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37プロポーズ
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静かな夜の修道院。
中庭の花壇には、月明かりを受けて白い花がそっと咲いていた。
その前に、リリエルは立っていた。
風に揺れる修道服の裾。
どこか落ち着かない面持ちで、扉の方を振り返るたびに、小さく祈りをささげている。
足音が、砂利を踏む。
「……ユリアンさん!」
扉の向こうから現れたその人影を、夢ではないかと疑うほどに見つめたあと、リリエルは駆け寄った。
「おかえりなさい・・・」
彼女の瞳が、夜の光を反射して潤んでいた。
ユリアンは、黙って頷いた。
リリエルの肩に手を添え、その存在を確かめるように、ゆっくりと抱きしめた。
「……遅くなって、すまなかった」
「お怪我は……ありませんか」
「この通り、かすり傷ひとつないよ」
「……ああ、よかった……」
リリエルは心の底から安堵し、胸に手を当てるように息を吐いた。
その微笑みを見つめながら、ユリアンは一歩、彼女の前に進み出た。
喉が詰まるような緊張に、ほんの少し声が震えた。
「……リリエル。君に……話があるんだ」
「……はい」
「ずっと、伝えたいと思ってた。けれど……今じゃなければ駄目な気がして」
彼は視線を下げ、拳を握りしめた。次の言葉を言うまでに、小さな沈黙が生まれる。
やがて――ゆっくりと、まっすぐに彼女を見つめた。
「君を……心から、愛している」
リリエルの瞳が大きく揺れる。胸に手を当てていた指先が、きゅっと布をつかんだ。
「ユリアンさん……」
「君の笑顔が好きだ。祈るように優しい声も、真っ直ぐな心も……全部が、愛おしい」
彼は息を整え、言葉を選ぶように続けた。
「……この先も、君の隣にいたい。朝が来るたび、君に『おはよう』と言える日々を過ごしたい」
リリエルは小さく震えながらも、目を逸らさずに彼を見返す。
ユリアンは両手でそっと彼女の肩に触れ、さらに深く想いを告げる。
「君と、歩いていきたい。悲しみも喜びも、どんな未来も――共に越えていきたい」
静かに、まっすぐな声で。
「リリエル。どうか、俺と……結婚してくれないか」
月の下、静かな夜の中庭。
その言葉は風に溶けることなく、リリエルの胸に、真っ直ぐに届いた。
(ユリアンさんが・・・わたしのこと)
(うれしい)
――けれど。
リリエルの心の奥に、ふと、小さな棘が疼いた。
(……私は、神に仕える身。修道女として、生きる道を選んできたのに)
彼に出会う前から――
リリエルは神への誓いを胸に、この修道院で静かに日々を重ねてきた。
届かぬ想いに胸を痛め、答えのない問いに迷いながら、それでも祈ることだけはやめなかった。
祈りは、荒れた心に平穏を与え、傷ついた魂をそっと包んでくれた。
誰にも届かなくてもいい。ただ、自分が何者であるのかを見失わぬようにと、神にすがった。
自分は小さな存在だった。
けれど神のもとにある限り、誰かの悲しみに手を差し伸べることができると信じた。
それが、リリエルのすべてだった。
けれど――
ユリアンと出会ってから、胸の奥に小さな火が灯った。
それは祈りとは少し違う、ささやかで、人間らしい願いだった。
誰かに必要とされたい。
誰かの唯一になりたい。
誰かと同じ明日を生きたい――
そして、その“誰か”は、たったひとり。
ユリアンだった。
彼の傍にいたい。
けれど、彼を愛するということは、修道女としての自分を捨てることになるのではないか。
そんな思いが胸の奥からふつふつと湧きあがる。
リリエルは目を伏せ、ユリアンの胸に額を預けたまま、小さな声で告げた。
「……私は、神に身を捧げてきた修道女です。……結婚して良いのか、いけないのか……答えが、すぐには出せなくて……」
ユリアンは驚いたように目を見開き、そして、穏やかに彼女の肩を抱き直した。
「……リリエル、君は誰よりも神を愛してる。それは、これからも変わらないだろう?」
リリエルは、そっと頷いた。
「それは……きっと、変わりません。でも――」
「ならば、その愛の中に、俺を含めてくれないか。君の信仰も、優しさも、強さも、全部含めて……君自身を、俺は愛してるんだ」
ユリアンの言葉は、柔らかく、けれど強く、リリエルの迷いに寄り添うようだった。
沈黙が、二人の間を包む。
やがてリリエルは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、まだ迷いの名残があった。けれど――それ以上に、確かな決意の光が宿っていた。
「……私は、あなたと生きたい。でも……この道を選ぶには、院長様にきちんとお話をして、神と向き合う時間も必要です」
「もちろんだ。急かすつもりはない。君が、心から俺を選んでくれる日まで……待ってる」
その言葉に、リリエルはふっと笑った。
涙を拭ったあと、彼の胸にそっと手を置く。
二人の影が、寄り添うようにひとつになった。
