草原の武人~異説三国志高順伝~

惟宗正史

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第十一話

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 高順は黒竜に乗って戦場を駆ける。頭に黄巾を巻いた賊徒は立ちふさがった端から高順の大刀の餌食となっていた。

 黄巾討伐の将軍であった董卓は敗戦を理由に更迭され、代わりに赴任してきたのが各地の黄巾を平定していた皇甫嵩という壮年の男性であった。

 漢に忠誠心の溢れる皇甫嵩は、董卓によって劣勢となっていた官軍を立て直し、再び広宗まで押し戻すことに成功していた。

 呂布率いる并州騎馬隊はその精強さを皇甫嵩に認められており、最前線で武勇を振るうことになっている。しかし、それを呂布達は不満に思わない。逆に戦場にあって戦えないことが不満になっていたのだ。

「しかし、凄まじい数ですな」

 曹性の不敵な笑みにもどこか呆れが出ている。

 それも当然だ。黄巾をいくら斬っても戦が終わらないのだ。高順も百を超えたあたりから数えるのを辞めており、呂布に至っては一人で千人近くを斬っているとまで官軍で噂されている。

 流石に一人で千人はないだろうが、呂布の武勇ならばできそうだと考えているのが并州騎馬隊の総意である。

 黄巾の数に呆れながらも黒騎兵の突撃は止まらない。目の前に立ち塞がる黄巾は冀州の大地に骸を晒す結果となっている。

 高順率いる黒騎兵は左翼から突入し右翼へと抜けだす、別の地点からはほぼ同時に呂布の赤騎兵と張遼の青騎兵も飛び出してくる。

 三騎馬隊は馬足を緩めて丘を駆け上る。そして黄巾の追撃がないことを確認してから部隊を整える。

「曹性、被害は?」

「いませんよ。農民崩れに殺られるほど柔じゃありませんて」

 高順の言葉に血のついた槍を振り払いながら曹性が答える。黄巾は数が多いが戦闘訓練などろくに受けていない兵士ばかりである。その程度に落とされるほど黒騎兵は甘くはない。

 燃えるような夕焼けが大地を照らし、凄惨な戦場に溢れている血と合わさって赤い大地となっている。

 それを眺めながら高順は大刀を一つの黄巾の部隊を示す。

「おそらくは大将の部隊を見つけた。首を落としに行くぞ」

「承知。呂布殿と張遼には?」

「放っておけ。二人共勝手に獲物を見つけるだろう」

「ですな。やれやれ、こんな数だけ多い戦を三日も続けられては堪ったものじゃありませんな」

「我ら全員が思っていることだ、曹性」

 曹性の呟きに高順は軽く嗜める。

 ただ数だけが多く、狩りでもするかのような気軽さで敵が死んでいく戦は并州兵にとって苦痛でしかない。それが皇甫嵩に大将が変わってから三日も続けたのだ。

 だが、ようやく黄巾の大将らしき男を発見した。その首を落とせばここの戦は終わりである。

「吶喊」

 高順の言葉に黒騎兵は鬨を挙げて答えて丘から逆落としに黄巾に突入する。少し遅れて呂布の赤騎兵と張遼の青騎兵も続く。

 黄巾の歩兵の首を飛ばし、槍を斬りはらい、立ち塞がった三騎を纏めて両断しながら高順は突き進む。立ち塞がる者は全て殺す。それだけを考えて高順は黒竜を駆る。

 そして敵の本陣らしき拠点に黒騎兵は突入する。

「張梁様、お逃げ」

 黒騎兵の前に立ち塞がり、大将を逃がそうとした兵士は最後まで言い切れることなく曹性と高雅達黒騎兵によって殺戮される。それを横目に見ながら高順はゆっくりと敵の大将へと近づいた。

「黄巾の大将だな?」

「おのれ……官軍の狗め……この国が終わっていることを何故理解せんのかっ」

「そんなもの興味もない。大人しく死ぬがいい、黄巾の大将よ」

「私は人公将軍張梁。貴様ら官軍の狗には殺されぬわ」

張梁の最後の抵抗も高順は顔色を変えずにその首を飛ばす。そして飛ばされた首を曹性が槍で突き刺して高く掲げながら大音声で叫んだ。

「黄巾大将の張梁。并州騎馬隊黒騎兵高順が討ち取った」

 その叫びに黄巾は大きく崩れ始め、官軍は余勢をかって追撃を始めた。

「我々はどうします?」

「やめておくとしよう。これ以上弱者を振るう武を私は持っていない」

「同感ですな」

 高順の言葉に曹性は槍を掲げながら首肯する。その槍先には張梁の憤怒の表情の首が突き刺さっているのであった。
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