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38 誓い
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修道院の静謐な聖堂。
蝋燭の灯がほのかに揺れる夜、リリエルは重厚な扉の前に立っていた。
深く息を吸い、胸元の十字架に手を添えて、静かに目を閉じる。
祈りのように、告白のように、彼女は心を整えていた。
──今夜、自分のすべてを語る。
礼拝堂の奥、院長室の扉を叩く音が静寂を破った。
「失礼いたします……。少し、お話してもよろしいでしょうか」
「もちろんです。入りなさい、リリエル」
銀髪を結い上げた老修道女――院長は、変わらぬ優しさをたたえた瞳で彼女を迎え入れる。
その微笑みは、まるで母のようだった。
リリエルは緊張に指を絡めながら椅子に腰を下ろし、深く頭を垂れる。
そして、震える声で口を開いた。
「……私、ある人に、想いを伝えられました。
とても、尊くて……大切な方です。
でも、その方を愛することで、神に背くのではないかと……怖いのです」
院長は静かに頷き、真っすぐにリリエルを見つめた。
その眼差しは、揺るぎない慈しみに満ちていた。
「その方は、あなたのことを心から想っているのですね?」
「はい……。私が修道女であることも理解してくれていて……
それでも、心を止めることはできないと……そう、言ってくださいました」
リリエルの目に、揺れる光が映る。
それは蝋燭のせいではなく、彼女の中で溢れ出す迷いと真剣さが交差する、祈るような想いだった。
院長はしばし目を閉じ、静かに息を整えた。
そして――
「リリエル。あなたが修道女であっても、人を愛してはいけないわけではありません。
むしろ、深く誰かを想うことで、祈りはより豊かに、真実に近づいていくのです」
「でも、私は誓いを……神との誓いを破ってしまうことに……」
「誓いとは、確かに尊いものです。
ですが――神は、あなたの弱さも、迷いも、すべてをご存知です。
あなたが誰かを愛し、誰かを救いたいと願ったその心を、神は何よりも尊ばれるでしょう」
そう言って、院長はそっとリリエルの手を取った。
その手のぬくもりは、長年にわたり祈りを捧げ続けた人の静かな強さを宿していた。
「この道を離れるということは、信仰を捨てることではありません。
神を知ったあなたが、自ら選び取る人生。
そこに愛と祈りがあるならば、あなたはいつも神と共に歩んでいるのです」
リリエルの瞳が、涙で揺れた。
「あなたは――その人と、生涯を共に歩みたいと願いますか?」
しばらくの沈黙のあと、リリエルは涙を浮かべながら、はっきりと頷いた。
「……はい。心から、そう願っています」
その瞬間、院長の表情がほころんだ。
まるで娘の門出を祝うように、優しく、柔らかく。
「ならば、リリエル。私はあなたを祝福しましょう。
これまで、神に仕え、清く、強く生きてきたあなたが――
誰かを愛し、共に生きたいと願う日が来たことを、心から誇りに思います」
リリエルは、こらえきれずに涙をこぼした。
「……ありがとうございます……院長さま。
この修道院があったから、私は……ユリアン様と出会えました」
「それは、あなたがここで祈り、歩み、愛を知ったからこそ、彼はあなたに惹かれたのですよ。
誇りなさい。これは、神が与えた“答え”なのです」
院長はそっと微笑み、リリエルの涙を親指でぬぐった。
その夜、聖堂に響いたのは――
祝福と、旅立ちの静かな祈り。
リリエルはもう迷わない。
この胸に宿る愛と共に、神と共に、新たな一歩を踏み出していくのだから。
~~~~~~~~~~~
(ユリアン視点)
リリエルにプロポーズする前ーーー
修道院の庭先で、薄明かりのなかユリアンは拳を握り締めていた。
リリエルが自分のプロポーズを受け入れるかどうか、不安と期待が交錯する。
「愛している」と胸の奥から湧き上がる感情は確かだ。
だが、彼女は修道女としての誓いを立てている。彼女の人生、信仰、未来――それらを奪い、壊してしまうのではないか。
「俺は…彼女を幸せにできるのか?」
その問いは何度も自分を責めた。
自分の欲望で、彼女の信仰を汚すことなど絶対にしてはいけない。
しかし、リリエルの微笑みが、あの透き通った瞳が、彼を呼んでいる。
(君がいなければ、生きる意味すら分からなくなる)
だからこそ、ユリアンは決意を固める。
彼女の信仰も、彼女自身も尊重し、共に歩む道を模索しようと。
「リリエル、俺は君を幸せにする。
どんなに困難でも、君の信念も夢も、絶対に守る」
握った拳から少しだけ力が抜け、静かに微笑んだ。
「たとえ世界が敵でも、俺は君を守り抜く」
胸に深く秘めた愛と責任。
