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43 おまけ②
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(リリエル視点)
中庭から戻ったリリエルは、まだほんのりと温かい焼き菓子の残りを手に、回廊を歩いていた。
(……ユリアンさん、やっぱり変)
さっきの会話を思い出すだけで、自然と笑みが浮かぶ。
おでこから頬にかけて、明らかに真っ赤だった。
まるで風邪でも引いたみたいに、目も泳いでいたし、言葉もどこかちぐはぐで――
(わたし、何か変なこと言ったかしら?)
首をかしげながらも、心の奥がふわりと温かい。
思えば、ユリアンがこんなに分かりやすく取り乱すのは珍しい。
彼はどんな時も冷静で、毅然としていて、どこか一歩引いたところから人を見ている印象があったのに……
今朝の彼はまるで、少年のようだった。
(……まさか、わたしのせい?)
リリエルは立ち止まり、自分の胸に手を当てた。
鼓動が、思ったよりも速く打っている。
(違う、そうじゃない。だって、わたしは……)
“神に仕える身”
口にしなくても、それはリリエルにとって揺るぎない誓いだった。
けれど――
(でも……)
ふと、逃走中のあの夜のことが脳裏に蘇る。
森を抜けて、焚き火のそばで寄り添ったあのとき。ユリアンが――言葉もなく、そっと唇を重ねてきた、あの一瞬。
「……」
今も、その温度は確かに残っている。
唇に、ではない。
胸の奥、もっと深く、触れてはいけないところに。
(夢だったのかな……? でも、違う。確かに、あれは――)
足元の小石を見つめながら、リリエルは赤くなった頬を両手でそっと包んだ。
(ユリアンさん……あんなに優しい人が、誰かにそうしたいって、思ってくれたのなら……)
(嬉しいと思ってしまった私は、もう、修道女失格なのかもしれない)
けれど、罪悪感よりも、胸の奥に広がっていくのは――柔らかく甘い、初恋のような痛みだった。
~~~~~~~~~~~~~
翌日――。
修道院の庭に咲いた白い花を摘んでいたリリエルは、ふと気配を感じて振り向いた。
そこには、例のごとく不自然な距離を保ちながら、妙によそよそしいユリアンの姿があった。
「……ユリアンさん?」
「っ、あ、いや……通りかかっただけだ」
明らかに通りかかっただけじゃない。
リリエルは花かごを抱えながら、くすっと笑った。
「お花、見に来たんですか?」
「いや、べつに……」
俯いたまま視線を泳がせるユリアンは、いつになく不器用だった。
そしてその仕草が、なんだか愛おしく思えてしまって――リリエルは小さく深呼吸をした。
「……ユリアンさん。最近、少し、変ですよね?」
「っ」
ユリアンの肩がびくりと揺れた。
返事がない。けれど、否定もしない。
リリエルは一歩だけ、彼に近づく。
「わたし、なにかしましたか?」
「違う、リリエル。……君は、なにも悪くない」
やっと返ってきた言葉は、思いのほか真剣で。
そして――どこか、苦しそうだった。
「じゃあ、どうして……そんなに避けるんですか? わたし、ちゃんと話がしたいです。逃げないで、向き合ってほしいんです」
風が、リリエルの髪を揺らす。
彼女は、まっすぐにユリアンを見ていた。
その瞳の強さに、ユリアンは一瞬、呼吸を止めた。
けれど――
「……あの夜のことを、覚えているか?」
低く、押し殺した声で、ユリアンが問う。
リリエルは小さく頷いた。
「……夢かと思いました。でも、違いますよね」
ユリアンは目を伏せたまま、何も言わない。まるで、自分を責めるように。
「ユリアンさん……」
「――ごめん」
突然、そう言ってユリアンは深く頭を下げた。
「君を、困らせた。嫌な気持ちにさせた。俺は君の立場をわかっていたのに……欲に負けた」
「違います」
リリエルの言葉が、はっきりと空気を裂いた。
「・・・私の気持ち、
勝手に決めつけられるとかなしいです」
ユリアンの目が、見開かれる。
「……リリエル」
「まだ、わたしには迷いがあります。神様と交わした誓いも、軽いものじゃない。だけど――」
リリエルは、そっと微笑んだ。
「……逃げずに、ちゃんと考えたいんです。ユリアンさんのこと。これからのこと、全部」
ユリアンは言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。胸にあふれる想いが、涙に変わってしまいそうだった。
「ありがとう……リリエル」
風がやさしく二人を包み込む。
それはまるで――神すらも、二人の未来をそっと見守っているかのようだった。
中庭から戻ったリリエルは、まだほんのりと温かい焼き菓子の残りを手に、回廊を歩いていた。
(……ユリアンさん、やっぱり変)
さっきの会話を思い出すだけで、自然と笑みが浮かぶ。
おでこから頬にかけて、明らかに真っ赤だった。
まるで風邪でも引いたみたいに、目も泳いでいたし、言葉もどこかちぐはぐで――
(わたし、何か変なこと言ったかしら?)
