を、失ったと思っています」
キンバリーの目が見開かれる。
「……どういう意味だ?」
「ラズ様のお心には、私は居ません」
「何が言いたい?」
「ラズ様は・・・」
リリエルは一呼吸し続ける
「私は……ミレイアが輝く姿を、ずっと見てきました。
彼女が光であるなら、私は影です。
隣に並んでしまえば、きっとその光を濁してしまう」
「バカを言うな!」
父が思わず机を叩いた音に、背後で見守っていた母が小さく息を呑む。
「お前は私たちの娘だ。お前には、お前の美しさと価値がある。
それを“光”だ“影”だと、勝手に決めつけて……それがどれほど親不孝か、分かっているのか!」
リリエルの胸に、ずしりと重たいものがのしかかった。
「……親不孝をしている自覚は、あります。
本当に申し訳ありません。」
「ラズ殿の心にはミレイアがいる、と言いたいのだな?」
キンバリーは瞳を閉じ、ミレイアが意識不明だった日々の事を思い出した。
(・・・ミレイアの下に毎日、訪れていた。決して2人きりでは無かったが、ラズ殿は私達夫婦と一緒に回復を共に願ってくれていた)
娘が生死を彷徨う事態に、家は正常さを失っていた。当時は何とも思わなかったが
今にしてみれば、姉の婚約者が姉を差しておいて、妹の下に付き添うのもおかしな話だったと、思う。
キンバリーは顔を顰める。
そんな父を見つめながらリリエルは続ける。
「ラズ様はミレイアを求めています。
ミレイアもラズ様を好きだと思うのです。
私は・・・──わたしは、2人の幸せを祈りたいのです」
言葉を失ったように父が黙った。
リリエルは続ける。
「これは逃げではありません。
静かな場所で、自分の心と向き合いながら、祈りの中で暮らしたい。
それが、私の望む生き方です」
父の拳が震えていた。
何かを言いかけて、また飲み込んだ。
長い沈黙のあと、かすれた声が落ちる。
「……ラズは……お前のことを、何も言ってはおらんのか?」
リリエルはゆっくりと首を振った。
「……彼は、ミレイアへの気持ちを自覚し、
私との婚約関係を悩んでいます。
一度、私の口から婚約解消したいとお伝えしたことがあります。」
涙を見せることはなかった。
けれど、その言葉には、削られた心がにじんでいた。
「・・・っ、なんて勝手なことを。ラズ殿は何と言ったのだ。」
「まだ結論は出せないと。」
キンバリーは、深く椅子に沈んだ。
その肩が、静かに揺れている。
深いため息がもれる。
「……娘を、幸せにしたかっただけなんだ……」
その言葉に、リリエルの目に涙が滲んだ。
近づいて、父の大きな手にそっと自分の手を重ねる。
「お父様……私を思ってくださり、ありがとうございます。
わたしは、あなたとお母様の娘で、本当に幸せです」
父は、瞳を揺らしながらリリエルを見つめ、引き結んでいた口元を再び開け、リリエルに向けて一言、告げた。
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