それが、ユリアンの生きる理由であり、彼女への誓いだった。
蝋燭の灯がほのかに揺れる夜、リリエルは重厚な扉の前に立っていた。
深く息を吸い、胸元の十字架に手を添えて、静かに目を閉じる。
祈りのように、告白のように、彼女は心を整えていた。
──今夜、自分のすべてを語る。
礼拝堂の奥、院長室の扉を叩く音が静寂を破った。
「失礼いたします……。少し、お話してもよろしいでしょうか」
「もちろんです。入りなさい、リリエル」
銀髪を結い上げた老修道女――院長は、変わらぬ優しさをたたえた瞳で彼女を迎え入れる。
その微笑みは、まるで母のようだった。
リリエルは緊張に指を絡めながら椅子に腰を下ろし、深く頭を垂れる。
そして、震える声で口を開いた。
「……私、ある人に、想いを伝えられました。
とても、尊くて……大切な方です。
でも、その方を愛することで、神に背くのではないかと……怖いのです」
院長は静かに頷き、真っすぐにリリエルを見つめた。
その眼差しは、揺るぎない慈しみに満ちていた。
「その方は、あなたのことを心から想っているのですね?」
「はい……。私が修道女であることも理解してくれていて……
それでも、心を止めることはできないと……そう、言ってくださいました」
リリエルの目に、揺れる光が映る。
それは蝋燭のせいではなく、彼女の中で溢れ出す迷いと真剣さが交差する、祈るような想いだった。
院長はしばし目を閉じ、静かに息を整えた。
そして――
「リリエル。あなたが修道女であっても、人を愛してはいけないわけではありません。
むしろ、深く誰かを想うことで、祈りはより豊かに、真実に近づいていくのです」
「でも、私は誓いを……神との誓いを破ってしまうことに……」
「誓いとは、確かに尊いものです。
ですが――神は、あなたの弱さも、迷いも、すべてをご存知です。
あなたが誰かを愛し、誰かを救いたいと願ったその心を、神は何よりも尊ばれるでしょう」
そう言って、院長はそっとリリエルの手を取った。
その手のぬくもりは、長年にわたり祈りを捧げ続けた人の静かな強さを宿していた。
「この道を離れるということは、信仰を捨てることではありません。
神を知ったあなたが、自ら選び取る人生。
そこに愛と祈りがあるならば、あなたはいつも神と共に歩んでいるのです」
リリエルの瞳が、涙で揺れた。
「あなたは――その人と、生涯を共に歩みたいと願いますか?」
しばらくの沈黙のあと、リリエルは涙を浮かべながら、はっきりと頷いた。
「……はい。心から、そう願っています」
その瞬間、院長の表情がほころんだ。
まるで娘の門出を祝うように、優しく、柔らかく。
「ならば、リリエル。私はあなたを祝福しましょう。
これまで、神に仕え、清く、強く生きてきたあなたが――
誰かを愛し、共に生きたいと願う日が来たことを、心から誇りに思います」
リリエルは、こらえきれずに涙をこぼした。
「……ありがとうございます……院長さま。
この修道院があったから、私は……ユリアン様と出会えました」
「それは、あなたがここで祈り、歩み、愛を知ったからこそ、彼はあなたに惹かれたのですよ。
誇りなさい。これは、神が与えた“答え”なのです」
院長はそっと微笑み、リリエルの涙を親指でぬぐった。
その夜、聖堂に響いたのは――
祝福と、旅立ちの静かな祈り。
リリエルはもう迷わない。
この胸に宿る愛と共に、神と共に、新たな一歩を踏み出していくのだから。
~~~~~~~~~~~
(ユリアン視点)
リリエルにプロポーズする前ーーー
修道院の庭先で、薄明かりのなかユリアンは拳を握り締めていた。
リリエルが自分のプロポーズを受け入れるかどうか、不安と期待が交錯する。
「愛している」と胸の奥から湧き上がる感情は確かだ。
だが、彼女は修道女としての誓いを立てている。彼女の人生、信仰、未来――それらを奪い、壊してしまうのではないか。
「俺は…彼女を幸せにできるのか?」
その問いは何度も自分を責めた。
自分の欲望で、彼女の信仰を汚すことなど絶対にしてはいけない。
しかし、リリエルの微笑みが、あの透き通った瞳が、彼を呼んでいる。
(君がいなければ、生きる意味すら分からなくなる)
だからこそ、ユリアンは決意を固める。
彼女の信仰も、彼女自身も尊重し、共に歩む道を模索しようと。
「リリエル、俺は君を幸せにする。
どんなに困難でも、君の信念も夢も、絶対に守る」
握った拳から少しだけ力が抜け、静かに微笑んだ。
「たとえ世界が敵でも、俺は君を守り抜く」
胸に深く秘めた愛と責任。
それが、ユリアンの生きる理由であり、彼女への誓いだった。
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