首をかしげながらも、心の奥がふわりと温かい。
思えば、ユリアンがこんなに分かりやすく取り乱すのは珍しい。
彼はどんな時も冷静で、毅然としていて、どこか一歩引いたところから人を見ている印象があったのに……
今朝の彼はまるで、少年のようだった。
(……まさか、わたしのせい?)
リリエルは立ち止まり、自分の胸に手を当てた。
鼓動が、思ったよりも速く打っている。
(違う、そうじゃない。だって、わたしは……)
“神に仕える身”
口にしなくても、それはリリエルにとって揺るぎない誓いだった。
けれど――
(でも……)
ふと、逃走中のあの夜のことが脳裏に蘇る。
森を抜けて、焚き火のそばで寄り添ったあのとき。ユリアンが――言葉もなく、そっと唇を重ねてきた、あの一瞬。
「……」
今も、その温度は確かに残っている。
唇に、ではない。
胸の奥、もっと深く、触れてはいけないところに。
(夢だったのかな……? でも、違う。確かに、あれは――)
足元の小石を見つめながら、リリエルは赤くなった頬を両手でそっと包んだ。
(ユリアンさん……あんなに優しい人が、誰かにそうしたいって、思ってくれたのなら……)
(嬉しいと思ってしまった私は、もう、修道女失格なのかもしれない)
けれど、罪悪感よりも、胸の奥に広がっていくのは――柔らかく甘い、初恋のような痛みだった。
~~~~~~~~~~~~~
翌日――。
修道院の庭に咲いた白い花を摘んでいたリリエルは、ふと気配を感じて振り向いた。
そこには、例のごとく不自然な距離を保ちながら、妙によそよそしいユリアンの姿があった。
「……ユリアンさん?」
「っ、あ、いや……通りかかっただけだ」
明らかに通りかかっただけじゃない。
リリエルは花かごを抱えながら、くすっと笑った。
「お花、見に来たんですか?」
「いや、べつに……」
俯いたまま視線を泳がせるユリアンは、いつになく不器用だった。
そしてその仕草が、なんだか愛おしく思えてしまって――リリエルは小さく深呼吸をした。
「……ユリアンさん。最近、少し、変ですよね?」
「っ」
ユリアンの肩がびくりと揺れた。
返事がない。けれど、否定もしない。
リリエルは一歩だけ、彼に近づく。
「わたし、なにかしましたか?」
「違う、リリエル。……君は、なにも悪くない」
やっと返ってきた言葉は、思いのほか真剣で。
そして――どこか、苦しそうだった。
「じゃあ、どうして……そんなに避けるんですか? わたし、ちゃんと話がしたいです。逃げないで、向き合ってほしいんです」
風が、リリエルの髪を揺らす。
彼女は、まっすぐにユリアンを見ていた。
その瞳の強さに、ユリアンは一瞬、呼吸を止めた。
けれど――
「……あの夜のことを、覚えているか?」
低く、押し殺した声で、ユリアンが問う。
リリエルは小さく頷いた。
「……夢かと思いました。でも、違いますよね」
ユリアンは目を伏せたまま、何も言わない。まるで、自分を責めるように。
「ユリアンさん……」
「――ごめん」
突然、そう言ってユリアンは深く頭を下げた。
「君を、困らせた。嫌な気持ちにさせた。俺は君の立場をわかっていたのに……欲に負けた」
「違います」
リリエルの言葉が、はっきりと空気を裂いた。
「・・・私の気持ち、
勝手に決めつけられるとかなしいです」
ユリアンの目が、見開かれる。
「……リリエル」
「まだ、わたしには迷いがあります。神様と交わした誓いも、軽いものじゃない。だけど――」
リリエルは、そっと微笑んだ。
「……逃げずに、ちゃんと考えたいんです。ユリアンさんのこと。これからのこと、全部」
ユリアンは言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。胸にあふれる想いが、涙に変わってしまいそうだった。
「ありがとう……リリエル」
風がやさしく二人を包み込む。
それはまるで――神すらも、二人の未来をそっと見守っているかのようだった。
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