月光に照らされる中庭の片隅で、
それぞれの誓いが、静かに交わされた――。
中庭の花壇には、月明かりを受けて白い花がそっと咲いていた。
その前に、リリエルは立っていた。
風に揺れる修道服の裾。
どこか落ち着かない面持ちで、扉の方を振り返るたびに、小さく祈りをささげている。
足音が、砂利を踏む。
「……ユリアンさん!」
扉の向こうから現れたその人影を、夢ではないかと疑うほどに見つめたあと、リリエルは駆け寄った。
「おかえりなさい・・・」
彼女の瞳が、夜の光を反射して潤んでいた。
ユリアンは、黙って頷いた。
リリエルの肩に手を添え、その存在を確かめるように、ゆっくりと抱きしめた。
「……遅くなって、すまなかった」
「お怪我は……ありませんか」
「この通り、かすり傷ひとつないよ」
「……ああ、よかった……」
リリエルは心の底から安堵し、胸に手を当てるように息を吐いた。
その微笑みを見つめながら、ユリアンは一歩、彼女の前に進み出た。
喉が詰まるような緊張に、ほんの少し声が震えた。
「……リリエル。君に……話があるんだ」
「……はい」
「ずっと、伝えたいと思ってた。けれど……今じゃなければ駄目な気がして」
彼は視線を下げ、拳を握りしめた。次の言葉を言うまでに、小さな沈黙が生まれる。
やがて――ゆっくりと、まっすぐに彼女を見つめた。
「君を……心から、愛している」
リリエルの瞳が大きく揺れる。胸に手を当てていた指先が、きゅっと布をつかんだ。
「ユリアンさん……」
「君の笑顔が好きだ。祈るように優しい声も、真っ直ぐな心も……全部が、愛おしい」
彼は息を整え、言葉を選ぶように続けた。
「……この先も、君の隣にいたい。朝が来るたび、君に『おはよう』と言える日々を過ごしたい」
リリエルは小さく震えながらも、目を逸らさずに彼を見返す。
ユリアンは両手でそっと彼女の肩に触れ、さらに深く想いを告げる。
「君と、歩いていきたい。悲しみも喜びも、どんな未来も――共に越えていきたい」
静かに、まっすぐな声で。
「リリエル。どうか、俺と……結婚してくれないか」
月の下、静かな夜の中庭。
その言葉は風に溶けることなく、リリエルの胸に、真っ直ぐに届いた。
(ユリアンさんが・・・わたしのこと)
(うれしい)
――けれど。
リリエルの心の奥に、ふと、小さな棘が疼いた。
(……私は、神に仕える身。修道女として、生きる道を選んできたのに)
彼に出会う前から――
リリエルは神への誓いを胸に、この修道院で静かに日々を重ねてきた。
届かぬ想いに胸を痛め、答えのない問いに迷いながら、それでも祈ることだけはやめなかった。
祈りは、荒れた心に平穏を与え、傷ついた魂をそっと包んでくれた。
誰にも届かなくてもいい。ただ、自分が何者であるのかを見失わぬようにと、神にすがった。
自分は小さな存在だった。
けれど神のもとにある限り、誰かの悲しみに手を差し伸べることができると信じた。
それが、リリエルのすべてだった。
けれど――
ユリアンと出会ってから、胸の奥に小さな火が灯った。
それは祈りとは少し違う、ささやかで、人間らしい願いだった。
誰かに必要とされたい。
誰かの唯一になりたい。
誰かと同じ明日を生きたい――
そして、その“誰か”は、たったひとり。
ユリアンだった。
彼の傍にいたい。
けれど、彼を愛するということは、修道女としての自分を捨てることになるのではないか。
そんな思いが胸の奥からふつふつと湧きあがる。
リリエルは目を伏せ、ユリアンの胸に額を預けたまま、小さな声で告げた。
「……私は、神に身を捧げてきた修道女です。……結婚して良いのか、いけないのか……答えが、すぐには出せなくて……」
ユリアンは驚いたように目を見開き、そして、穏やかに彼女の肩を抱き直した。
「……リリエル、君は誰よりも神を愛してる。それは、これからも変わらないだろう?」
リリエルは、そっと頷いた。
「それは……きっと、変わりません。でも――」
「ならば、その愛の中に、俺を含めてくれないか。君の信仰も、優しさも、強さも、全部含めて……君自身を、俺は愛してるんだ」
ユリアンの言葉は、柔らかく、けれど強く、リリエルの迷いに寄り添うようだった。
沈黙が、二人の間を包む。
やがてリリエルは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、まだ迷いの名残があった。けれど――それ以上に、確かな決意の光が宿っていた。
「……私は、あなたと生きたい。でも……この道を選ぶには、院長様にきちんとお話をして、神と向き合う時間も必要です」
「もちろんだ。急かすつもりはない。君が、心から俺を選んでくれる日まで……待ってる」
その言葉に、リリエルはふっと笑った。
涙を拭ったあと、彼の胸にそっと手を置く。
二人の影が、寄り添うようにひとつになった。
月光に照らされる中庭の片隅で、
それぞれの誓いが、静かに交わされた――。
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