【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり

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15 孤独な王子

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 ユリアン・ノア・セルヴァンは、セルヴァン王国の第五王子として生を受けた。
 その立場は、栄光とは程遠いものだった。

 長兄は次期国王として育てられ、次兄は軍の中枢に。三番目の兄は外交を任され、四番目の兄は大国の第一王女の婿として大国に渡った。そして五番目――ユリアンは、どこにも収まらなかった。

「おまえは予備スペアだ」
 それが父王の口癖だった。

 たとえ誰かが倒れても、その穴を埋められるように、幼い頃よりスペアという立場を叩き込まれてきた。
 だが、その予備スペアが必要とされることはなかった。

 ユリアンは物心がついた時から、殺伐とした家族の中で「誰でもない者」として生きていた。
 兄たちは互いに牽制し合い、そこには「家族」と呼べる温もりはなかった。

 ユリアンは、常に他の誰かの「駒」としての価値を測られ、成長するにつれて、誰かの陰謀に巻き込まれるようになっていった。

 「」であるはずなのに、王族という立場であるが故、反王家の陣営から毒を盛られたこともある。暗殺者が夜中に寝所に忍び込んだこともある。


 王家からは無いもののように扱われるが
 反対勢力の者達からは命を狙われる。


 そんな日々が彼にとって“日常”となった。



「どうしてそんなに平然としていられるんだ?」


 幼い頃から乳母兄弟として兄弟より兄弟らしく共に育った忠実な侍従がそう問うたとき、彼は無表情で答えた。


「生きても、死んでも、どうせ誰も気づかないから」

 そう――彼は、心のどこかで、死に場所を探していたのかもしれなかった。
 目立たず、波風を立てず、ただ静かに消えていければいいと。


 そんな折、北の国境地帯で戦火が上がった。
 王都に届いたのは、「兵が足りない」という嘆願書。

 ユリアンは、自ら志願した。

 第五王子の名を捨て、ただの一兵士として戦場に赴くことを。

「どうせ死ぬのなら、誰かのために剣を振るって死にたい」

 それが彼の唯一の願いだった。

 戦場は、王宮の駆け引きとは違って、単純だった。

 剣を振るう。
 仲間を助ける。
 飢える者に食を分ける。

 そこに身分も血筋も関係なかった。

 生死が交錯する極限の中で、初めて「自分が役に立った」と感じる瞬間があった。
 人に名前を呼ばれ、感謝されることが、こんなにも嬉しいとは知らなかった。

 だが、戦が終わった後――

 彼が救った少年兵が、勝利を祝う夜に酒に酔った兵士に刺殺されるのを目の当たりにした。

「これが……現実か……」

 虚しさが心を覆った。

 命を救っても、また別の理不尽がそれを奪う。
 戦場は清濁入り混じった混沌だった。

 彼は悟る。

 自分は、剣で人を救いたいわけではなかった。
 誰かを助けたいのではなく、誰かと生きたかったのだと。

「死に場所を探してきたけれど、生きる意味を見つけたいと思ってしまった」

 それは、敗北にも似た感情だった。

 その後、彼は軍を抜け、王都にも戻らず、姿を消した。
 王宮では、第五王子ユリアンは“戦死”したことにし、彼の存在を静かに葬った。

 こうして、ユリアン・ノア・セルヴァンはこの世から“いなくなり”――
 ただの旅人、ユリアンとなった。

 名もなき人々の間をさまよう日々。
 病人に薬草を分け、迷子を送り届け、老女の薪割りを手伝う。
 誰にも縛られず、誰にも命じられず、ただ“その日を生きる”ことに意味を見出していく。

 そして、リリエルに出会った。
 彼女の穏やかで静かな瞳に、自分の内側の“澱”が洗われていくような気がした。

 彼はまだ、それが何なのか分かっていない。

 けれど――

「この人の隣で、明日も生きていたい」

 そう思った時、初めて彼は、本当の意味で「生きたい」と願った。
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